artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
ミュシャ展
会期:2017/03/08~2017/06/05
国立新美術館[東京都]
国立新美術館ができて10年経つが、今回ほど天井の高い巨大空間を生かしきれた展覧会はないと思った。あ、いま思い出したけど「貴婦人と一角獣」展は少し生かしてたっけ。ともあれ貧乏人なもんで、展覧会を見るたびに壁の上半分がもったいないなあと思っていたのだ。とにかく作品がデカイ。最大6×8メートルの大画面が20点もあるから壮観だ。作品の上辺と天井のあいだにほとんど隙間がない! もうそれだけで感動してしまう。アルフォンス・ミュシャの《スラブ叙事詩》シリーズのことだ。だいたい、こんな大きなキャンバスがあった(つくった)ことにも感心する。画面の縁を見ると、額縁の奥にハトメがついているのが見えるので、おそらく木枠に張らず、額縁の裏側から引っ張って留めているのだろう。なるほど、これなら外して丸めれば搬送は比較的楽だ。
さて、ミュシャといえば、一般には19世紀末のパリの街を飾った華麗なポスターで知られるアールヌーヴォーの画家(というよりデザイナー)だが、その後のことはあまり知られていない。1910年に50歳で故郷ボヘミアに戻ってから、自己のルーツであるスラブ民族のアイデンティティをテーマにした《スラブ叙事詩》に着手、16年ほどを費やして全20点を完成させた。これは各画面とも人物が数十人単位で登場する壮大な物語画で、描写力は見事というほかない。どっちかというと印象派以前の写実絵画だが、一方で輪郭がはっきりしているうえ塗り方も平坦なので、ペインティングというよりイラストレーションにも近い。完成したのは、ダダやシュルレアリスム、抽象が出そろった1926年のことだから、テーマもスタイルもすでに時代遅れと見なされたことだろう。しかも第二次大戦後チェコは共産圏に入ったこともあって、これほどの超大作なのにほとんど知られることがなかったのだ。芸術作品にも制作するタイミング、発表するタイミングというものが重要なんですね。
2017/03/07(火)(村田真)
ソーシャリー・エンゲイジド・アート展 社会を動かすアートの新潮流
会期:2017/02/18~2017/03/05
アーツ千代田3331メインギャラリー[東京都]
ソーシャリー・エンゲイジド・アート。訳せば「社会的につながる芸術」ですかね。長いんで「SEA」と略す。これまで「コミュニケーションアート」「関係性の美学」「アート・アクティヴィズム」「地域アート」などと呼ばれてきた、社会とかかわるアートの総称だ(でもそれぞれ少しずつ守備範囲が異なる)。出品はペドロ・レイエス、西尾美也、アイ・ウェイウェイ、スザンヌ・レイシー、丹羽良徳ら。社会とかかわるアートだから、成果物(作品)はあまり重視されず、おのずとこうした展覧会は資料展か記録展にならざるをえない。それはそれで貴重なものだが、そもそもこうしたギャラリーに収まるアートへの反動として生まれた側面もあるので、展覧会として見せるのはどうなんだろうという疑問もある。そのことも含めて、問題提起としては価値ある企画だ。
2017/03/05(日)(村田真)
ポコラート全国公募vol.7 応募作品一挙公開!!
会期:2017/03/03~2017/03/05
アーツ千代田3331体育館[東京都]
元体育館だった巨大な空間にポコラートがびっしり並んだ。何百点、いや何千点あるんだろう。このなかから審査で選ばれた作品が「ポコラート全国公募vol.7」として正式に展示されるわけだ。ポコラートってなんだ? と問われると困るが、たぶんアートの常識にとらわれないアートらしきものだろう。それがこれだけ集まるともはや壮観を超えて、こちらのアートの常識が揺らぎ始め、ゲシュタルト崩壊を起こしそうになる。それならこれを正式の展覧会にして、あえて審査して大半を落とす必要はないとの意見もあるはず。でもこれらを見ているとやはり優劣というか、おもしろいかおもしろくないか、あるいは刺激が強いか弱いかには分けられる。ポコラート界も競争が熾烈になりつつあるようだ。
2017/03/05(日)(村田真)
試写『Don't Blink ロバート・フランクの写した時代』
ロバート・フランクって写真史のなかの人だと思ったら、まだ生きていたんですね。娘と息子を若くして亡くしたが、本人は90歳を過ぎても健在だという。1924年スイスに生まれ、第二次大戦後に渡米。1959年に出した写真集『The Americans』で注目を集めたが、映画にも手を染める。この映画ではさまざまな時代のロバートが入れ替わり登場するが、そんなフィルムが残っていたのは彼自身が映画を撮っていたからだろう。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやローリング・ストーンズらの音楽も懐かしい。
2017/03/03(金)(村田真)
日本財団DIVERSITY in ARTS─MAZEKOZEプロローグ
会期:2017/03/03~2017/03/05
コレド室町 江戸桜通り地下歩道[東京都]
ダイバーシティ・イン・アーツとはお台場の芸術、ではなくて多様性の芸術のこと。いいかえればアウトサイダーアート、アールブリュット、ポコラートともいう。だれがどんな思惑で仕掛けたかは知らないが、障害者のアートがまた新たに言い換えられて世に発信されようとしているわけだ。なのに展示は地下歩道のずいぶん劣悪な環境のなかで3日間だけ。それでもさすがに作品はすばらしく輝いていた。
2017/03/03(金)(村田真)