2019年07月01日号
次回7月16日更新予定

artscapeレビュー

杉江あこのレビュー/プレビュー

ラリック・エレガンス 宝飾とガラスのモダニティ ─ユニマットコレクション─

会期:2019/02/24~2019/04/21

練馬区立美術館[東京都]

デザインには大きく二つの役割がある。ひとつは問題解決、もうひとつは意味形成や価値創造である。フランスのジュエリー作家でガラス工芸家のルネ・ラリックは、後者の役割でガラス工芸界に多大な功績を残した人物だ。1900年のパリ万国博覧会で注目を浴びたラリックは、アール・ヌーヴォーのジュエリー作家として成功を収めたにもかかわらず、時代の潮目を読み、その後、ガラス工芸家へと転向する。日用品のデザインに精力的に取り組むようになったきっかけは、香水瓶だった。折良く、フランソワ・コティという香水商から香水瓶の大量注文を受けたのである。それまで香水瓶といえば、無機質な薬瓶のような形態をしていた。20世紀初頭に新しく登場したデパートの売り場で、広く中産階級の婦人に香水を手に取ってもらうためには、もっと魅力的なパッケージでなければならないとコティは気づく。それがどんなに良い香りの香水であっても、視覚的に見せることができないからだ。当時、人気絶頂だったラリックが生み出す優美な世界観は、香水のイメージをふくらませるのに最適だとコティは判断した。

これを機に、ラリックは工場を設立し、ガラスの大量生産に取り組むようになる。繊細なガラス工芸でありながら、大量生産の製造方法を確立したことが、ラリックの偉業である。主に型吹きとプレス成型で、さまざまなガラス素材と仕上げ方法を駆使し、どんな造形をもつくった。香水瓶をはじめ、花瓶、ランプ、手鏡、灰皿、グラス、印章、インク壺、果てにはカーマスコットと、あらゆる日用品を手がけたのである。ラリックはデザイン(装飾美術)で、無味乾燥な日用品の価値を高めることに貢献した。しかも超高価な美術工芸品ではなく、比較的安価な量産品でそれを可能にしたのである。これこそ、デザインの力だ。それにしても、いま見ても魅力的なガラス工芸が多く、思わずうっとりと眺めていたくなった。



香水瓶《アンブル・アンティーク》コティ社(1910)
透明ガラス、型吹き成形、栓はプレス成形、サチネ、パチネ


常夜灯《日本のリンゴの木》(1920)
透明ガラス、型吹き成形、装飾板はプレス成形、サチネ/ベークライト製照明台付

公式サイト:https://neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=201810241540347937

2019/02/24(杉江あこ)

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イメージコレクター・杉浦非水展

会期:2019/02/09〜2019/04/07、2019/04/10〜2019/05/26

東京国立近代美術館 本館2階ギャラリー4[東京都]

「デザイン」を日本語に訳すことは難しい。あえて言うなら、図案、意匠、設計などの言葉が当てはまるか。明治、大正、昭和初期に生きた杉浦非水は、日本にまだデザインという言葉と概念がない時代に活躍したグラフィックデザインの先駆者だ。まさに図案家として、三越呉服店のポスターやPR誌の表紙をはじめ、さまざまな企業のポスターや装丁の仕事に携わった。本展はその杉浦の膨大な作品群を紹介する展覧会である。

杉浦の作品の魅力は、当時の時代背景を反映した和洋折衷的なモダンさであろう。非常に明快で親しみやすいのだ。もともと、東京美術学校(現・東京藝術大学)で日本画を学んだという経歴ゆえか、まるで竹久夢二の美人画を思わせる柔和でハイセンスな女性像がよく登場している。また、杉浦が影響を受けたのではないかと言われる、アール・ヌーヴォー様式もときどき取り入れているのがわかる。さらに大胆でユニークな構図は、フランスのポスター画家のカッサンドルやサヴィニャックの作品を彷彿とさせることもある。そんなふうに作品を観ながら、杉浦を何かに紐付かせようとあれこれと頭を巡らせるが、結局、杉浦が長けていたのは編集力だったのではないかと思い至る。

