artscapeレビュー

松江泰治「ギャゼティアCC」

2023年02月15日号

会期:2023/01/20~2023/03/07

キヤノンギャラリーS[東京都]

松江泰治は1990年代から写真を通じての「地名収集」の作業を続けている。近年は銀塩フィルムの大判カメラから高精細のデジタルカメラへと撮影機材を切り替え、より鮮鋭かつ広がりをもつ作品を発表するようになった。今回、東京・品川のキヤノンギャラリーSで開催された個展では、主に自然の景観を撮影した「gazetteer」(地名事典)シリーズと、都市にカメラを向けた「CC」(シティ・コード)シリーズから、大判プリンターで大画面に引き伸ばした26点が展示されていた。

以前の松江の作品は、高い場所からかなり距離を置いて俯瞰撮影し、全面にピントを合わせたものがほとんどだった。そのことによって、土地の起伏や建物や街路が織りなすモザイク状の空間が、ありえないほどの精度で見えてくる。ところが、今回展示された作品でいえば、ヒマワリ畑を撮影した《LOMBARDY 32827》、砂浜のペンギンの群れを捉えた《SOUTH AFRICA 27747》、会場の船舶群にカメラを向けた《CAMPANIA 28133》のように、被写体の幅が大きく広がり、その距離感もフレキシブルになってきている。エルサレムの嘆きの壁で祈る人々の姿を撮影した「CC」シリーズの《JRS 53845》など、これまではとても考えられないような作品といえるだろう。

つまり「地名」という抽象的な概念に加えて、現実の世界のあり方と人々の生の営みを捉えることへの関心が、彼のなかでより強まっているということではないだろうか。その成果が作品の選択・構成にしっかりと形をとっていた。なお、写真展に合わせて、作品262点をおさめた作品集『gazetteerCC』が赤々舎から刊行されている。


公式サイト:https://canon.jp/personal/experience/gallery/archive/matsue-gazetteer

2023/01/27(金)(飯沢耕太郎)

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