artscapeレビュー
楊哲一「山水─あるいはフロンティアの消滅」
2023年06月15日号
会期:2023/05/16~2023/05/28
楊哲一は1981年、台湾宣蘭県出身の写真家。中国・河北省出身で、東京在住の田凱の企画で開催された本展は、彼の日本での初個展となる。
楊は台湾、中国、東南アジアの石灰岩採掘現場を、4×5インチの大判カメラを使って、モノクロームで撮影する仕事を続けてきた。今回は同シリーズから8点、さらに、中国奥地のオルドスの廃棄されたコンクリートの住宅群をカラー写真で撮影した1点、およびその映像作品も展示していた。
楊の関心が、現代社会における産業化(工業化)の最前線の状況を浮かび上がらせることにあるのは明らかだろう。興味深いのは、その画面構成に中国・宋時代の山水画の様式を取り入れようとしていることである。そのもくろみはかなり成功していて、どちらかといえば即物的で、殺風景とさえいえる鉱山の眺めが、ピトレスクな山水画として再構築され、奇妙な味わいの「風景画」が成立していた。同じような試みは、1980年代以降に畠山直哉によっても試みられているのだが、畠山が微妙に変化していく大気や光の描写に向かったのに対して、楊はハードエッジな輪郭線を強調している。力のある作家なので、彼のほかのシリーズもぜひ見てみたい。
公式サイト:https://tppg.jp/trans-regional-landscape/
2023/05/19(金)(飯沢耕太郎)