2023年06月01日号
次回6月15日更新予定

artscapeレビュー

杉江あこのレビュー/プレビュー

How is Life? ─地球と生きるためのデザイン

会期:2022/10/21~2023/03/19

TOTOギャラリー・間[東京都]

経済思想・社会思想を専門とする斎藤幸平の著書『人新世の「資本論」』を一昨年あたりに読み、相当感化された私にとって、本展は大変に興味深い内容だった。いま、SDGsが叫ばれる世の中だが、本当にこれらの項目を実行するだけで地球環境を劇的に変えられるのだろうか。以前から薄々と感じていたそんな疑問に対し、同書は否と明確に答えを突き付けてくれた。本展もまた然りである。ライブラリーコーナーに「キュレーター会議で取り上げられた」という書籍が何冊か並んでいたのだが、現に、そのなかに同書も入っていたことに頷けた。

近代以降、人類は経済成長のための活動をずっと続けてきたが、さまざまな面で限界に達したいま、これ以上の成長を望むことは正しいのだろうか。そんな根本的な問いに対し、本展は「成長なき繁栄」という言葉で返す。そう、人類をはじめ地球上に棲むすべての生物がこの先も持続的に繁栄していくためには、経済成長を前提とする必要はもうないのだ。生産、消費、廃棄といった従来のサイクルで物事を捉えることを我々はいったん止め、皆が真に豊かになれる方向へ大きく転換しなければならない。そうした考えに基づいた草の根運動やプロジェクトが、いま、世界中で実践され始めているという。塚本由晴、千葉学、田根剛、セン・クアンといった第一線で活躍する建築家・建築史家4人がそれらの運動やプロジェクトを収集し紹介したのが本展だ。


展示風景 TOTOギャラリー・間 © Nacása & Partners Inc.


農業や林業、里山の仕組みを見直すといった類のプロジェクトも多く紹介されていたが、私がむしろ興味を引かれたのは都市のあり方である。特にパリをはじめ、ヨーロッパの都市が積極的に変わろうとしているのには好感を持てた。例えば車や鉄道に代わり、改めて着目されている移動手段は自転車だという。より人間に近いモビリティが求められているというわけだ。そこで問われるのが自転車道を優先した都市計画で、パリやチューリッヒなどではすでにそうした試みが始まっているという。


展示風景 TOTOギャラリー・間 © Nacása & Partners Inc.


結局、既成概念にとらわれていては何も変えられない。この危機的状況を脱するには、より柔軟な発想が必要となる。最後に観た作品「How to Settle on Earth」は、その点で非常に刺激的な内容だった。建築家・都市計画家のヨナ・フリードマンが「地球の再編成」をテーマに軽妙なイラストながらラディカルな提案をしていて、目が釘付けになった。地球および人類の未来のためには、もしかすると国境すらも取っ払う必要が出てくるのかもしれない。


公式サイト:https://jp.toto.com/gallerma/ex221021/

2023/01/21(土)(杉江あこ)

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百貨店展─夢と憧れの建築史

会期:2022/09/07~2023/02/12

高島屋史料館TOKYO 4階展示室[東京都]

1990年代、私が大阪に住んでいた頃、大丸心斎橋店といえばとても重厚な歴史的建造物だった。これを設計した建築家のヴォーリズは「メンソレータムの創業者(正しくは、メンソレータムを日本に輸入し広めたヴォーリズ合名会社の創立者のひとり)である」と、その豆情報が口々に伝えられていた。まるで西洋寺院のような荘厳な外観といい、きらびやかな装飾で覆われた天井やエレベーターホールといい、正直、ミナミにはもったいないほどの風貌を備えていた印象がある。2019年に建て替えられた際にも、ヴォーリズ建築の意匠が低層階の外観などに引き継がれたそうで、この建物がいかに心斎橋の顔として親しまれてきたのかを物語る。

本展は、日本の百貨店に建築の側面から切り込んだユニークな試みだ。大丸心斎橋店をはじめ、1931年創業当時の松屋浅草店、いまは現存しない1928年創業の白木屋日本橋店のファサード模型が会場に所狭しと並び、百貨店建築の特徴を伝えていた。振り返れば、百貨店の屋上にはいろいろな娯楽施設が存在した。遊園地のほか、驚いたのは動物園まで存在したことだ。日本橋高島屋の屋上動物園へ象がクレーンで持ち上げられる昔の記録映像を見て、その尋常ではない雰囲気が伝わった。また松屋浅草店の屋上遊園地はハリウッド映画のクライマックスシーンにも使われたそうで、米国から見ると、それは不思議な光景に映ったのだろう。


展示風景 高島屋史料館TOKYO 4階展示室[提供:高島屋史料館TOKYO]


