2020年04月01日号
次回4月15日更新予定

artscapeレビュー

杉江あこのレビュー/プレビュー

風景の科学展 芸術と科学の融合

会期:2019/09/10~2019/12/01

国立科学博物館[東京都]

もし本展がデザイナーの佐藤卓が企画した展覧会でなければ、おそらく観ることはなかっただろう。国立科学博物館へ足を踏み入れる機会もほとんどなかったに違いない。サブタイトルである「芸術と科学の融合」という言葉を見つけたとき、何かワクワクした気持ちになった。未知なる扉を、佐藤がきっと開けてくれるに違いないと。

会場の入り口では、本展の概要と見方が説明されていた。まず風景写真を観てから、解説を読み、そしてまた風景写真を観ると良い。最初に風景写真を観たときの印象と二度目に観たときの印象とでは、おそらく変わっているに違いないとある。1番目に大きく展示されていた写真は、真っ暗な海の風景である。波しぶきがわずかに白く写っていることで、辛うじて海とわかるような写真だ。解説を読むと、場所は日本の東尋坊。タイトルは「プランクトンの日周鉛直移動」で、動物プランクトンが夜になると海の表面近くに浮かんでくることについて、主に解説されている。え、プランクトン!? というのが率直な感想だ。この幻想的な海の写真を観て、いったいどれだけの人がプランクトンを想像するのだろう。

東尋坊(日本)[写真:上田義彦]

本展の試みはこういうことなのだ。同館の動物、植物、地学、人類、理工学研究部に所属する専門家たちが、写真家の上田義彦が撮った風景写真を独自の視点で読み解く。風景の背後にある地球の歴史や営みをかいつまんで教えてくれるのだ。例えばローマの街並みを切り取った写真では、タイトルを「ローマと岩石」とし、記念碑や石畳に用いられた岩について解説する。とにかく風景写真1点1点に予想もしない解説が待っているのだ。解説文はどれもわかりやすくまとめられているものの、専門的な内容ばかりなので、写真を順々に観つつ、解説を読んでいくと、頭がだんだん追いつかなくなるという難儀さはあった。とはいえ、風景写真に新たな価値や意味がぼんやりと加わり、自分のなかで芸術と科学が確かに1本の線でつながったような気がした。これはあくまでも1本の線にすぎず、ほかのいろいろな専門家が読み解けば、もっと多様な見方が生まれるに違いない。芸術は科学への入り口となることを、佐藤は気づかせてくれた。

グレンコー(スコットランド)[写真:上田義彦]

ガンジス川(インド)[写真:上田義彦]


公式サイト:http://www.kahaku.go.jp/event/2019/09landscape/

2019/09/25(杉江あこ)

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日本・フィンランド国交樹立100年記念 没後30年 カイ・フランク

会期:2019/09/21~2019/12/25

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

フィンランド人デザイナーといえば、日本ではアルヴァ・アアルトが有名だが、実は日本にもっと馴染みの深いデザイナーがいた。それがカイ・フランクである。フランクはアラビア製陶所やイッタラなど数々のメーカーで、陶器やガラス製品をデザインしてきたデザイナーだ。生涯にわたり3度も来日し、北大路魯山人や濱田庄司、河井寬次郎らと交流したほか、日本各地の窯を訪れた記録があり、日本の工芸に密かに影響を与えていた人物なのである。没後30年に当たる今年、ついに日本の美術館では初となる展覧会が開かれた。



展示風景 神奈川県立近代美術館 葉山

フランクのデザインを語るうえで欠かせないキーワードが幾何学的形態だ。円、三角、四角という造形の基本形を出発点として、フランクはモダンデザインに挑む。本展の展示構成もそれに則ったかたちであった。最初の展示室でまず円、楕円、円錐、円柱、三角、四角の6つの基本形を見せ、次の展示室で縦軸をこの6つの形態に分け、横軸を1940年代からの年代に分けて、グリッド式に展示台を配置する方法が取られていた。来場者はまず円形の作品だけを観てもいいし、年代を追っていってもさかのぼっていってもいい。その展示構成は非常にわかりやすく、だからこそ気づいた点があった。それは若い頃は無骨なデザインが目立つが、年代を重ねるごとにデザインが熟れ、洗練されていったという点だ。6つの形態を基本とする軸はぶれないものの、デザインや製造技術の進化が確実に見られた。最後の展示室ではさらにフランクの自由な表現が見られる。色ガラスを幾重にも重ねた作品などアート的な表現も多かった。ここまで来るとデザインや製造技術の進化だけでなく、人間としての深みや成熟を見るようでもあった。

《2190》調味料入れセット&チーク製トレイ 1953–63/吹きガラス/ヌータヤルヴィ・ガラス製作所/タウノ&リーサ・タルナ・コレクション[photo by ©Rauno Träskelin]

