artscapeレビュー
MUCA展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜
2023年12月01日号
会期:2023/10/20~2024/01/08
京都市京セラ美術館[京都府]
MUCAとは「Museum of Urban and Contemporary Art」の略称で、コレクターのクリスチャン&ステファニー・ウッツが2016年にドイツ・ミュンヘンに開設した、アーバンアートと現代美術に特化した美術館。今回は1,200点を超えるコレクションから、バンクシー、JR、バリー・マッギー、カウズら10組の約60点を選んで展示している。ここでいう「アーバンアート」とは都市に介入するアートのことだろうから、グラフィティを含むストリートアートと同じと考えていい。
バンクシーは、エドワード・ホッパーの《ナイトホークス》を手描きでパロディ化した大作《その椅子使ってますか?》をはじめ、人魚姫を水面に映ったように歪めて立体化した《アリエル》、玄関マットに粗末なライフジャケットの布で「Welcome」と縫い込んだ《ウェルカム・マット》など、資本主義や西欧中心主義への批判精神を発揮している。しかしこれ以外は、有名な《少女と風船》や《愛は空中に》など大量生産された口当たりのいい小品が多く、彼の不穏かつ諧謔的な世界観はなかなか伝わらない。
このバンクシーの展示だけで会場全体の3分の1を占めるだろうか。その分ほかの作家たちが追いやられ、JRやスウーンなど2、3点しか出してもらえず、ショボい作家と勘違いされかねない。彼らの多くはバンクシーと同じく、お金のかかるアーバンアートを実現するために自作を切り売りして資金を得ている面もあるから、そんな商品=小品を展示して「これがアーバンアートだ」みたいにいわれても、そりゃ違うだろと。
そもそもアーバンアートを集めて美術館をつくる発想自体、矛盾している。彼らがストリートを活動の場にするのは美術館やアートマーケットに取り込まれないためであり、もっと多くの人たちに作品を見てもらいたいからだ。今回のカタログをざっと見ても、バンクシーは「ギャラリーやアートビジネスを拒絶している」し、JRは「美術館のない場所にアートをもたらす」ことを目標としている。また、バリー・マッギーは「作品を公共の場に置くことで、ギャラリーや美術館で展示するよりも多くの人に見てもらうことができると考えた」というし、スウーンは「自分の絵がリビングルームに飾られ、持ち主を喜ばせるだけになってしまうことを懸念し、在学中から公共の場に作品を置くようになる。さらには、自身の絵が美術館やギャラリーに飾られ、そこを訪れる人たちしか見ることができないことを危惧した」とのことだ。
ちなみに彼らの多くは1970年代生まれで、年齢が上がるほど美術館やアートマーケットに対する拒絶反応は強くなるようだ。同展で飛び抜けて年長のリチャード・ハンブルトン(1952-2017)は、みずからをコンセプチュアルアーティストと見なし、ニューヨークのストリートで不気味な「シャドウマン」を描き続け、名声が高まるにつれドラッグやヘロイン中毒に陥り、65歳で亡くなってしまった。キース・ヘリングもジャン=ミシェル・バスキアもそうだが、1980年代に活動したグラフィティ世代はさまざまな矛盾を抱えながら葛藤し、早逝する者が多かった。今回、ニューヨークの街角で見かけて以来40年ぶりにハンブルトンの「シャドウマン」を(美術館内とはいえ)見ることができ、悲惨ではあるけどその後を知ることができたのが最大の収穫かもしれない。
MUCA展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜:https://www.mucaexhibition.jp
2023/11/14(火)(村田真)