そもそも日本の百貨店は、19世紀に欧州で生まれたデパートメントストアを手本にし、20世紀初頭から始まったものだ。知られているように、三越、高島屋、伊勢丹などの母体はいずれも呉服店だった。その後、鉄道会社が駅と直結した百貨店(ターミナルデパート)を生み、呉服店系と鉄道会社系の二系統で日本独自の発展を遂げていくことになる。実は呉服店系百貨店も資金援助を通じて駅との接続を図ったところが少なくないとのことで、鉄道や地下鉄の敷設とともに駅と直結するかたちで発展を遂げたのが、日本の百貨店の大きな特徴である。それは日本が、鉄道網が非常に発達した国である証拠だろう。ちなみに欧州発の百貨店に対し、米国発の商業施設はショッピングセンターである。百貨店は館全体の売上をベースに運営するのに対し、ショッピングセンターはテナントの家賃収入によって運営するのが大きな違いだ。そんな区別さえもいままで意識していなかったのだが、本展で改めて気づいた。百貨店にとってもっとも書き入れ時となる昨年末に、その歩みを興味深く眺めた。


展示風景 高島屋史料館TOKYO 4階展示室[提供:高島屋史料館TOKYO]



公式サイト:https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/tokyo/exhibition/

2022/12/23(金)(杉江あこ)

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月に吠えよ、萩原朔太郎展

会期:2022/10/01~2023/02/05

世田谷文学館[東京都]

個人的な話で恐縮だが、最近、短歌を詠み始めた。新聞の投稿欄に目を通すうちに興味を持ったのがきっかけだが、始めてみると、どんなときに短歌を詠みたくなるのか、つくり手の心情が少しだけわかるようになった。それはいつかと言うと、感情を動かされたときである。美しい景色を見たとき、何か些細な変化に気づいたときなどに、湧き起こる胸の内を言葉に表わすのが短歌である。また短歌は五七五七七のリズムに乗せるからこそ、その縛りに苦しむこともあるが、素人でも何とか形になる便利なツールであることにも気づいた。その点、自由詩は自由に詠める分、実は難しい表現方法なのではないかと思う。口語自由詩を確立し、「日本近代詩の父」と称された、萩原朔太郎の才能を昨年末に改めて目の当たりにした。


「竹」原稿(前橋文学館蔵)


萩原朔太郎の没後80年に合わせた「萩原朔太郎大全2022」が、昨年秋頃から全国53カ所の文学館や美術館などで開催されている。萩原朔太郎にちなんだ独自企画の展覧会がそれぞれの会場で横断的に開かれたのだ。世田谷区は朔太郎が晩年を過ごした縁のある土地ということで、この地で書かれたとされる短編小説『猫町』の一節から本展は始まる。蛇腹に開かれた本と本との間を縫うような展示構成で、観る者を朔太郎の世界へと引き込んだ。詩集『月に吠える』や『青猫』などから抜粋した名詩をはじめ、書き残された原稿やノート、さらには朔太郎自らが描いた水彩絵、作曲した楽譜、デザインした椅子など、言葉に留まらないあふれる才能の片鱗に触れる機会となった。併せて、朔太郎に触発された現代作家たちによる絵画や漫画、インスタレーション、自動からくり人形などの多彩な作品にも囲まれた。


展示風景 世田谷文学館


朔太郎が表現の源泉としたのは、圧倒的な憂鬱や苦悩、孤独だ。ある程度、裕福な家庭に生まれ育ちながら、最後まで理解し合えなかった父との葛藤を抱え、病的な神経質さで自身に対する憂鬱や苦悩、孤独を深めたとされる。そんな計り知れない負の感情を言葉に置き換えたからこそ、朔太郎は鮮烈な自由詩を生めたのだろう。しかも時代を超え、未だ現代作家にも影響を与え続けている現象を見ると、いつの世にも生きづらさを抱えた人らが必ずいて、救いを求めていることがわかる。朔太郎が吐き出した言葉の数々は、そんな彼らをそっと癒すのだろう。


朔太郎肖像(世田谷区代田の家の庭にて)



公式サイト:https://www.setabun.or.jp/exhibition/20221001_sakutarohagiwara.html

2022/12/23(金)(杉江あこ)

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宇野亞喜良 万華鏡

会期:2022/12/09~2023/01/31

ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]

