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横尾忠則 寒山百得展

2023年10月01日号

会期:2023/09/12~2023/12/03

東京国立博物館 表慶館[東京都]

東博というと日本の古美術のイメージが強いが、忘れたころに現代美術もやる。5年前の「マルセル・デュシャンと日本」は記憶に新しいが(デュシャンはもはや古典かも)、表慶館では20年ほど前に東京国立近代美術館の企画で「美術館を読み解く:表慶館と現代の美術」を開いたこともある。前者は日本美術とのつながりを示し、後者は建築空間に触発された作品を展示するという点で、どちらも純粋な現代美術展というより、東博および古美術との関係を強調するものだった。今回もなんで横尾忠則が東博で? と思ったが、「寒山拾得」をモチーフにした作品だと知って納得。

寒山拾得は奇行で知られる中国の超俗的なふたりの僧のこと。伝統的に寒山は巻物、拾得は箒を持ち、どちらもボロを身にまとい、妖しい笑みを浮かべた姿で描かれる。横尾はこの寒山拾得を自由に解釈し、徹底的に解体し再構築してみせた。巻物をトイレットペーパーに置き換え、箒の代わりに電気掃除機を持たせるのは序の口。便器に座らせたり、箒にまたがって空を飛ばしたり、大谷翔平やドン・キホーテを登場させたり、マネの《草上の昼食》や久隅守景の《納涼図屏風》を引用したり、やりたい放題。古今東西、現実と虚構を超えた世界が展開しているのだ。その数102点、これを85歳から約1年半で描き上げたというから驚く。

画家は年老いてくると自分のスタイルを繰り返したり(自己模倣ともいえる)、筆づかいや色づかいが奔放になったり(成熟とも衰退ともいえる)するものだ。ティツィアーノしかり、モネしかり、ピカソしかり。ところが横尾はもともと自分のスタイルがあったというより、既存の図像やスタイルを寄せ集めて独自の世界観を築き上げるスタイルだった。だから1980年代初めに画家としてデビューしてからも、当時流行していた新表現主義をベースに、美術史のさまざまな様式を引用・模倣しながら(タダノリ?)横尾ワールドを展開してきた。今回は表現主義風あり印象派風ありシュルレアリスム風あり抽象風あり水墨画風まであって、まったくスタイルというものに執着しない。むしろそれが横尾スタイルというものだろう。

ただ最近は身体的な衰えが明らかで、筆づかいも色づかいも奔放を超えて荒っぽく、もはやグズグズといっていいような作品もある。だが、だれもこれを批判することはできないだろう。なぜならこれらはもはや従来の絵画の価値観から逸脱し、いわば治外法権のアウトサイダーアートの領域に踏み込んでいるからだ。アウトサイダーアートというのは目指してできるものではないが、横尾は明晰な意識を持ってアウトサイドに踏み出しているように見える。いや、ここはやっぱり寒山拾得の境地に達したというべきか。



展示風景[筆者撮影]



公式サイト:https://tsumugu.yomiuri.co.jp/kanzanhyakutoku/

2023/09/11(月)(村田真)

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