artscapeレビュー

交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー

2023年02月15日号

会期:2022/12/17~2023/03/05

東京都庭園美術館[東京都]

モダンデザインとひと口に言っても、その概念は幅広く、人々が抱くイメージもまた種々様々である。本展は1910年代から30年代までの欧州と日本にスポットを当てた、モダンデザインの黎明期を探る展覧会だ。一般にモダンデザインというと、バウハウスや建築家のル・コルビュジエに代表されるような合理主義かつ機能主義的な傾向を連想しがちだが、実はそれだけでは括れない動きが当時にはあった。意外に思えるが、大衆消費社会が進んだことで、つねに新しくあるために装飾することに価値が置かれたというのだ。この「機能」と「装飾」という二項対立をはらんだモダンデザインに、本展は切り込んでいる。

そもそもモダンデザインの父と称されるウィリアム・モリスが、壁紙をはじめとする装飾美術をきわめたことが、アーツ・アンド・クラフツ運動へとつながった。本展でキーとなるのは、そのアーツ・アンド・クラフツ運動の影響を受けたウィーン工房である。同工房は生活全般における「総合芸術」を標榜したことから、機能的でありながら、優れた装飾性を兼ね備えたことで知られていた。また同工房と交流のあったファッションデザイナーのポール・ポワレや、影響を受けたとされる建築家・室内装飾家のロベール・マレ=ステヴァン、また家具デザイナーのフランシス・ジュールダンらの作品を展示し、当時の装飾的モダニズムを紹介している。同時に伝えるのは、欧州中で作家やデザイナーらが互いに影響し合った事実だ。


ヨーゼフ・ホフマン《センターピース・ボウル》(1924)個人蔵[画像提供:東京都庭園美術館]


本展を観ると、結局、装飾は何のためにあるのかという永遠の疑問に行き着く。当時からすでに消費を促すための価値付けとして装飾が用いられていたようだが、この大量消費社会自体を見直すべきときに来たいま、装飾の役割をもう一歩踏み込んで考えなくてはならないのだろう。結局、人間はロボットではないのだから、身の回りのものに機能ばかりを求めたとしても、所詮、味気のない暮らしになってしまう。おそらく感動や生きる喜び、心の豊かさ、また暮らしのリズムなどを与えてくれるのが装飾なのだ。当時、合理主義かつ機能主義的な傾向がありながらも、人間の内なる欲求として彼らが装飾を求めた様子がひしと伝わった。


ポール・ポワレ《ガーデン・パーティ・ドレス》(1911)島根県立石見美術館[画像提供:東京都庭園美術館]


アンドレ・グルー(デザイン)、マリー・ローランサン(絵付)、アドルフ・シャノー(制作)《椅子》(1924)東京都庭園美術館[画像提供:東京都庭園美術館]



公式サイト:https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/221217-230305_ModernSynchronized.html

2023/01/27(金)(杉江あこ)

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