2022年10月01日号
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artscapeレビュー

コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画

2021年07月01日号

会期:2021/04/24~2021/06/27

東京ステーションギャラリー[東京都]

これは見たい、と思ったら緊急事態宣言ですぐに休館してしまい、再開しても予約するのがウザくてなかなか行けず、ようやく見ることができた待望の福富太郎コレクション展。なぜそんなに見たかったのかというと、似たような人気作家ばかり集める近ごろの無個性なプチコレクターと違い、また美術史に沿って満遍なく集めようとする無趣味な大コレクターとも違って、福富は自分の好みがはっきりしていたからだ。しかもその趣味がほぼ一貫して「悪趣味」といえるほど際立っていたからでもある。

展示は約80点で、前半は鏑木清方を中心とする美人画に占められている。ここらへんはあまり興味ないが、それでも人魚を描いてベックリンとの類似を指摘された清方の《妖魚》をはじめ、日劇ミュージックホールの楽屋に取材した伊東深水の《戸外は春雨》、北野恒富の心中もの《道行》など、裏街道をいく異色作が目につく。もっと興味深いのは後半、明治初期の油絵からだ。高橋由一の初期の肖像画《小幡耳休之肖像》を皮切りに、水墨画の龍を油絵に翻案した川村清雄の《蛟龍天に昇る》、ワーグマン、メンぺス、ビゴーら滞日外国人の描いた日本の風物の絵など、マージナルな作品が並ぶ。

そして最後にくるのが戦争画関連。美人画とは対極にありそうなジャンルだが、彼自身の原点ともいうべき戦時期の絵だけに、これは好みで集めたというより、後世に伝えるためになかば義務として収集・保管してきたのだろう。日露戦争で戦死した夫の遺品に涙ぐむ満谷国四郎の《軍人の妻》、阿部合成の代表作《見送る人々》にもつながる不気味な《顔》、藤田嗣治の戦争関連画としては最初期の銃後の風景を描いた《千人針》、中国の都市に戦闘機の巨大な影を落とす向井潤吉の《影(蘇州上空にて)》、藤田と並んで戦争画の大家といわれた宮本三郎と中村研一による2点の若い航空兵の肖像画など、珍しい作品が多い。ちなみにこれらのうち第2次大戦時の作品96点は、福富の死後一括して東京都現代美術館に寄贈された。このことからも、福富にとってこれらの戦争画がほかのコレクションとは違った意味を持っていたことがうかがえる。

この戦争画を除けば、コレクションの大半は風俗画といえるが、福富はこれらを「物語画」として楽しんでいたのではないか。彼は1点1点の作品のなかにそれぞれ人情話を見出すのが好きだったようで、つまり絵を物語画として読み解いていた。それだけでなく、作品を購入するときのプロセスやエピソードもひとつのドラマとして語っていた。だから彼のコレクションは、福富自身の言説込みで「福富太郎コレクション」という大きな物語を形成していたのだ。こんなコレクター、ほかにいるだろうか。ところで、戦争画以外のコレクションは今後どうなるのか、その行方を知りたいところだ。

2021/06/16(水)(村田真)

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