プレート 1960年代半ば/カラー・リング・テクニック/ヌータヤルヴィ・ガラス製作所/タウノ&リーサ・タルナ・コレクション[photo by ©Rauno Träskelin]

もうひとつ注目したのは、フランクが来日の際に撮ったという日本の風景写真である。これが実に良かった。竹垣や瓦屋根、斜め格子壁、枯山水など、日本独特の幾何学的形態に着目した写真のほか、田畑や民家、そして市井の人々の素朴な姿を収めた写真が並んでいた。1950〜60年代の日本で撮られたであろう、これらのモノクロームの写真を眺めていると、まるで木村伊兵衛の写真を彷彿とさせる。生涯、庶民のための暮らしの道具をつくり続けたデザイナーの目は、やはり庶民に優しく向けられていたことを物語っていた。


公式サイト:http://www.moma.pref.kanagawa.jp/exhibition/2019_kajfranck

2019/09/21(杉江あこ)

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椅子の神様 宮本茂紀の仕事

会期:2019/09/05~2019/11/23

LIXILギャラリー[東京都]

個人的な話になるが、増税前にソファを買い換えた。そこで急遽、古いソファを処分しなければならなくなり、回収業者に処分をお願いした。処分したのは、ヴィトラ社の「ポルダーソファ」である。3人掛けの大きなソファであったため、玄関からそのまま運び出すことが難しく、家の中でソファを解体し、部品に分けて運び出すことになった。長年愛用してきたソファが解体されるさまを見るのはやや忍びなかったが、と同時に良い勉強にもなった。私をはじめ、おそらく多くの人々は、ソファの構造がどうなっているのかを知らないのではないか。

ソファの張り地をはがして初めて見えてくる、高密度ウレタンのクッション。それをはがすとさらに現われる、クッションを支えていた座面のバンドや頑丈な木枠。その木枠に目印として番号や記号が鉛筆で手書きされた跡を見つけると、私の頭にはヴィトラ社の工場で働く職人たちの姿が勝手に思い浮かんだ。回収業者の人が手こずるほど、ポルダーソファは本当に緻密なつくりで、それゆえの価格だったことをこのときに改めて実感したのである。

前置きが長くなったが、本展は日本人初の家具モデラーとして、いまも現役で活躍するミネルバの宮本茂紀の仕事に着目した展覧会だ。家具モデラーとは、デザイナーのスケッチや図面をもとに、試作をし、工場で職人たちがつくりやすい構造や形状を考える仕事である。デザイナーと製造工場とをつなぐパイプ役であり、言わば影の立役者と言える。宮本はカッシーナやB&B、隈研吾やアントニオ・チッテリオら多くのメーカーやデザイナー、建築家から信頼を置かれる家具モデラーで、それゆえに「椅子の神様」の異名がついたようだ。また、その実力が買われ、迎賓館や明治村などに残された歴史的な家具の修復も任されてきた。さらにワークショップや勉強会を継続的に開き、次世代の指導へも熱心に当たっている。そうした宮本の活動を、本展では3部構成で丁寧に紹介する。

展示風景 LIXILギャラリー(東京会場)[撮影:白石ちえこ]

本展のなかで、一部、椅子やソファがむき出しになった展示物があり、つい先日、自分が目の当たりしたソファの解体現場を思い出した。展示物は馬の毛などの自然素材とスプリングコイルを用いた伝統技術による椅子やソファなので、通常よく使われる高密度ウレタンのソファとはもちろん異なる。それでもふかふかと座り心地の良い椅子やソファがどのようにできているのかを、来場者が少しでも知れる良い機会なのではと思えた。百聞は一見に如かず、である。

展示風景 LIXILギャラリー(東京会場)[撮影:白石ちえこ]


公式サイト:https://www.livingculture.lixil/topics/gallery/g-1906/

2019/09/20(杉江あこ)

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第758回デザインギャラリー1953企画展「INGO MAURER 詩情とハイテック」

会期:2019/09/11~2019/10/07

松屋銀座7階デザインギャラリー1953[東京都]

「光の詩人」や「光の魔術師」と呼ばれる照明デザイナーのインゴ・マウラー。確かにマウラーを超える照明デザイナーは、世界中を見渡してもほかにはいない。なぜ、マウラーだけが特異なのか。いろいろな評価がされているが、結局は情熱ではないかと思う。光への異様なまでの情熱が、既成概念を打ち破り、誰もが想像つかない自由な発想へと駆り立てるのではないか。私がマウラーについて印象に残っているのは、白熱灯へのこだわりである。欧州でも日本でも白熱灯の製造が中止され、光源がLEDへと置き換わる過渡期に、マウラーはミラノサローネなどの展示会で強い怒りのメッセージを発した。それも光への並々ならぬ情熱ゆえだろう。