竹久夢二といい、中原淳一といい、少女が憧れた“少女像”を描いた画家らはいずれも男性だった。宇野亞喜良もその流れを汲むイラストレーターなのかもしれない。現に宇野は子供の頃、自分の妹が購読していた中原淳一創刊の少女雑誌『それいゆ』の挿絵にとても憧れたと語っている。現代はジェンダーレスが叫ばれる時代のため、こんな観点は的外れなのかもしれないが、男性でも女性的な趣味や傾向、性格を併せ持つ人は結構いる。宇野は明らかにそのパターンだ。かつて私は本人にインタビューする機会があったのだが、非常に物腰の柔らかい紳士という印象だった。決してギラギラとした面がないのだ。「女性的なある感覚が自分のなかにあるのかもしれない」とその際、本人も語っていたように、かわいらしさや妖艶さ、耽美な雰囲気を漂わせる宇野が生み出した少女像は、本当に少女の視点を持って描かれているように思える。しかも昨年、宇野は米寿(88歳)を迎えたというから驚きだ。生涯にわたって独自の少女像を描き続ける、そのパワーに感心してやまない。


展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー1階[写真:藤塚光政(提供:ギンザ・グラフィック・ギャラリー)]


さて、本展では最新の作品集『宇野亞喜良 Kaleidoscope』からピックアップされた原画をはじめ、俳句と少女をテーマにした作品シリーズ約20点が会場に並んだ。しかも1点1点を異なる特殊印刷で仕上げた面白い試みだった。新聞紙にシルクスクリーン印刷をした作品や、透明ビーズを付着させてモザイク画のような視覚効果を狙った作品、ラメ加工を施した作品、はたまた菓子の包み紙のようなホイルペーパーにシルクスクリーン印刷をした作品などどれも非常に凝っており、それは印刷実験の展覧会でもあった。その技巧を凝らした絵の中で、少女たちは相変わらずアンニュイな眼差しでこちらを見つめる。タイトルの「万華鏡」とはよく言ったもので、さまざまな姿へと七変化を見せる少女たちではあるが、決して間近に触れることはできない孤高さを持ち合わせているようにも見える。まだ東京では初雪を見ないが、できれば雪の降る日にもう一度眺めたくなる作品群だった。


展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー1階[写真:藤塚光政(提供:ギンザ・グラフィック・ギャラリー)]



公式サイト:https://www.dnpfcp.jp/gallery/ggg/jp/00000813

2022/12/14(水)(杉江あこ)

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ビーズ─つなぐ かざる みせる 国立民族学博物館コレクション

会期:2022/11/15~2023/01/15

渋谷区立松濤美術館[東京都]

ビーズというと、それまでガラスやプラスチックの玉をつないだアクセサリーというイメージしか持っていなかった。どちらかと言えば、個人的にはそれほど興味のあるものではなかったのだが、本展を観てそのイメージがガラリと変わった。本展ではビーズを「さまざまな部材に穴を開け、それらをつないだもの」と定義する。さまざまな部材とはガラスやプラスチックのみならず、世界を見渡せば植物や貝、石、鳥の羽根、卵殻、動物の歯、骨、鱗と実に多様だ。なんと12万年前から世界各地で人類はビーズをつくってきたのだという。女性がおしゃれのために身につけるアクセサリーという概念はほんの一部に過ぎなかった。もっとプリミティブで、土着的で、民族的な装身具だったのだ。そんな新たな概念のもとで展示を眺めると、それぞれがとても興味深く映った。


展示風景 渋谷区立松濤美術館B1F


人類史を調べると、12万年前は温暖化によりネアンデルタール人が急増したとされる中期旧石器時代に当たる。彼らは洞窟に住み、石器や弓矢を使用して狩猟生活を送っていたのが特徴だが、注目したいのは埋葬を始めたという点だ。つまり祈祷や魔除けなどの呪術的な儀式にビーズを用いてきた可能性が高い。もちろん、それだけではない。自身の身分やアイデンティティを表現するために衣服や身体にビーズをあしらってきたのだという。


《壁飾り》ブラジル 国立民族学博物館蔵


その多様な素材でできたビーズ群はなんとも迫力があった。貝や石、鳥の羽根などは鮮やかで見栄えがするが、動物の歯や骨、鱗などはややグロテスクでもある。だからこそ強烈な強さがあり、それを生んだ人々のたくましさが伝わった。

そもそもなぜ先史から世界のあちこちで人類はビーズをつくってきたのだろうか。それが衣服や装身具の一部であったことは理解できたが、細かいパーツに穴を開けて糸状のものを通してつなぐ行為をわざわざしてきたところが面白い。そこには何かつくらざるを得ない純粋な創作欲求を感じてならない。シンプルな構造で、身近にあるどんな物でもできるからこそ、創作の自由度が高く、人々の心を捉えたのかもしれない。本展では最後に現代作家のビーズ作品が紹介されており、なおそれを強く感じた。人々のビーズ創作への熱はこの先も冷めることはないのだろう。


《首飾り》フィジー 国立民族学博物館蔵



公式サイト:https://shoto-museum.jp/exhibitions/198beads/

2022/12/13(火)(杉江あこ)

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