本展のタイトルでも杉浦を「イメージコレクター」と称しているように、杉浦は海外の新聞や雑誌、美術書などをコレクションし、また独自にスクラップブックを作成して、それらを大事な資料にしていたという。日本のグラフィックデザイン黎明期において、当然、デザイン専門書は身近になく、ましてやDTPは遥か遠い未来のことである。自ら積極的に資料となりそうなものを探し求めるほかはない。例えばスクラップブックには海外の新聞や雑誌から切り抜いたと思われるさまざまな書体の見本、つまりタイポグラフィー一覧があり、その涙ぐましい努力には感銘を受けた。一方で、動植物の端正な写生を「眼の記録」として残しており、外から内からさまざまな要素を自らに取り込んでいたことがわかる。インプットし、アウトプットする。この二つの行為の間に必要な咀嚼に非凡な才能を発揮したからこそ、杉浦は優れた作品を生み出すことができたのではないか。その点からしてもデザインの先駆者だったと言える。

杉浦非水《三越呉服店 春の新柄陳列会》(1914)

杉浦非水《カルピス》(1926)

杉浦非水《ヤマサ醤油》(1920頃)

公式サイト:http://www.momat.go.jp/am/exhibition/imagecollector2019/

2019/02/10(杉江あこ)

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抜け殻 松本泉展(NAU21世紀美術連立展 個展ブース)

会期:2019/02/06~2019/02/17

国立新美術館 展示室1A[東京都]

昆虫がこれほど美しいとは思わなかった。正直、私は昆虫が苦手だ。そんな私でさえ魅了されてしまうのが、松本泉の写真である。もともと、松本は資生堂のインハウスデザイナーとして長らく商品パッケージデザインに携わってきた人物だ。例えば、誰もが知るパッケージデザインのひとつに日焼け止め商品「アネッサ」がある。あの太陽のロゴマークを描いたのが松本だ。そして資生堂を退職後、始めたのが昆虫写真だった。聞けば、松本は子どもの頃から「昆虫博士」と呼ばれるほどの昆虫好きで、当時もフィルム一眼レフでの撮影や、細密画を描くことに夢中になっていたという。しかし資生堂入社後はその昆虫好きをいったん封印し、退社後に再び、昆虫への情熱を開花させた。

化粧品と昆虫、一見、何のつながりもないように思える。しかし松本の解釈では、どちらもパッケージデザインなのだ。化粧品は当然のことながら、昆虫も「生命のパッケージデザイン」であると松本は言う。なぜなら、昆虫は身体の外側を硬い殻で覆われた外骨格の生物であるからだ。生きるために進化したその造形や色彩の多様さに、パッケージデザイナーとして強く惹かれるのだと言う。これまで松本は数々の個展を開き、昆虫の美しさを発表してきた。それはカナブンやタマムシ、カミキリムシなどを主に黒背景の中で印象的に映した写真で、体表が緑や赤紫、茶、玉虫色などにギラリと光る様子に、思わず息をハッと飲んでしまうものばかりだった。しかし、それは単に昆虫に興味のない者が知らなかっただけで、昆虫をよく観察すれば、この色彩は見えたはずなのだ。いったいどうやって撮影しているのかを松本に尋ねると、自ら庭や公園などで昆虫を生きたまま捕まえてきて、自室のスタジオに放ち、昆虫が大人しくなるのを待つのだと言う。昆虫がじっと止まった瞬間にシャッターをたくさん切り、なるべく人間の目に近いピントとなるよう、何枚もの写真を重ねて1枚をつくり上げる。そこに何か特別なライティングや色彩調整をしているわけではないと言う。つまり松本は昆虫が本来持つ色彩を伝えているだけなのだった。

本展では趣向ががらりと変わり、松本がテーマに選んだのは昆虫の抜け殻だった。はかない半透明の色彩に抑えられた分、今度は昆虫の造形が際立って見える写真であった。ついさっきまで生きていた生命の形跡がある。脱皮の瞬間にもだえた形跡が見える。ここでもまた別の側面から昆虫の美しさを見せてくれた。

展示風景 国立新美術館 展示室1A

公式サイト:https://www.izumimatsumoto.com

2019/02/08(杉江あこ)

「OBI KONBU」展 MIYAKE DESIGN STUDIO 新作シリーズ①

会期:2019/01/19~2019/02/18

21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3[東京都]

三宅一生の仕事が近年ますます注目されている。三宅がつくるものはファッションではなくプロダクトだと、多くの人々が口をそろえて言う。ゆえにファッション業界以外のデザイナーやクリエイターからも熱い視線が注がれるのだ。特に結成から10年以上が経つ「Reality Lab.(リアリティ・ラボ)」は、新たな素材の研究と開発で、未来の社会に一石を投ずる活動で知られている。本展で紹介された「OBI」と「KONBU」もリアリティ・ラボが開発した新作バッグだった。

