2022年11月15日号
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artscapeレビュー

トヨダヒトシ「映像日記/スライドショー」

2021年07月01日号

会期:2021/06/04〜06/06、06/10〜06/13

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

トヨダヒトシは1990年に渡米してニューヨークに住み、93年から自作をスライドショーの形で発表するようになった。当初は駐車場、教会、公園といったパブリック・スペースに幕と映写機を持ち込み、自分で映写機を操作しながら、30分〜1時間半ほどスライドを上映した。2000年からは日本でもスライドショーを開催するようになり、美術館、ギャラリーだけでなく、野外スペースなどでも上映を続けた。今回のふげん社での企画は、2020年12月、2021年3月に続くもので、「The Wind’s Path」(2002−2021)、「NAZUNA」(2004−2021)、そしてタイトル未定の「新作」(2020-2021)が上映された。また6月5日、10日、11日には「6月の6人の6つの光」と題して、トヨダを含む川島小鳥、川瀬一絵、黒川武彦、元田敬三(齋藤陽道も参加予定だったがキャンセル)による短編スライドショー上映会を開催した。

そのうち6月6日の「NAZUNA」、6月13日の「新作」の上映を見ることができた。どちらも、トヨダのスライドショーの魅力を堪能することができる完成度の高い作品である。「NAZUNA」は「9・11」の前後のニューヨークの日々から開始され、その秋に日本に帰国してからの一年余りが描かれる。アーミッシュの村を訪ねたり、山奥の禅寺に滞在したりする旅の合間に、母親の病が悪化し、死に至るまでの日々が綴られていく。「新作」は、2011年にニューヨークで東日本大震災の一報を聞くことから始まる。高校時代に旅して強く印象づけられた、三陸地方の沿岸部が大きな被害を受けたことを知り、帰国して気仙沼、陸前高田などでボランティア活動をする日々の写真群で構成されている。

どちらも純粋な「映像日記」であり、トヨダが見たもの、体験した出来事が、彼の思考や感慨を「言葉」として挟み込みながら、淡々と流れていくだけだ。音楽や効果音は一切使われず、観客はスライドを送る機械音と冷却用のファンの音だけを聞きながら、ひたすら明滅する映像を見続けなければならない。にもかかわらず、その禁欲的としかいいようのない視覚的体験を通じて、われわれはとても豊かな、充実した時間を過ごしたように感じる。知らず知らずのうちに、彼の視点と同化し、一体化していくのだ。

それは彼のスライドショーの構成の仕方に、長い時間をかけて積み上げてきた独特の原理が貫かれているからだろう。たとえば、トヨダの東京の家の飼い犬「タビ」の犬小屋、食卓に並ぶ料理、新聞記事やTVの場面、渋谷のスクランブル交差点、母親が入院している病院の建物などの映像が、何度も繰り返し出てくる。最初は何気なく見過ごしているのだが、そのうち、トヨダがそれらの映像に込めた意味が、問わず語りに浮かび上がってくる。「虫」も重要な登場人物だ。白菜についていた青虫や、セミとその抜け殻などは、「9・11」や「3・11」のような社会的な出来事とは別次元の、普遍的、宇宙的といえそうな時空間へと見る者を誘い込む。「言葉」の働きも大事だ。長すぎず、短すぎず、説明過剰にならないように抑制されつつ、詩的なふくらみを持つ「言葉」を、トヨダは実に効果的に使っている。

タイトル未定の「新作」は、トヨダにとって重要な作品になるだろう。そこで描かれた、東北地方でのボランティア活動の経験によって、「小さい街で、地域の人たちとともに暮らしていきたい」という思いが生まれ、20年以上に及んだニューヨークの生活を切り上げて、日本に帰国することになったからだ。いまは神奈川県湯河原町で暮らすトヨダの私生活も、今後、スライドショーとして目にする機会もあるのではないだろうか。


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