artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
草間彌生 わが永遠の魂
会期:2017/02/22~2017/05/22
国立新美術館[東京都]
まず最初の部屋は、大きなキャンバスを3枚つなげた巨大な富士山の絵。なんじゃこりゃー? 次の部屋に進むと……またもや、なんじゃこりゃー? 向こう側の壁までぶち抜きの大空間に、一辺2メートル近い正方形のキャンバスが数百枚、びっしりと並んでいる。水玉あり網目あり、ジグザグありハッチング(平行線)あり、顔や目玉らしき形態あり、それらが自由に組み合わされ、原色の絵具で自在に塗りたくられている。新作の「わが永遠の魂」シリーズだ。これは壮観! その次の部屋に入ると、ようやく1940-50年代の最初期の作品に出会える。幻覚から逃れるために描いたという絵画で、偶然なのかポロックや河原温の初期作品を彷彿させる作品もある。その次の部屋は、渡米後に編み出した網目模様を無限に繰り返していくパターンペインティングが続き、さらにハプニングの映像、無数の突起や水玉模様のついたポップなオブジェなど、60年代に表現が多様化していくのがわかる。ここまでが前半。
後半は、アメリカから帰国後の70年代のコラージュから始まる。ここでハッと思った。これって最初期の幻覚絵画とよく似てなくないか? 1973年に帰国したのも体調不良のためだったというし、いわばフリダシに戻ったような感じ。さらに80-90年代は、50-60年代の作品をシャッフルしたようなポップなパターンの繰り返しとなって、再び大空間の「わが永遠の魂」に戻ってくる。ああなるほど、「わが永遠の魂」シリーズはこれまでの彼女の「幻覚」「繰り返し」「ポップ」の3要素を自由自在に組み合わせたもんなんだと納得。草間の個展はこれまで何度も見てきたが、今回ほど腑に落ちたことはない。ぼくのなかではすでに陳腐化していた草間彌生像が、何十年ぶりかで更新された感じ。これもすべて「わが永遠の魂」の思い切った展示のおかげだ。
2017/02/21(火)(村田真)
戦場のモダンダンス「麦と兵隊」より
会期:2017/02/17~2017/02/19
横浜赤レンガ倉庫1号館2Fスペース[神奈川県]
日本のモダンダンスのパイオニア江口隆哉・宮操子夫妻が、火野葦平原作の「麦と兵隊」を帝国劇場で発表したのは、日中戦争ただなかの1938年のこと。翌年から彼らは「麦と兵隊」の一部を携えて中国、シンガポール、ジャワ島などを従軍慰問する。慰問の旅は42年まで4年間続き、年に1カ月ほど、1日平均2回公演したというから、トータルでおよそ250公演をこなしたことになる。驚くのは動員数で、1回に100~2700人が詰めかけ、年平均5万人、4年間で20万人もの日本兵が見たというのだ。これが大げさでないのは、屋外の舞台を囲むおびただしい数の兵士たちを捉えた写真によって確かめられる。おそらくダンス公演としては空前の動員数だっただろう。それにしても、アジアにどれだけたくさんの日本兵が派遣されていたことか、しかもそのうちの多くが帰らぬ人となったのだから、なにをかいわんや。ともあれ、そのときのダンスを再現してみようというのが今回の公演なのだ。といってもダンスだから現物はないし、動画も残ってないし、出し物もひとつではないので、残された写真や証言から、「きっとこんな感じじゃなかったか」と想像してリコンストラクトしたという。だからぜんぜん違うかもしれないのだ。
で、実際に公演を見て、まさかこんな振り付けじゃなかっただろうというようなダンスだった。登場人物は男女3人ずつ。女性は前半、カーキ色のシャツに軍帽姿で、下半身はブルマの生足。途中で、古賀春江の絵に出てくるモガが着けていたような真っ赤な水着に着替えたりしたが、当時の写真を見ると、水着はともかく生足は見せていたようだ。男性は腰を前後にクイクイ振る動作を頻発するなど、下世話な動きが目立つ。戦地では「芸術的な舞踊」より「安易で朗らか」な踊りを軍から要請されたといい、観客がどっと笑うようなユーモラスなダンスだったらしいが、さすがに「腰クイクイ」はないだろう。男女の絡みも現代的なコントを思わせるし、ブレイクダンスみたいな動きも採り入れてるし、かなり自由に想像/創造している。制作者はおそらく「こんな感じじゃなかったか」というより、「こんな感じだったらおもしろいのに」という希望で再構築したのかもしれない。ともあれ、美術なら戦争画の現物が残されているので研究も進むが、ダンスは残ってないし、宮以外は記録を残そうともしなかったようなので、このような試みがなければ手つかずのまま闇に葬られてしまうそうだ。ま、それだけに想像力の入り込む余地があるともいえるが。
2017/02/18(土)(村田真)
榎本耕一「ストーン」
会期:2017/01/14~2017/02/18
タロウナス[東京都]
さまざまな状況下における人物を描くが、共通する特徴がいくつかある。人物の顔が古代人風であること、にもかかわらず一部がロボット、つまりアンドロイドであること、また一部が透明であること、寝ているのか倒されたのか死体なのか、とにかく横たわる人が多いこと。また、前景や中景には石や植物が克明に描かれ、東京の都市風景や地球の画像が顔を出し、部分的にどこかで見たことのある不穏なイメージがコラージュ的に組み合わされ、そしてそれらが根気よく丁寧に描かれていることだ。これはいい。
2017/02/17(金)(村田真)
本田千昭個展「明日への神話~人は謳い人は哭く、大旗の前」
会期:2017/02/06~2017/02/18
アートラボ・トーキョー[東京都]
ナチスの青年と少女との絡みを描いている。制服にはハーケンクロイツの紋章が。少女漫画の延長というか、内容はともかく絵自体はマンガそのもの。発達障害という作者本人も黒ずくめのネオナチ姿で応対してくれた。おお、本人もマンガから出てきたような……。
2017/02/17(金)(村田真)
和田章江「鏡」
会期:2017/02/10~2017/03/04
秋山画廊[東京都]
2017年1月に40代なかばの若さで急逝した和田章江の遺作展。大きな姿見から手鏡、車のバックミラーまで、鏡をのぞき見る人たちを撮った写真シリーズ25点ほどの展示。数年前に工房親で発表した作品も混じっている。トリックに走らず、作為的にもならず、1枚1枚そっけないほど淡々と撮っているのがいい。鏡を撮ることは迷宮に足を踏み入れることだ。
2017/02/17(金)(村田真)