artscapeレビュー
「架空の都市の創りかた」(「アニメ背景美術に描かれた都市」展オープニングフォーラム)
2023年07月01日号
会期:2023/06/16
谷口吉郎・吉生記念金沢建築館[石川県]
筆者が監修で関わった「アニメ背景美術に描かれた都市」展は、1980年代末から2000年代初頭まで、すなわち手描きしかなかった頃からCGが導入される黎明期までのSF系アニメの6作品における建築や都市の表現に注目した企画である。内覧会の後に開催されたオープニングフォーラム「架空の都市の創りかた」では、ゲストに2名の美術監督を招き、本展を企画したシュテファン・リーケレスと明貫紘子の両氏がコーディネイターを務めた。通常、こうしたイベントは登壇者が喋った後、ほとんど質問が出ないのだが、早々と質問の時間に切り換えたところ、参加者からの挙手が絶えない神回となり、まさに公開討論会としての「フォーラム」というべき場が出現した。同世代の木村真二(1962年生まれ。『鉄コン筋クリート』[2006]や『スチームボーイ』[2004]の美術監督。『AKIRA』[1988]ではスタッフとして背景を担当)と草森秀一(1961年生まれ。『メトロポリス』[2001]や『イノセンス』[2004]の美術監督。『機動警察パトレイバー2 the Movie』[1993]や『GHOST IN THE SHELL』[1995]ではスタッフとして背景を担当)の2人が喋るのは貴重な機会であり、県外から来た参加者もいつもより多く、熱心に的確な質問を投げかけていた。
二人はともに東京デザイナー学院で学んだが、互いの存在を知るのは仕事を始めてからだという。木村は小林プロダクションに入社し(今回の展覧会の作画者では、ここの出身者が多い)、草森は『エイリアン』(1979)や『ブレードランナー』(1982)を見て、H・R・ギーガーやシド・ミードの影響を受けた。そして「背景美術は原作者が喜ぶものとすべき」といった話、あるいは背景が目立つべきかどうか、画面に出ない部分も描くのか、CGの時代に背景画はどうなるか、などの議論や質疑が続く。
個人的に印象に残ったのは、写真ではわからないが、オリジナルの背景画を見ると、どのような手順で描かれたかが想像できると木村が述べたこと、また草森がザハ・ハディドの競技場は建設すべきだったとコメントしたことである。ちなみに、彼は電線地中化にも疑義を唱えていた。草森は、オットー・ワグナーやフランク・ロイド・ライトにも触れたことからも、今回の展示で紹介された美術監督のなかでは一番建築が好きで、妄想度が高いように思われた。一方、生活感込みの都市表現は、木村が得意としている。「アニメ背景美術に描かれた都市」展は、異なるプロダクションによる複数の作品をまとめて紹介したことで、こうした美術監督の画風の違いが確認できる。
アニメ背景美術に描かれた都市
会期:2023年06月17日(土)~2023年11月19日(日)
会場:谷口吉郎・吉生記念金沢建築館 (石川県金沢市寺町5-1-18)
2023/06/16(金)(五十嵐太郎)