artscapeレビュー
「磯崎新 ─水戸芸術館を創る─」展
2023年07月01日号
会期:2023/03/01~2023/06/25
水戸芸術館[茨城県]
2022年末に磯崎新が亡くなったことを受けて、彼が設計した水戸芸術館で「磯崎新 ─水戸芸術館を創る─」展が企画された。これは彼がプリツカー賞を受賞した2019年の「磯崎新 ─水戸芸術館 縁起─」展を再現しつつ、設計当時の資料などを紹介するものである。なお、筆者の訪問時の現代美術ギャラリーでは、地元の美術展や写真コンテスト入賞作品展を開催しており(こうしたタイミングで訪れたのは初めてで、かえって新鮮だった)、磯崎展は第9室(クリテリオムの会場)とエントランスホールの2階回廊が使われていた。まず資料の展示としては、当初の設計スタディ(施設の配置とアプローチ、広場、塔の造形と位置について、それぞれA、B、Cの3案を検討)、プロポーザル案、タワーのディテール、実施設計図、竣工図など、各種の図面ほか、設計の基本理念を記した文章、開館記念式典の写真、プロジェクト展(水戸市立博物館、1987)の記録、シルクスクリーンの版画、「磯崎新1960/1990 建築展」(1991)のプレスキットとして配布されたモンロー定規、関連書籍(手に取れるようカフェ・ラウンジにも著作・作品集コーナーが設けられた)などである。小規模だが、濃密な内容だった。
当時の「磯崎新 ─水戸芸術館 縁起─」展は実見していないが、写真で確認する限り、今回はほぼ同じ状態で再現されたと思われる。すなわち、第9室の壁の各面に「構」「震」「移」「響」の作品を配置し、「聲」と「間」の映像を加えていた。興味深いのは、構造家の木村敏彦と設計したタワーのジョイント部の原寸大断面図や、永田音響設計が入ったコンサートホールの音の方向を示したダイアグラムなど、エンジニアリング的なデザインをアート化していること。また水戸芸術館は歴史建築の参照を散りばめており、「構」のパネルは、『磯崎新+篠山紀信 建築行脚』(全12巻/六耀社、1980-92)で訪問した世界の古建築と館の各パーツの関連性を示す。ちなみに、書籍展示のコーナーに置かれていた『水戸芸術館』(六耀社 、1999)の8~38ページの建築の各部分の写真に対する説明文は、歴史の参照を強調しながら、筆者が執筆したものである。ともあれ、磯崎にとって、水戸芸術館はつくばセンタービルとともに、ポストモダンの時代の代表作である。
実は隣の敷地には、7月にオープンする伊東豊雄による《水戸市民会館》が完成していた。プロ向けの芸術館に対し、市民に開くみんなの建築であること。また積極的に木を使い、しかも構造材としていることに、公共建築の変化が反映されている。この屋上庭園からは、シンボルタワーがよく見え、芸術館の屋根や広場も眼下に広がり、新しい視点が獲得できる。
磯崎新 ─水戸芸術館を創る─:https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5235.html
2023/06/14(水)(五十嵐太郎)