ギャラリーで紹介されるのだから、ただの新作発表というわけではない。まずネーミングのもととなった帯と利尻昆布が展示され、コンセプトが打ち出される。「OBI」は平面に畳まれたときの形状がまさに帯のように細長く、広げるとトートバッグやバックパックとなる製品だ。熱を加えると硬化する特殊な糸で編んだ布を使うことで、リアリティ・ラボがこれまで築き上げてきた平面から立体への展開を可能にし、またハリや光沢の強弱を生かすことで独特の佇まいをつくり出した。本展がユニークなのは、「デザインの解剖展」を彷彿とさせる手法で、「OBI」の全パーツが標本のようにパネル展示されていたことである。これを見ると、いかにシンプルな構造でありながら、しかし魅力的な造形となるようデザインされているのかがわかる。あわせて、その構造を伝えるイメージ映像や布そのものの展示もあった。

展示風景 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3[撮影:吉村昌也]

一方、「KONBU」は特殊な複数の細い糸で袋状に編み上げてから、4分の1サイズにまで圧縮し、染色するという独特の製法でつくられたバッグだ。圧縮することで立体的な形状となり、自立するほどの適度な硬さを持ちつつ、滑らかで肌触りが良いのが特徴で、ショルダーバッグやハンドバッグにもなり、二つ折りにすればクラッチにもなる。これの製造工程映像も興味深かったが、何より編み上げたばかりの状態と、4分の1サイズにまで圧縮した状態、染色した状態の実物が並べて展示されていたので、その製造工程がリアルに伝わった。簡略的ではあるが、デザインとは何かということをトップデザイナーが改めて示してくれた機会であった。

展示風景 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3[撮影:吉村昌也]

公式サイト:http://www.2121designsight.jp/gallery3/obi_konbu/

2019/01/31(杉江あこ)

第751回デザインギャラリー1953企画展「鈴木康広 近所の地球 旅の道具」

会期:2019/01/23~2019/02/17

松屋銀座7階デザインギャラリー1953[東京都]

アーティストの鈴木康広は周囲の人々にとても愛されている人ではないかと思う。私も鈴木に何度か会ったり取材をしたりしたことがあるが、彼はいつも目をキラキラと輝かせて熱く語ることが多く、子どものように純粋な人という印象を受けた。鈴木は作品を構想するときに、いつもノートにペンでスケッチを描き溜める。そのスケッチが何とも素朴でありながら、しかしそこに「鈴木ワールド」とでも言うべく別次元の宇宙が果てしなく広がっている。そのスケッチ群を壁面いっぱいに展開した本展は、まさに「鈴木ワールド」を堪能できる内容であった。

鈴木は日常の風景や現象を独自の視点で観察し、それを「見立て」によってとらえ直し、作品へ昇華させることで知られている。代表作のひとつ《ファスナーの船》は船をファスナーに見立てた作品だ。「海を進む船と航跡がファスナーのように見えた」という、子どものように純粋な視点が作品を生むきっかけとなった。すごいのは、そんな気づきだけに終わらせず、本気で船をつくってしまったことである。まずはラジコン式の小さな船を公園の池で走らせ、次に「瀬戸内国際芸術祭」で人が乗れる船を海に走らせた。もうひとつ《りんごのけん玉》は、けん玉の赤い玉をりんごに見立てた作品だ。けん玉は地球の引力を利用した遊びである。つまりこれを「ニュートンが木からりんごが落ちるのを見て万有引力の法則を発見した」というエピソードに見立てたのだ。鈴木は中学生の頃に担任教師の勧めで始めて以来、けん玉に対しては並々ならぬ思い入れがあるようだ。

そうした鈴木の過去20年分のさまざまな作品が実物とスケッチと映像で紹介されていた。鈴木の発想の原点であるスケッチを観ていると、思わずクスッと笑ってしまうものが多い。鈴木の見立ては、まったく別物の何かと何かとに共通性を見出す心である。それは既成概念にとらわれない、子どものように純粋無垢な心でなければ得られない。案外と深いなと思ったのが、「現在/過去」という判子である。天面に「現在」と書かれた判子を捺すと、紙に写るのは「過去」という文字である。現在であったはずの時間は、判子を捺した瞬間に、すでに過去となっている。そんな当たり前の時間の概念についても、まるで子どもに率直な質問を投げかけられたときのように、ハッと考えさせられるのである。

展示風景 松屋銀座7階デザインギャラリー1953[撮影:ナカサアンドパートナーズ]

公式サイト:http://designcommittee.jp/2019/01/20190123.html

2019/01/31(杉江あこ)

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