artscapeレビュー
ピーピング・トム「Le Sous Sol/土の下」
2009年03月01日号
会期:2009/02/05~2009/02/07
世田谷パブリックシアター[東京都]
寓話性を色濃く含んだダンス作品。男2人と女1人のダンサーたちは、敷き詰められた土の上で、反転したでんぐり返しとか、体の一部がなぜか磁石のようにくっついて離れないといった事態を、きわめてアクロバティックに(つまり事故すれすれの状態で)見せた。そのありえない運動はファンタジック(曲芸的)でもあり、またその過酷さ故に踊る身体を強く意識させもする。いや、身体を意識させたといえば、彼ら以外の出演者、オペラ歌手と老婆だ。男ダンサーと老婆とが交わすキスには「そんなことやらせるか!」と思わずにはいられない。が、そんな柔な批判など、老いた体は舞台のマテリアルとして存在してはならないというのか?と目の前の舞台それ自体に反論され、一蹴されてしまうだろう。次第に、この老婆は体が老いているだけの子どもなのではないかとの錯覚がぼくの内で起こり、その錯覚にあまりにふさわしく、最後の場面で老婆はオペラ歌手の大きな乳房を口に含んだ。「土の下」=死というモティーフは、いまここでそのモティーフを上演するリアルな限りある身体に対する思いを強くさせた。けれども、その目の前の身体とて、身体というもののイメージの媒体でしかない。
2009/02/06(金)(木村覚)