artscapeレビュー
香川裕樹「置いたものを見る方法」
2023年06月15日号
会期:2023/05/03~2023/05/27
NEST[大阪府]
関西で活動するアーティストやクリエイターによって2020年4月に立ち上げられた「Birds」。これまではインタビューサイトとしてオンライン上で活動してきたが、今年2月に拠点として「NEST(ネスト)」を大阪の寺田町にオープンした。この新スペースでの初の展覧会が本展である。NESTは活動方針として、ただ展示するための場所ではなく、作品制作のための実験的な試みを行なう環境づくりを目指している。本展は、アーティストの香川裕樹が既製品や日用品を会場に持ち込み、試行錯誤しながら組み立てていく搬入期間を約1ヶ月間設けて開催された。
ビルの一室にある会場に入ると、空間をほぼ占めるように、祭壇のような、あるいは建築マケットのような構造体が置かれている。構成要素はすべて、100均ショップやホームセンターで買える、規格化された安価な大量生産品だ。作家の手の痕跡を加えず、規格サイズの既製品だけを用いることで、どれだけ自由を創出できるか。一方、規格化された単位の反復、厳格な左右対称性、グリッド構造は、「モノを並べる行為」が「秩序の創出」でもあることを可視化する。「画像のコピーを上下左右に反転させた写真」が加わることで、ユニットの反復と左右対称性という秩序の構築が、脅迫観念的なまでに強調される。裏側へ回ると、「白いグリッドの金網」の上に、その画像が額装して提示され、グリッドが増殖的に複製されていく。金網を組み立てた空間の中にひとつずつ置かれた白いキャップは、均質な檻に閉じ込められた匿名的な個人の比喩のようだ。
規格化されたモノ、それらで構築された規格化された生。構造物の全体は、巨大なショッピングモールの建築マケットと、その内部を満たす商品陳列棚を二重化して重ね合わせたように見えてくる。正面の壁を飾る写真は巨大な広告ディスプレイ、床に規則的に配置された人工観葉植物の列は植え込みの緑地帯、そして向かって左側の遊具のような構造物は、付属するアミューズメント施設だろうか。いずれも、「消費のために捧げられた祭壇」の周囲を彩り、補強する装置だ。これから建設される場所を均質化していくこの「消費の祭壇」のマケットは、だが、よく見ると結束バンドやクリップなどで「仮止め」された状態にすぎない。その脆弱性は、あるいは希望なのかもしれない。
公式サイト:https://birdseatbread.jp/kagawa-soloexhibition/
2023/05/27(土)(高嶋慈)