artscapeレビュー
東京近郊の展覧会(会場構成、インスタレーションの側面から)
2023年12月01日号
[東京都]
10月から11月にかけて、建築家による注目すべき会場構成やインスタレーションが重なった。
西澤徹夫の「偶然は用意のあるところに」展(TOTOギャラリー・間)では、彼が数多く手がける美術展の会場構成のうちのいくつかも紹介されていた。筆者はそれらをすべて訪れていたので、もう存在しない空間を思い出しながら、上から鑑賞する不思議な体験だった。また既存のモノに手を加えるプロジェクト(京セラ美術館の増改築や一連の会場構成)や共同設計(八戸美術館)が多いことに加え、建築家の個展としては希有なことに、現代アート作品(曽根裕など)も同じ空間に展示されるなど、さまざまなレベルで他者が介入している。そして二つずつ作品を並べる分類の方法と類似したキャプションの文章も興味深い。ギャラリー・間は、必ずキュレーターが存在する美術展とは違い、建築家がセルフ・キュレーションを行ない展示をつくり上げるという独自の文化をもつが、ここまで第三者のような手つきで自作を再構成した展覧会は初めてである。
これと同時期に近くで開催されていた「Material, or 」展(21_21 DESIGN SIGHT)は、もっとハイテク系の素材が多いかと思いきや、自然の教えにインスパイアされたような内容が多い。安藤忠雄の個性的な空間に対し、別の建築を重ねたような中村竜治の会場構成が印象的だった。おそらく、展示物のほとんどが床置きになることを踏まえ(実際、壁や台はほとんど使われていない)、既存の高い天井を感じさせないよう、低い壁を走らせたのではないか。
「第八次椿会 ツバキカイ 8 このあたらしい世界 “ただ、いま、ここ”」(資生堂ギャラリー)でも、空間に対して、中村は奇妙な介入を試みている。会場に入って何か違和感があると思ったら、彼が作品として制作した2本の柱が増えていた。筆者が企画した「ほそくて、ふくらんだ柱の群れ」展(OPEN FIELD)でも、中村は円柱をテーマとしていたが、資生堂ギャラリーでは、いわば展示空間を偽装する角柱であり、きわめて不穏である。ほかにも杉戸洋や目[mé]の作品は、空間の使い方がユニークだった。
アートウィーク東京では、山田紗子による二つの空間構成を楽しむことができた。保坂健二朗のキュレーションによる「平衡世界 日本のアート、戦後から今日まで」展(大倉集古館)は、12のテーマによって日本の戦後美術を紹介するものだが、伊東忠太の強いクセがある空間に対し、いかに現代アートを馴染ませるかが課題となる。そこで山田は、装飾的な肘木や円柱に呼応するように丸みを帯びた造形の白い什器を設計していた。
彼女のもうひとつのプロジェクトは、大倉集古館とまったく違うデザインの「AWT BAR」である。ホワイトキューブにおいて、直径13ミリメートルの細いスチールバーが縦横無尽に踊る線となって出現していた。抽象的なインスタレーションのようだが、小さいホルダーによってアーティストが提案したオリジナル・カクテルが宙に浮く。
中村や西澤の師匠でもある青木淳の退任記念展「雲と息つぎ ─テンポラリーなリノベーションとしての展覧会 番外編─」(東京藝術大学大学美術館陳列館)は、青木の自作は一切展示されていない。大学の研究室メンバーや中村らも参加し、建築家として会場となった岡田信一郎の設計による陳列館(1929)を丁寧に読み込み、建築家としてそれといかに向き合うかという態度が示されたインスタレーションである。それゆえ、改めて陳列館そのものをじっくりと観察する機会になった。
ちなみに、「仮設的なリノベーション」は、筆者が芸術監督を務めたあいちトリエンナーレ2013における名古屋市美術館で彼に依頼したテーマでもある。新築をつくるだけが建築家の仕事ではない。ここで取り上げた展覧会は、既存の空間に対して介入することも、高度に建築的なデザインになりうることを示唆するだろう。
西澤徹夫 偶然は用意のあるところに:https://jp.toto.com/gallerma/ex230914/index.htm
Material, or :https://www.2121designsight.jp/program/material/
第八次椿会 ツバキカイ 8 このあたらしい世界 “ただ、いま、ここ”:https://gallery.shiseido.com/jp/tsubaki-kai/
平衡世界 日本のアート、戦後から今日まで(アートウィーク東京):https://www.artweektokyo.com/focus/
AWT BAR(アートウィーク東京):https://www.artweektokyo.com/bar/
青木淳退任記念展 雲と息つぎ ─テンポラリーなリノベーションとしての展覧会 番外編─:https://museum.geidai.ac.jp/exhibit/2023/11/clouds-and-breaths.html
2023/10/27(金)〜11/30(木)(五十嵐太郎)