artscapeレビュー

安珠「ある少女の哲学」

2023年02月15日号

会期:2023/01/18~2023/02/12

CHANEL NEXUS HALL[東京都]

安珠の写真家としての世界が花開きつつある。2018年7月~8月にキヤノンギャラリーSで開催した「ビューティフルトゥモロウ~少年少女の世界」で、彼女の真骨頂というべき演劇的な要素をたっぷりと含み込んだ物語世界を開示してみせたのだが、今回の展示ではそこにさらに奥行きと深みが加わってきている。

「少女」というテーマは、安珠にとって運命的な必然というべきもので、「見えないものこそが大事であり、それを見たい」というアーティストとしての希求のすべてを込めた、テンションの高いパフォーマンスを、完璧な技術力で作品化していた。「少女」は単純にイノセントで儚くも美しい存在としてではなく、社会的なプレッシャーに自ら抗い、自由を求めて羽ばたこうとする強さを秘めた姿で描き出されている。『不思議の国のアリス』『赤ずきん』『青い鳥』などの物語、あるいはジョン・エヴァレット・ミレーの《オフィーリア》などの絵画を下敷きにしつつ、それらを換骨奪胎してイマジネーションをふくらませていった。天使の羽根のようなリボンのイメージを随所にちりばめた会場構成も見事な出来栄えである。

「写真千枚以上」をつなぎ合わせたという映像作品(音楽:細野晴臣)も含めて、完成度の高いシリーズとして仕上がっていたが、まだどこか最後までやりきっていないという印象も残る。「少女」の造形が、西欧の白人のそれに寄りかかりすぎているのがやや気になった。この方向性をさらに進めていけば、死、病、エロス、狂気といった要素すらも取り込んだ、より広がりのある「少女」像も視野に入ってくるのではないだろうか。


公式サイト:https://nexushall.chanel.com/program/2023/anju/

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