一般的にデザインには大きく二つの役割があると言われている。ひとつは問題解決で、もうひとつは価値や意味を与えることだ。マウラーが常に意識しているのは、おそらく後者の方だろう。なぜなら照明は、明かりを灯すだけで実質的な用を成すため、簡単に問題解決ができてしまうからだ。それよりもいかに人々に魅力を感じてもらうかが重要で、そのためにマウラーが挑戦し続けているのが詩的な照明デザインなのだろう。また、照明器具は明かりを灯している間は用を成すが、明かりを灯していない間は用を成さないため、言わば空間の中で邪魔な存在となる。照明デザイナーは常にそのことを留意しなければならず、ゆえにマウラーは詩的なデザインに挑むのだとも思う。

本展ではマウラーが手がけた有名な製品、例えば大きな電球をモチーフにした「Bulb」や電球に天使の羽が生えた「Lucellino」をはじめ、最新作も展示された。なかでも蝶の群れが幻想的に舞う「La Festa delle Farfalle」はさすがと言うべきか、マウラーの詩的なデザインの真骨頂を見たような気がした。

展示風景 松屋銀座7階デザインギャラリー1953[撮影:ナカサアンドパートナーズ]

ここ数年、欧州ではロウソクの売り上げが伸びていると聞く。主に伸びているのはおしゃれなアロマキャンドルで、部屋の中で炎の揺らぎと温かみを感じ、リラックスしたいと思う人々が増えているからである。積極的に家の照明を消し、ロウソクに火を灯す行為は、つまり明かりの価値や意味が変化してきている証拠だ。いま、人々が求めている明かりは温かみを感じることやリラックスできることであり、生活において不便なく照らしてくれる明かりではない。マウラーの照明デザインが尊敬され、受け入れられる要因もここにあるのではないかと思う。

展示風景 松屋銀座7階デザインギャラリー1953[撮影:ナカサアンドパートナーズ]


公式サイト:http://designcommittee.jp/2019/08/20190911.html

2019/09/20(杉江あこ)

美ら島からの染と織─色と文様のマジック

会期:2019/08/10~2019/09/23

渋谷区立松濤美術館[東京都]

数年前、沖縄に出張した際、紅型作家の工房を訪ねたことがあった。紅型とは、沖縄に伝わる型染めのことである。私は個人的に紅型が好きで、着物や帯、風呂敷などを持っている。艶やかな友禅などとは違い、どこかほっこりと愛らしい点に魅かれるからだ。その愛らしさの秘訣は、紅型独特の隈取りという技法にある。つまり色と色とを重ねる際に、境目にぼかしを施すことで、全体に柔らかい印象を与えるのだ。という一般的な知識はあったが、実際に紅型作家に話を聞くと、この隈取りにもルールがあり、流派によってどの色と色とを重ねるのかが決まっているのだという。何事も様式美があってこそと思い知った。

さて、本展ではこの紅型に始まり、沖縄の織物や染織の道具、人間国宝や名工らの作品が紹介されていた。ここでは沖縄というより、琉球王国という方が正しいのだろう。紅型に使われる黄や赤などの鮮やかな色彩感覚は琉球王国らしいが、文様は松竹梅や牡丹、鳳凰など、日本本土とそれほど変わらないことは発見だった。一方、織物はもっと独特である。絹や木綿、麻の織物も一部あるが、それ以外の織物も多い。麻の一種である苧麻で織られた上布、糸芭蕉で織られた芭蕉布(ばしょうふ)、そして中国からの輸入糸で織られた桐板などである。いずれも軽くて薄く、ハリのあるサラリとした風通しの良い織物で、高温多湿な琉球王国では重宝された。織物の文様もまた独特だ。幾何学文様や絣(かすり)が多いのだが、植物や動物を表わしていたり、織り方に特別な意味が込められていたりする。

《白地流水菖蒲蝶燕文様紅型苧麻衣裳》(国宝)18-19世紀 那覇市歴史博物館蔵
※9月10日〜23日展示

もっとも印象的だったのは、本展の最後に流れていた、重要無形文化財芭蕉布保持者(人間国宝)の平良敏子を追ったドキュメント映像だ。平良は、戦後、滅亡の危機にさらされた芭蕉布を復興させた功労者で、「喜如嘉の芭蕉布保存会」代表を務めている。ドキュメント映像を観ると、芭蕉布の製作には気が遠くなるほどの手間と時間がかかることがわかった。まず芭蕉の木を刈り、茎を剥ぐところから始まる。灰汁で煮出して軟らかくし、糸を紡ぎ、染めて……と一反の織物にするまでにいくつもの工程を経なければならない。染織物に限らず、結局、工芸品を伝えることは、その土地の歴史や文化を伝えることでもある。工業製品一辺倒となった現代においても、いまだに工芸品がわずかながら人々に求められているのは、そうした根っこに触れられるからではないか。かつては別の国として栄えた琉球王国の文化を垣間見られる展覧会である。

展示風景 2階展示室

公式サイト:https://shoto-museum.jp/exhibitions/184okinawa/

2019/09/01(杉江あこ)

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