2020年07月01日号
次回7月15日更新予定

artscapeレビュー

杉江あこのレビュー/プレビュー

日本・フィンランド国交樹立100年記念 没後30年 カイ・フランク

会期:2019/09/21~2019/12/25

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

フィンランド人デザイナーといえば、日本ではアルヴァ・アアルトが有名だが、実は日本にもっと馴染みの深いデザイナーがいた。それがカイ・フランクである。フランクはアラビア製陶所やイッタラなど数々のメーカーで、陶器やガラス製品をデザインしてきたデザイナーだ。生涯にわたり3度も来日し、北大路魯山人や濱田庄司、河井寬次郎らと交流したほか、日本各地の窯を訪れた記録があり、日本の工芸に密かに影響を与えていた人物なのである。没後30年に当たる今年、ついに日本の美術館では初となる展覧会が開かれた。



展示風景 神奈川県立近代美術館 葉山

フランクのデザインを語るうえで欠かせないキーワードが幾何学的形態だ。円、三角、四角という造形の基本形を出発点として、フランクはモダンデザインに挑む。本展の展示構成もそれに則ったかたちであった。最初の展示室でまず円、楕円、円錐、円柱、三角、四角の6つの基本形を見せ、次の展示室で縦軸をこの6つの形態に分け、横軸を1940年代からの年代に分けて、グリッド式に展示台を配置する方法が取られていた。来場者はまず円形の作品だけを観てもいいし、年代を追っていってもさかのぼっていってもいい。その展示構成は非常にわかりやすく、だからこそ気づいた点があった。それは若い頃は無骨なデザインが目立つが、年代を重ねるごとにデザインが熟れ、洗練されていったという点だ。6つの形態を基本とする軸はぶれないものの、デザインや製造技術の進化が確実に見られた。最後の展示室ではさらにフランクの自由な表現が見られる。色ガラスを幾重にも重ねた作品などアート的な表現も多かった。ここまで来るとデザインや製造技術の進化だけでなく、人間としての深みや成熟を見るようでもあった。

《2190》調味料入れセット&チーク製トレイ 1953–63/吹きガラス/ヌータヤルヴィ・ガラス製作所/タウノ&リーサ・タルナ・コレクション[photo by ©Rauno Träskelin]

プレート 1960年代半ば/カラー・リング・テクニック/ヌータヤルヴィ・ガラス製作所/タウノ&リーサ・タルナ・コレクション[photo by ©Rauno Träskelin]

もうひとつ注目したのは、フランクが来日の際に撮ったという日本の風景写真である。これが実に良かった。竹垣や瓦屋根、斜め格子壁、枯山水など、日本独特の幾何学的形態に着目した写真のほか、田畑や民家、そして市井の人々の素朴な姿を収めた写真が並んでいた。1950〜60年代の日本で撮られたであろう、これらのモノクロームの写真を眺めていると、まるで木村伊兵衛の写真を彷彿とさせる。生涯、庶民のための暮らしの道具をつくり続けたデザイナーの目は、やはり庶民に優しく向けられていたことを物語っていた。


公式サイト:http://www.moma.pref.kanagawa.jp/exhibition/2019_kajfranck

2019/09/21(杉江あこ)

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椅子の神様 宮本茂紀の仕事

会期:2019/09/05~2019/11/23

LIXILギャラリー[東京都]

個人的な話になるが、増税前にソファを買い換えた。そこで急遽、古いソファを処分しなければならなくなり、回収業者に処分をお願いした。処分したのは、ヴィトラ社の「ポルダーソファ」である。3人掛けの大きなソファであったため、玄関からそのまま運び出すことが難しく、家の中でソファを解体し、部品に分けて運び出すことになった。長年愛用してきたソファが解体されるさまを見るのはやや忍びなかったが、と同時に良い勉強にもなった。私をはじめ、おそらく多くの人々は、ソファの構造がどうなっているのかを知らないのではないか。

ソファの張り地をはがして初めて見えてくる、高密度ウレタンのクッション。それをはがすとさらに現われる、クッションを支えていた座面のバンドや頑丈な木枠。その木枠に目印として番号や記号が鉛筆で手書きされた跡を見つけると、私の頭にはヴィトラ社の工場で働く職人たちの姿が勝手に思い浮かんだ。回収業者の人が手こずるほど、ポルダーソファは本当に緻密なつくりで、それゆえの価格だったことをこのときに改めて実感したのである。

前置きが長くなったが、本展は日本人初の家具モデラーとして、いまも現役で活躍するミネルバの宮本茂紀の仕事に着目した展覧会だ。家具モデラーとは、デザイナーのスケッチや図面をもとに、試作をし、工場で職人たちがつくりやすい構造や形状を考える仕事である。デザイナーと製造工場とをつなぐパイプ役であり、言わば影の立役者と言える。宮本はカッシーナやB&B、隈研吾やアントニオ・チッテリオら多くのメーカーやデザイナー、建築家から信頼を置かれる家具モデラーで、それゆえに「椅子の神様」の異名がついたようだ。また、その実力が買われ、迎賓館や明治村などに残された歴史的な家具の修復も任されてきた。さらにワークショップや勉強会を継続的に開き、次世代の指導へも熱心に当たっている。そうした宮本の活動を、本展では3部構成で丁寧に紹介する。

