artscapeレビュー
カタログ&ブックス | 2023年7月1日号[テーマ:「縫う」を通して、未知の時空間を行き来させてくれる5冊]
2023年07月01日号
東欧の国々の民俗衣装や日用品、近現代の作家の刺繍作品やオートクチュール──「刺繍」を軸に、多様な時代・地域の手仕事に触れられる「糸で描く物語 刺繍と、絵と、ファッションと。」(新潟県立万代島美術館で2023年7月17日まで開催/25日より静岡県立美術館に巡回)に関連し、縫う行為から人の生活と思考を紐解く本を紹介します。
今月のテーマ:
「縫う」を通して、未知の時空間を行き来させてくれる5冊
1冊目:イーラーショシュ トランシルヴァニアの伝統刺繡
Point
「糸で描く物語」展でも展示されている、トランシルヴァニア(現ルーマニア)で長い歴史をもつ刺繍「イーラショシュ」。本展出品者であり伝統手芸研究家の谷崎聖子氏が、図案描きや刺繍するおばあさんなど、この伝統刺繍に向き合う人々に現地取材したインタビューからは、遠い地での生活における実感が見えてきます。
2冊目:京の美の継承
Point
所変わって、京都を舞台に連綿と続く伝統工芸に取り組む現代の職人たちの経験知に光を当てるインタビュー集。蒔絵、陶芸、着物や仏像など本書に登場するさまざまな分野の匠のなかで、優美・繊細な京繍(きょうぬい)の作家として祇園祭の胴掛類の復元にも取り組む樹田紅陽氏の作品には「糸で描く物語」展でも出会えます。
3冊目:コーヒーのあわからうまれたこねこ
Point
布の端切れやキッチンクロス、刺繍などが組み合わさり生まれた、チェコのイラストレーター(同じく本展にも出品)による絵本。生まれた家のにおいを求めてさすらう子猫や町の風景を描く、ひと針ひと針のゆるく素朴な線を目で追っていくうちに心が思わずほころび、本を閉じる頃には美しい色彩と物語に魅了されているはず。
4冊目:武井武雄手芸図案集 刺繡で蘇る童画の世界
Point
昭和を代表する童画家・武井武雄が刺繍の図案集も手掛けていたことを初めて知る人は多いかもしれません。1928年出版の『武井武雄手藝圖案集』掲載の図案から20点を、現代の刺繍作家・大塚あや子氏が作品化。初版時のページも掲載されており、子に日々向き合う親に向けた武井のエールも文章の端々から感じられます。
5冊目:ラインズ 線の文化史
Point
社会人類学者ティム・インゴルドによる、「線」の存在を手がかりに社会と文化の営みを読み解く一冊。歩く、織る、観察する、物語る、歌う、書く、描く──これらを「線に沿って進む運動」と捉え直し、織物や刺繍もその一部として例示。図案をトレースする刺繍の手つきの先に、未知の世界が拡がり見えてくるかもしれません。
糸で描く物語 刺繍と、絵と、ファッションと。
新潟会場
会期:2023年5月20日(土)~7月17日(月・祝)
会場:新潟県立万代島美術館(新潟県新潟市中央区万代島5-1 朱鷺メッセ内万代島ビル5階)
公式サイト:https://banbi.pref.niigata.lg.jp/exhibition/ito/
静岡会場
会期:2023年7月25日(火)〜2023年9月18日(月)
会場:静岡県立美術館(静岡県静岡市駿河区谷田53-2)
公式サイト:https://spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/exhibition/detail/95
[展覧会図録]
「糸で描く物語 刺繍と、絵と、ファッションと。」公式図録
◎新潟県立万代島美術館/静岡県立美術館の各ミュージアムショップにて各館会期中に販売。
2023/07/01(土)(artscape編集部)