artscapeレビュー
君島彩子監修「万博と仏教─オリエンタリズムか、それとも祈りか?」/「陶の仏─近代常滑の陶彫」
2023年12月01日号
会期:2023/08/05〜2023/12/25
髙島屋史料館[大阪府]
会期:2023/09/16〜2024/02/25
髙島屋史料館TOKYO[東京都]
宗教学者であり、アーティストの君島彩子が、東西の髙島屋史料館で同時に展覧会を監修していたので、両方の会場を訪れた。新宗教の建築を題材に博士論文を書いた筆者にとって、近代の宗教美術に注目した企画ゆえに、大きな関心を抱いた。また昨年の山形ビエンナーレ2022でも、大きな地図を用いて山形の地蔵調査を展示していた君島の作品が印象に残っている。
さて、大阪の髙島屋史料館で開催された「万博と仏教─オリエンタリズムか、それとも祈りか?」展は、万博において仏教がいかに表象されてきたかを辿るものだ。乃村工藝社蔵の資料などを活用し、詳細な年表とともに、両者の関係を網羅的に探求する、圧巻の内容である。もちろん筆者も、シカゴ万博(1893)における日本館など、東洋風のパビリオンを通じ、断片的に建築の事例は確認していたが、さすがに内部に展示されたモノまではほとんど知らず、また会場のほとんどが撮影禁止だったため、本展覧会の書籍化を強く希望したい。1970年の大阪万博においてFRPで複製された仏像が展示されていたことや、全日本仏教会が議論した挙げ句、無料休憩所の法輪閣を建てたこと、あるいはパビリオンや仏教展示の再利用なども興味深い。実際、この展示を見た翌週に奈良の元興寺を訪れたとき、目立たない場所にネパール館の窓が移植されていることを現地で確認した。前回の万博はアジア初の開催だったため、オリエンタリズムとしての仏教の紹介はなくなったが、はたして2025年の関西万博ではどのような仏教表象があるのだろうか? と考えさせられた。現時点では仏教的なものが展示されるという話はほとんど聞こえてこない。
もうひとつの会場は、髙島屋史料館TOKYOにおける「陶の仏」展である。明治時代を迎え、西洋の彫刻技術が入ってくるかたわら、常滑で花開いた陶を素材とする仏像制作の近代史を掘り起こすという、きわめてユニークな視点の展示だった。また展示の後半は、常滑陶器学校で学んだ柴山清風に注目し、彼が手がけた千体観音のプロジェクト、戦時下の弾除け観音、巨大な陶像、戦後の仕事などを追う。そして百貨店の屋上では、大阪でも何点か展示していた万博に出品された陶製のベンチを22点設置し(座ることも可能)、二つの会場をつなぐ役割を果たす。
ところで、展示を鑑賞中、「従来の型にはまった仏像は素材や技術だけで、新しい形がないのは無意味な芸術だ」と、スタッフに長々と説教するおじさんの声が聞こえ、呆れかえった。ここは「美術館」でもないし、凄いアートを紹介するという主旨の展示でもないし、的外れの批判である。むしろ、型にはまった見方をずらすことが、企画の醍醐味だろう。また展示で紹介されていたものは単純に近代以前の仏像を模倣したわけでなく、西洋の彫刻技術の影響も入っているはずだ。
万博と仏教─オリエンタリズムか、それとも祈りか?:https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/exhibition/
陶の仏─近代常滑の陶彫:https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/tokyo/exhibition/
2023/10/20(金)、11/01(水)(五十嵐太郎)