展示風景 LIXILギャラリー(東京会場)[撮影:白石ちえこ]

本展のなかで、一部、椅子やソファがむき出しになった展示物があり、つい先日、自分が目の当たりしたソファの解体現場を思い出した。展示物は馬の毛などの自然素材とスプリングコイルを用いた伝統技術による椅子やソファなので、通常よく使われる高密度ウレタンのソファとはもちろん異なる。それでもふかふかと座り心地の良い椅子やソファがどのようにできているのかを、来場者が少しでも知れる良い機会なのではと思えた。百聞は一見に如かず、である。

展示風景 LIXILギャラリー(東京会場)[撮影:白石ちえこ]


公式サイト:https://www.livingculture.lixil/topics/gallery/g-1906/

2019/09/20(杉江あこ)

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第758回デザインギャラリー1953企画展「INGO MAURER 詩情とハイテック」

会期:2019/09/11~2019/10/07

松屋銀座7階デザインギャラリー1953[東京都]

「光の詩人」や「光の魔術師」と呼ばれる照明デザイナーのインゴ・マウラー。確かにマウラーを超える照明デザイナーは、世界中を見渡してもほかにはいない。なぜ、マウラーだけが特異なのか。いろいろな評価がされているが、結局は情熱ではないかと思う。光への異様なまでの情熱が、既成概念を打ち破り、誰もが想像つかない自由な発想へと駆り立てるのではないか。私がマウラーについて印象に残っているのは、白熱灯へのこだわりである。欧州でも日本でも白熱灯の製造が中止され、光源がLEDへと置き換わる過渡期に、マウラーはミラノサローネなどの展示会で強い怒りのメッセージを発した。それも光への並々ならぬ情熱ゆえだろう。

一般的にデザインには大きく二つの役割があると言われている。ひとつは問題解決で、もうひとつは価値や意味を与えることだ。マウラーが常に意識しているのは、おそらく後者の方だろう。なぜなら照明は、明かりを灯すだけで実質的な用を成すため、簡単に問題解決ができてしまうからだ。それよりもいかに人々に魅力を感じてもらうかが重要で、そのためにマウラーが挑戦し続けているのが詩的な照明デザインなのだろう。また、照明器具は明かりを灯している間は用を成すが、明かりを灯していない間は用を成さないため、言わば空間の中で邪魔な存在となる。照明デザイナーは常にそのことを留意しなければならず、ゆえにマウラーは詩的なデザインに挑むのだとも思う。

本展ではマウラーが手がけた有名な製品、例えば大きな電球をモチーフにした「Bulb」や電球に天使の羽が生えた「Lucellino」をはじめ、最新作も展示された。なかでも蝶の群れが幻想的に舞う「La Festa delle Farfalle」はさすがと言うべきか、マウラーの詩的なデザインの真骨頂を見たような気がした。

展示風景 松屋銀座7階デザインギャラリー1953[撮影:ナカサアンドパートナーズ]

ここ数年、欧州ではロウソクの売り上げが伸びていると聞く。主に伸びているのはおしゃれなアロマキャンドルで、部屋の中で炎の揺らぎと温かみを感じ、リラックスしたいと思う人々が増えているからである。積極的に家の照明を消し、ロウソクに火を灯す行為は、つまり明かりの価値や意味が変化してきている証拠だ。いま、人々が求めている明かりは温かみを感じることやリラックスできることであり、生活において不便なく照らしてくれる明かりではない。マウラーの照明デザインが尊敬され、受け入れられる要因もここにあるのではないかと思う。

展示風景 松屋銀座7階デザインギャラリー1953[撮影:ナカサアンドパートナーズ]


公式サイト:http://designcommittee.jp/2019/08/20190911.html

2019/09/20(杉江あこ)

美ら島からの染と織─色と文様のマジック

会期:2019/08/10~2019/09/23

渋谷区立松濤美術館[東京都]

数年前、沖縄に出張した際、紅型作家の工房を訪ねたことがあった。紅型とは、沖縄に伝わる型染めのことである。私は個人的に紅型が好きで、着物や帯、風呂敷などを持っている。艶やかな友禅などとは違い、どこかほっこりと愛らしい点に魅かれるからだ。その愛らしさの秘訣は、紅型独特の隈取りという技法にある。つまり色と色とを重ねる際に、境目にぼかしを施すことで、全体に柔らかい印象を与えるのだ。という一般的な知識はあったが、実際に紅型作家に話を聞くと、この隈取りにもルールがあり、流派によってどの色と色とを重ねるのかが決まっているのだという。何事も様式美があってこそと思い知った。

