2020年01月15日号
次回2月3日更新予定

artscapeレビュー

杉江あこのレビュー/プレビュー

TAKUMI CRAFT CONNECTION -KYOTO by LEXUS NEW TAKUMI PROJECT

会期:2019/11/29~2019/12/01

京都新聞ビル地下1階、平安神宮 額殿、両足院(建仁寺 山内)[京都府]

「匠」がいま熱い。本展を観て、新たなムーブメントの兆しを感じた。そもそも本展は、レクサスが主催する「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」から派生した展覧会である。LEXUS NEW TAKUMI PROJECTとは、47都道府県の若き匠(伝統工芸職人、工芸作家、デザイナーら)を応援するプロジェクトだ。スーパーバイザーの小山薫堂をはじめ、ジャーナリストやプロデューサーらがメンターとなり、一人ひとりの匠と向き合い、彼らのものづくりをサポートしてきた。2016年度から開始され、毎年約50人の匠が選出されてきたので、2018年度で約150人もの匠が出揃ったわけである。その3年間の集大成として開かれたのが本展だ。実は私の夫である下川一哉がメンターのひとりであり、また私自身も同プロジェクトの関連書籍を執筆してきたので、半分、関係者ではある。だから多少のひいき目はあるかもしれない。とはいえ3日間の開催で合計約1万人以上の来場者を動員したと聞くので、本展がいかに盛況だったかがわかるだろう。

展示風景 両足院(建仁寺 山内)

本展は三つの会場で構成された。ひとつは両足院(建仁寺 山内)で開催された「KYOTO connection」。これは同寺の副住職である伊藤東凌がキュレーターを務め、京都在住のアーティストや建築家、茶人ら5人と匠5人とがコラボレーションした五つのインスタレーションである。もうひとつは「JAPAN connection」で、これは同プロジェクトで発表した約150人の匠の作品が一堂に集まった展示である。会場は京都新聞ビル地下1階で、かつて新聞を印刷する輪転機が回っていた場所だ。会場設計を手掛けたのは、建築家の隈研吾である。床、壁、天井の躯体や配管などがゴツゴツとむき出しになった奥に長い空間を生かし、陳列棚が整然と設えられた。全体に薄暗く、微かにインクの匂いすら漂う独特の空気のなかで、同プロジェクトが始まって以来、初めて一般に向けて匠の作品がお披露目されたのである。

展示風景 京都新聞ビル地下1階

残るひとつは「CREATORS connection」で、これは隈をはじめ、ファッション、プロダクト、建築の第一線で活躍するデザイナー5人と匠6人とがコラボレーションした六つの展示である。会場は平安神宮 額殿で、ここの会場設計も隈が手掛けた。いずれもデザインの力で匠の優れた技を引き出しジャンプアップさせた作品で、いま世界の潮流である「ファインクラフト」にも匹敵するレベルの高さを感じた。ちなみに約150人の匠同士の仲が非常に良く、結束力が強いのも、本プロジェクトの特徴である。私が何か熱いものを感じずにいられない要因は、きっと彼らの熱情や鋭気だ。それらがムーブメントの核となっているし、それらがある限り、日本の工芸は捨てたものではないと思う。

展示風景 平安神宮 額殿


公式サイト:https://lexus.jp/brand/new-takumi/craft-connection-kyoto/

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2019/11/28(木)(杉江あこ)

ぼくと わたしの みんなの tupera tupera 絵本の世界展

会期:2019/11/23~2019/12/25

美術館「えき」KYOTO[京都府]

擬人化されたパンダの親子がパンダ専用銭湯へ行く話を描いた絵本『パンダ銭湯』。本展でこの絵本を初めて知り、衝撃を受けた。白黒模様のはずのパンダが、銭湯の脱衣所で黒い服のパーツを次々と脱ぎ、白いパンダになっていく。極めつけは、チャ!とサングラスを外すシーン。目の周りの黒模様は、実はサングラスだったというわけだ。親子が洗い場でシャンプーをすると、耳の黒模様もきれいに洗い流される。そして湯船に気持ち良さそうに浸かると、「あたらしい しいくいんさん みたか?」といった会話を隣のパンダと交わす。かわいいはずのパンダがやけにシュールでおかしい。

