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さばかれえぬ私へ Tokyo Contemporary Art Award 2021-2023 受賞記念展

2023年07月01日号

会期:2023/03/18~2023/06/18

東京都現代美術館[東京都]

Tokyo Contemporary Art Awardの受賞記念展。志賀理江子と竹内公太の2人展だが、ここでは竹内の作品について書く。出品作品は計6点だが、大きく分ければ、第2次大戦末期に日本軍がアメリカに向けて飛ばした「風船爆弾」に関する作品5点と、現在竹内が住むいわき市の古い劇場を解体する過程を撮影した《三凾座の解体》(2013)の2つ。

「風船爆弾」は、日本軍が直径10メートルほどの紙製の風船に焼夷弾をぶら下げてアメリカ本土に向けて飛ばした兵器で、約9,300発を放ったものの、北米大陸に到達したのは数百発だという。戦果は僅かだったが、大陸間をまたいで攻撃した史上初の兵器になった。大陸間弾道ミサイルならぬ、大陸間風船爆弾。なにせ風まかせだからね。そういえば中国の偵察気球はこれを真似したんだろうか。ともあれ、日本は敗戦後これらの資料の多くを処分したため、竹内はアメリカ国立公文書館に残された当時の機密文書を調査。そこに記されていた風船の目撃地点や着地点20数ヶ所を実際に訪ね歩き、5点の作品にした。

そのなかでもっとも目立つのが、風船爆弾の着地点を撮影した約300点の写真をつなぎ合わせた直径10メートルの風船だ。見ていると、風船が徐々に膨らんでいき、ちょうど半球状になったところで天井に届き、その後しぼんでいく。題して《地面のためいき》(2022)。膨らむと、巨大な展示室が小さく見えるほど風船爆弾が大きかったことがわかるが、にもかかわらず戦果らしい戦果をもたらさなかったのは、落下地点が人のほとんど住まない荒野であったからであり、そもそもアメリカ大陸がデカすぎたからにほかならない。美術作品としては巨大であっても、兵器としては失笑を禁じえないほど非力だったのだ。この違いはそのまま、国家の文化予算と防衛予算の規模の違いに比例する。



竹内公太《地面のためいき》


もう1点の《三凾座の解体》は、いわき市にあった映画館が徐々に解体されていく現場を、観客席の側から定点観測的に撮ってつなぎ合わせた映像作品。映し出されている現場はまさにスクリーンがあった場所なので、観客はかつて客席のあった位置から解体シーンを見ていることになる。と思ったら、スクリーンの下にベンチに座ってこちらを見る人たちの姿も映っており、それがわれわれ自身であることがわかる。いまわれわれはベンチに座って解体現場の映像を見ているが、そのわれわれの姿を隠し撮った映像がスクリーンに二重写しにされ、否応なく現場に引き込まれてしまうのだ。このように竹内の作品はどれも鏡を見るように自分に跳ね返ってくる。



竹内公太《三凾座の解体》



公式サイト:https://www.tokyocontemporaryartaward.jp/exhibition/exhibition_2021_2023.html

2023/06/04(日)(村田真)

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