さて、本展ではこの紅型に始まり、沖縄の織物や染織の道具、人間国宝や名工らの作品が紹介されていた。ここでは沖縄というより、琉球王国という方が正しいのだろう。紅型に使われる黄や赤などの鮮やかな色彩感覚は琉球王国らしいが、文様は松竹梅や牡丹、鳳凰など、日本本土とそれほど変わらないことは発見だった。一方、織物はもっと独特である。絹や木綿、麻の織物も一部あるが、それ以外の織物も多い。麻の一種である苧麻で織られた上布、糸芭蕉で織られた芭蕉布(ばしょうふ)、そして中国からの輸入糸で織られた桐板などである。いずれも軽くて薄く、ハリのあるサラリとした風通しの良い織物で、高温多湿な琉球王国では重宝された。織物の文様もまた独特だ。幾何学文様や絣(かすり)が多いのだが、植物や動物を表わしていたり、織り方に特別な意味が込められていたりする。

《白地流水菖蒲蝶燕文様紅型苧麻衣裳》(国宝)18-19世紀 那覇市歴史博物館蔵
※9月10日〜23日展示

もっとも印象的だったのは、本展の最後に流れていた、重要無形文化財芭蕉布保持者(人間国宝)の平良敏子を追ったドキュメント映像だ。平良は、戦後、滅亡の危機にさらされた芭蕉布を復興させた功労者で、「喜如嘉の芭蕉布保存会」代表を務めている。ドキュメント映像を観ると、芭蕉布の製作には気が遠くなるほどの手間と時間がかかることがわかった。まず芭蕉の木を刈り、茎を剥ぐところから始まる。灰汁で煮出して軟らかくし、糸を紡ぎ、染めて……と一反の織物にするまでにいくつもの工程を経なければならない。染織物に限らず、結局、工芸品を伝えることは、その土地の歴史や文化を伝えることでもある。工業製品一辺倒となった現代においても、いまだに工芸品がわずかながら人々に求められているのは、そうした根っこに触れられるからではないか。かつては別の国として栄えた琉球王国の文化を垣間見られる展覧会である。

展示風景 2階展示室

公式サイト:https://shoto-museum.jp/exhibitions/184okinawa/

2019/09/01(杉江あこ)

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柚木沙弥郎の「鳥獣戯画」

会期:2019/07/13~2019/09/08

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

柚木沙弥郎というと、民藝運動に影響を受けた染色家のひとりという概念しかなかったが、本展を観て、版画や絵本、立体作品といった分野でも活躍していたことを知った。むしろこれらの作品の方が、作家としての力量を感じた。創作活動の原点に、工芸と美術、西洋と東洋、作家と職人といった二者の間での葛藤があったというから、民藝運動が提唱した「用の美」の枠に当てはまらない創作意欲が、きっと内心からあふれていたのだろう。まず、本展の最初に展示されていた一連の版画作品「ひまわり」に目を奪われた。これらはアルシュ紙に墨一色でひまわりの一生を力強く描いた作品群で、特に《老いたひまわり》は柚木自身の姿でもあると評され、枯れてなお孤高の美しさがあることを表現した点には心動かされた。



柚木沙弥郎《老いたひまわり》(2014)
モノタイプ、アルシュ紙 公益財団法人泉美術館蔵

圧巻は、2019年の最新作「鳥獣戯画」である。鳥獣戯画で思い浮かぶ京都の高山寺所蔵の絵巻物は、いまもなお多くの日本人に愛される漫画の原点として知られるが、柚木は森山亜土の舞踊劇『鳥獣戯画』に着想を得て、全長12メートルに及ぶ大作に仕上げた。主に第一巻(甲巻)に準拠した内容で、兎、猿、蛙、狐らを登場させ、射的、相撲、田楽、仏の供養など18の場面を描いた。柚木は鳥獣戯画の魅力について「そこには、生き物の生きる喜びや躍動する生命観が、閉鎖的で憂鬱な社会の潮流に流されないで描かれていると思うのだ」と語っている。柚木が描いた「鳥獣戯画」は、原書と比べると巧さには欠けるが、味わい深く、愛らしい筆致に映った。まさに「生き物の生きる喜びや躍動する生命観」が強調された形のようである。

本展の最後を締めくくったのは型染布のほか、絵本である。柚木はさまざまな絵本の原画を手がけているが、宮沢賢治の名作『雨ニモマケズ』に寄せた原画に、私は注目した。同作で語られる、勤勉で、健康で、無欲で、身の丈に合った暮らしのなかで、他人のために率先して行動する理想の農民像が、なんとなく柚木の作風と相通じるものを感じたからだ。ひと言で言えば、素朴ゆえの力強さだろうか。先の「鳥獣戯画」にもつながるが、生きる力強さかもしれない。『雨ニモマケズ』が書かれた昭和初期に比べると、いまの世の中にはそうした力強さが足りないように思う。だからこそ、いま、柚木の作品が見直されているのだろう。



柚木沙弥郎《いのちの樹》(2018)
型染、紬 作家蔵
[撮影:阿部健]

絵本『雨ニモマケズ』原画
(作:宮沢賢治 絵:柚木沙弥郎)(2016)
水彩、紙 公益財団法人泉美術館蔵

公式サイト:http://www.moma.pref.kanagawa.jp/exhibition/2019_yunoki

2019/08/20(杉江あこ)

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