『パンダ銭湯』(絵本館、2013)[©tupera tupera]

亀山達矢と中川敦子によるtupera tupera(ツペラツペラ)は、絵本をはじめ、イラストレーション、雑貨、アートディレクションなどで活躍する人気ユニットだ。私がtupera tupera を知ったのは、彼らのデビュー絵本『木がずらり』と『魚がすいすい』だった。この2冊はどちらかというと、ストーリーよりもビジュアルを重視したおしゃれなインテリア絵本という要素が強い。私の印象もそこで止まっていたのだが、その後、彼らは独創性豊かな絵本を次々と発表していた。結成15周年を超えたtupera tuperaの活動を紹介した本展で、いくつもの展示と絵本を観ていくうちに、彼らは想像力というより空想力豊かな人たちであることを感じた。頭のなかでどんどんふくらむ空想を楽しんで、それを絵本という媒体に落とし込んでいるのだ。

なかでも『パンダ銭湯』は人気作らしい。本展では銭湯の一部の実物大模型が展示されていて、来場者はパンダになった気分で(?)銭湯の脱衣所に侵入し、湯船に入って写真を撮ることができた。そもそも絵本は空想の世界が描かれることが多いが、『パンダ銭湯』をはじめ、tupera tuperaが描く絵本はこの空想の世界がシュールで毒が効いていることが多い。例えば絵本『へび のみこんだ なに のみこんだ?』では、大きな蛇が何らかの欲望や理由で子どもたちやライオンなどを次から次へと飲み込んでいく。しまいには「光がほしくなったから」との理由で太陽を飲み込んでしまう。しかし飲み込んだ後は光で輝くどころか、あたりが真っ暗になるのである。それはそうだ、お腹の中に太陽を入れてしまったのだから。この結末にはややゾッとした。まるで太陽のようなエネルギーを手に入れたいばかりに、原子力発電を生み出し、同時に大きな問題を抱えてしまった人間にも喩えらえたからだ。かわいいビジュアルで見る者を惹きつけつつ、パンチを効かせる。彼らのこの手腕には参った。

展示風景 美術館「えき」KYOTO パンダ銭湯再現コーナー


公式サイト:http://kyoto.wjr-isetan.co.jp/museum/exhibition_1913.html

2019/11/28(木)(杉江あこ)

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ミナ ペルホネン/皆川明 つづく

会期:2019/11/16~2020/2/16

東京都現代美術館 企画展示室3F[東京都]

すべてオリジナルデザインの生地で洋服づくりをする、独自のスタンスを貫くミナ ペルホネン。セールを決して行なわず、手頃な価格とは言い難いのだが、根強いファンが多くいるのも事実だ。おそらく彼らはそのかわいらしい洋服の世界観はもちろん、丁寧なものづくりに惹かれてファンとなっているのではないか。丁寧な暮らしに憧れて実践している人ほど、ミナ ペルホネンのファンとなる傾向があるように思う。

2020年にブランド設立から25周年を迎えるミナ ペルホネンの展覧会が開催中だ。同デザイナーの皆川明は「せめて100年続くブランドに」という思いで始めたというから、ちょうど四半世紀の区切りを迎える。本展のタイトル「つづく」にもその継続性への思いが込められているほか、人やもの、アイデアなどがつながる、連なる、循環するといった意味も込められているという。丁寧であり、さらにサスティナブルなのだ。そうしたミナ ペルホネンのものづくりの姿勢と時代の空気とが、現在、ちょうど合致したかのように思える。だからこそ洋服だけに留まらないライフスタイルブランドへと成長したのだ。

