artscapeレビュー

第10回日展

2023年12月01日号

会期:2023/11/03~2023/11/26

国立新美術館[東京都]

2013年、ぼくは東京藝大出身の2人とともに「落選展」をやろうと画策し、日展に応募して全員めでたく玉砕。その後、落選作を落選通知をつけて東京都美術館に展示した。やっぱり日展は「一見さんお断り」だったのね、と納得したら、その年日展の不正審査が発覚して大騒ぎになったのはいまだ記憶に新しい。美術界では「なにをいまさら」とみんな思ったが、翌年日展は改組されて第1回にリセット、今年めでたく10回を迎えたわけだ。入選作もさぞや変わっただろうと思って毎年見ているが、まさに十年一日のごとく。さすが日展、そうでなくちゃ。

いつものように日本画から見て行く。日本画で知ってる画家は、毎年問題作を出してくれる岩田壮平しかいない。今年も期待を裏切らず、《靉靆く》を出品。まずなんと読むのかわからない。調べてみたら靉靆は「アイタイ」と読み、雲が盛んな様子を意味するらしい。が、「靉靆く」と送り仮名がつくとなんだろう。作品は、赤系の花を描いた絵の上から黄色っぽい絵具をダラーッと垂れ流したような感じ。具象絵画と抽象表現主義の合体、というより、いまなら過激な環境保護団体による名画へのエコテロリズムを想起すべきか。いずれにせよ暴力的なイメージである。でもよくみると、絵具を垂れ流しているのではなく、そう見えるように描いているのがわかる。一種のだまし絵。額縁も絵にマッチしている。日展では絵画には額縁をつける規定があるため、みんなテキトーに安い額縁をつけるか、逆に絵よりも高そうな額縁をつけているが、岩田はこの絵に合わせて周到に選んでいるのがわかる。



岩田壮平《靉靆く》[筆者撮影]


今回、日本画・洋画を含めていい意味で記憶に残った作品は、これともう1点、洋画の景山秀郎による《秋の庭園》くらい。景山はどんな画家か、何歳か知らないが、「VOCA展」や「シェル美術賞展」に出ていてもおかしくないようないまどきの絵を描く。なんで日展なんかに出しているんだろう? 他人のことはいえないが。いずれにせよ、あとはどうでもいい作品ばかりだ。

だいたいロシアがウクライナに侵攻して1年半が過ぎ、最近はパレスチナで痛ましい戦禍が伝えられているというのに、それについてだれも触れていない。別に政治的・社会的テーマの作品を期待しているわけではないけれど、それにしても日本画・洋画合わせて千点以上も展示されていながら、いまの時代・社会を反映した作品が皆無に等しいというのはどういうことだろう。そういう作品は落とされるのか、それともそういう作家は初めから日展に応募しないのか。今年も10年前、100年前と同様、ノーテンキな風景画や人物画ばかりが並んでいる。


日展:https://nitten.or.jp

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