本展の展示構成を手がけたのは、いま注目の建築家である田根剛。八つからなる各章の名称もユニークで、「実」「森」「風」「芽」とすべて自然界に喩えられている。最初の章「実」では代表的な生地「タンバリン」に焦点を当て、その模様を成すひとつのドットに使われている糸の長さや、刺繍にかかる所要時間など、生産にまつわるさまざまな数字が明示される。と思ったら、次の章「森」では約25年間つくり続けてきた洋服400着以上が、楕円空間の壁面を埋め尽くすように展示されている。1章ごとの展示にメリハリがあり、鑑賞者を飽きさせない。そのなかでももっとも見応えがあったのは、ミナ ペルホネンの哲学やアイデア、生産現場を紹介する「種」の章で、ものづくりの出発点や裏側を知れる貴重な展示だった。

展示風景 東京都現代美術館 企画展示室3F「実」[撮影:吉次史成]

展示風景 東京都現代美術館 企画展示室3F「森」[撮影:吉次史成]

また、ミナ ペルホネンの真の価値を知れたのは「土」の章である。個人が所有する洋服15点が所有者自身のエピソードとともに紹介されていて、その一つひとつの文章が実に心に沁みた。人生の節目や家族との関わりなど、どれもありふれたエピソードではあるのだが、所有者にとって大切な思い出や記憶であることがヒシと伝わってくる。やはり彼らは丁寧な暮らしを送り、素敵な人生を過ごしている人たちだった。約25年間かけて、ミナ ペルホネンは良質なファンをも育てたのである。

展示風景 東京都現代美術館 企画展示室3F「土」[撮影:吉次史成]


公式サイト:https://mina-tsuzuku.jp

2019/11/15(金)(杉江あこ)

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日本のアートディレクション展 2019

会期:2019/10/23~2019/11/16

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)/クリエイションギャラリーG8[東京都]

ADC(東京アートディレクターズクラブ)の年次公募展「日本のアートディレクション展」が今年度も開催された。ギンザ・グラフィック・ギャラリーとクリエイションギャラリーG8の2館で同時開催され、前者では会員作品のADCグランプリ、ADC会員賞、原弘賞をはじめ数々のノミネート作品の展示が、後者では一般作品のADC賞10点の展示が行なわれた。類似のJAGDA賞ではグラフィックデザインが中心であるのに対し、ADC賞はコマーシャルフィルムや環境空間なども含めた広告全般を対象にしている点が特徴だ。今年度、ADC賞に選ばれたひとつ、三井住友カード「企業広告」コマーシャルフィルムは、「電子マネー元年」と言われる現代の世相を象徴する内容だった。どこの国なのかわからない荒野に立つ青年が、旅人に出会い、「お金とは何か」という概念的な問いを突きつけられる。登場する役者は日本人なのに、まるで西部劇かロードムービーのワンシーンでも観ているような気分になる。こうした優れたコマーシャルフィルムがあることに、日本の広告業界もまだ捨てたものではないと思わされた。

ADC賞10点のうち3点も受賞したアートディレクターの三澤遥にも注目した。そのうち1点は自身の個展の環境空間であるが、2点はいずれも情緒的な手法を取りながら社会の問題解決に挑んでいたからだ。岡村印刷工業「興福寺中金堂落慶法要散華 まわり花」のジェネラルグラフィックは、紙の折りの構造を工夫することで、散華として空中に撒いたときに一輪の花のように映るようにした作品だ。人の目の残像を利用して、平面から立体への展開を可能にした。またLinne「LINNÉ LENS」のスマートフォンアプリは、スマホをかざすだけで1万種類もの生き物の名前を瞬時にサーチするAI図鑑である。生物多様性の問題を考えるきっかけを与えるという点で、やはり現代の世相を象徴する内容だ。

展示風景 クリエイションギャラリーG8[写真:那須竜太]

ADCグランプリを受賞したのは、アートディレクターの井上嗣也が手がけたCOMME des GARÇONS「SEIGEN ONO」のポスター、ジェネラルグラフィックである。これは約30年前のコム・デ・ギャルソンのファッションショーで使用された、ランウェイミュージックのオムニバスアルバムの復刻版である。凛とした黒い鳥を正面や側面から切り取った、写真の力を最大限に生かしたアートワークだ。コム・デ・ギャルソンといい、オノ・セイゲンといい、個性の強いクリエイターたちの作品であるにもかかわらず、それらに引けを取らず、と言って殺さず、絶妙なバランスでまとめている点が印象的だった。またADC会員たちによる審査風景を記録した短い映像が会場で紹介されていた点も良かった。身内による身内作品の審査ではあるが、審査の透明性や公平性を多少証明できたのではないか。

展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー[写真:藤塚光政]


公式サイト:
http://www.dnp.co.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=1&seq=00000741
http://rcc.recruit.co.jp/g8/?p=23149

関連記事

ギンザ・グラフィック・ギャラリー第370回企画展 続々 三澤遥 | 杉江あこ(artscapeレビュー/2018年12月15日号)

2019/11/02(土)(杉江あこ)

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辰野金吾と美術のはなし 没後100年特別小企画展

会期:2019/11/02~2019/11/24

東京ステーションギャラリー[東京都]

辰野金吾は「建築家になったからには、日本銀行本店と中央停車場(東京駅)と帝国議会議事堂(国会議事堂)を設計したい」と語っていたそうだ。藤森照信による、そんなエピソードから本展は始まる。結構な野心家だったんだなという印象を抱くが、実際のところ、そうでなければ壮大な夢を叶えられなかったに違いない。おそらく野心があったおかげで人一倍勉学に励み、工部大学校(現・東京大学工学部)を首席で卒業し、英国へ官費留学ができた。帰国後は恩師ジョサイア・コンドルの後を継いで同校の教授となり、その後、自身の事務所を立ち上げて本格的に建築設計の道を歩んでいく。そして日本銀行本店と中央停車場を設計する夢は叶えた。帝国議会議事堂の設計については、自ら設計競技を提案し審査に携わる途中で、スペイン風邪に罹り逝去してしまう。残るひとつは夢半ばであったが、最期まで野心を燃やし続けた人なのだ。

辰野が没して100年を迎えた今年、彼が設計した日本銀行本店本館(日本銀行金融研究所貨幣博物館)、旧・日本銀行京都支店(京都文化博物館)、そして東京駅丸の内駅舎(東京ステーションギャラリー)の3館でそれぞれに企画展が開催された。東京ステーションギャラリーでは、学生時代に出会った洋画家、松岡壽との交友関係を軸に美術との関わりを紹介しつつ、中央停車場の貴重な図面を展示している。当初、ドイツ人鉄道技師のフランツ・バルツァーが瓦屋根を冠した複数棟から成る和洋折衷の中央停車場設計案を出すが、それを辰野が引き取り、華やかなヴィクトリアン様式に変えたといったエピソードも紹介される。脱亜入欧が国是であった明治時代、産業革命以後の英国の都市景観から生まれたこの様式を採用することは必至だったのだろう。青図(青焼き)の平面図や立面図、断面図などがいくつも展示されていて、それらを眺めると待合室の多さに驚くが、それが当時の駅に求められた機能だったことがわかってくる。日本の近代建築の第一世代が辿った足跡に触れられる展覧会である。

辰野・葛西建築事務所《中央停車場建物建築図 北立面図》1910頃[鉄道博物館蔵]

辰野・葛西建築事務所《中央停車場建物展覧図》1911頃[鉄道博物館蔵]

現在の東京駅丸の内駅舎(北口)[©Yanagi Shinobu]


公式サイト:http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201911_tatsuno.html

2019/11/02(杉江あこ)

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