artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
シャセリオー展 19世紀フランス・ロマン主義の異才
会期:2017/02/28~2017/05/28
国立西洋美術館[東京都]
西洋美術館はある時代のトップではなく、2番手3番手に焦点を当てるのがうまい。クロード・ロランがそうだったし、ラ・トゥールもホドラーもクラーナハもそうだ。シャセリオーもまさに2番手3番手の代表格(?)。彼の絵をひとことで形容するなら、新古典主義とロマン主義と象徴主義を足して3で割ったような。も少し近づいていうと、新古典主義やロマン主義からは2歩遅れ、象徴主義からは1歩先んじていたような。彼はアングル門下で古典主義を学び、ロマン主義に転じたものの、わずか37歳で死去。ラファエロ、カラヴァッジョ、ゴッホ、モディリアーニらと同じく早逝の画家だ。おもしろいのは、なんかギュスターヴ・モローに似た絵があるなと思ったら、その隣に本物のモロー作品があったりして、シャセリオーがモローに似ているのではなく、モローがシャセリオーに似ていることがわかるのだ。もう少し長生きしたら、さらにどのような展開が待っていただろう。
2017/03/16(木)(村田真)
日本・デンマーク外交関係樹立150周年記念 スケーエン:デンマークの芸術家村
会期:2017/02/10~2017/05/28
国立西洋美術館[東京都]
Skagenと書いて「スケーエン」と読むそうだ。デンマークの北部にある漁村で、ここに19世紀末から20世紀初頭にかけて画家や詩人、作曲家が集まり、国際的な芸術家村として知られたという。そのスケーエンに集った画家たちによる59点の作品が紹介されている。ま、はっきりいってド田舎だけに、農村リアリズムっていうんでしょうか、ジュール・ブルトンやバスティアン・ルパージュ風の写実的な風景画ばかり。しかも北方に位置するため光を渇望するせいか、白を多用するのが特徴だ。さわやかだけど、それだけ。だいたいヨーロッパもアメリカも日本も、時代を問わず、田舎に行くほどリアリズムが尊ばれるのはなぜだろう。なにか普遍的な法則があるのかもしれない。
2017/03/16(木)(村田真)
VOCA展2017 現代美術の展望─新しい平面の作家たち
会期:2017/03/11~2017/03/30
上野の森美術館[東京都]
絵画中心の展覧会だが、今回は絵画からちょっと外れた作品に見るべきものが多かった。例えば益永梢子は、平坦に彩色したキャンバスを切り取って丸めて6個の透明のアクリルボックスに詰め込み、アクリルの表面にも彩色したりドローイングしたりしている。絵画の断片の集積であると同時に、それ自体が絵画としても成立している。東畠孝子は壁に木材を組んで棚をつくり、そこに本(古本、画集、アルバム、楽譜など)を並べ、観客が自由に手にとって読めるようにした。これも1冊1冊の本が平面の積み重ねであると同時に、本棚全体がひとつの絵画として見られるのだ。
写真を使った作品では、加納俊輔、Nerhol、村上華子の試みが、いずれも既知のシリーズではあるけれど斬新だ。特にNerholの作品は、連続撮影した200枚のポートレートを重ねてカッターで彫り込んだ6点セット。写されたモデルは同一人物なのに、それぞれ表情が異なって見えるだけでなく、そこには(撮影)時間の推移も刻まれている。また、これも平面の集積であると同時に、レリーフ作品としても捉えることができる。今回いちばん感心したのは、ごちゃごちゃした猥雑な都市風景を白黒で描き、一部分をくりぬいてそこからカラー映像を見せた照沼敦朗の作品だ。描写の密度といい、孤高の世界観といい、ずば抜けている。これに比べれば、VOCA賞の幸田千衣の「風景画」は薄い。どうしたんだろう。テーマ自体が絵具を塗る行為と共振しているように感じられた以前の「水浴図」と比べても、退行してないか。
2017/03/16(木)(村田真)
金氏徹平展 記号は記号ではない
会期:2017/03/11~2017/03/30
上野の森美術館ギャラリー[東京都]
10年前に「VOCA展」に出品した金氏の個展。VOCA賞や奨励賞など、これまで20年余りで100人以上が受賞しているが、受賞しながら消えていった作家もいれば、金氏のように受賞しなかったけど伸びた作家もいる。そもそも「VOCA展」に一度も推薦されずに売れっ子になった作家も多いはず。今度それを検証してみたらどうだろう? 選考委員(推薦委員も)がいかに慧眼か、または節穴かがわかるはず(あ、だから検証しないのか)。余談はさておき。金氏はいくつかの作品を出しているが、なかでも目を引いたのは、色のついた液体が滴る画像を板に貼り、輪郭に沿ってカットしたものを組み合わせた作品。この液体のイメージは絵具を思わせ、それがいくつも組み合わさることで絵画を表わしているのかもしれない。床置きの立体もあれば壁掛けのレリーフもあり、2次元のイメージと3次元の物体を錯綜するトリッキーな効果を生み出している。リキテンスタイン風のユーモアとアイロニーが効いている。
2017/03/16(木)(村田真)
第9回絹谷幸二賞贈呈式
会期:2017/03/13
学士会館[東京都]
具象系の若手画家を支援する絹谷幸二賞も今年で9回目。ぼくはいつから推薦委員をやってるのか忘れたけど、だいたい毎年交互に直球と変化球を投げ分けている。直球はど真ん中の賞狙い、変化球は「これでも具象画?」「これでも絵画?」と問う問題提起型だ。そしたら一昨年の直球(久松知子だ)がストライクの奨励賞を獲ったのに続き、今年の直球も同じく奨励賞に輝いた。推薦したのはサブリナ・ホーラク、この春東京藝大の博士を修了するオーストリア生まれのハーフだ。といってもぼくは過去2回作品を見ただけで、ご本人にお会いしたことがなかったので、ごあいさつがてら贈呈式に出席した次第。
彼女の作品はユニークで、ベニヤ板を人体のかたち(モデルは本人らしい)に切り抜いて着色し、さまざまに組み合わせたレリーフ状の絵画。人体のポーズも色使いもポップでキッチュな香りがする。どっちかというと直球でなくて変化球だったかも。ちなみに絹谷幸二賞は、あっさりした風景画を描く西村有。悪くはないけど、サブリナに比べると明らかに弱いなあ。ところでこの賞、知名度が低いのは展覧会をやらずに賞(と賞金)を授けるだけだからだろう。受賞作家もせっかくだから作品をお披露目したいだろうし、こっちだって見たいのに。
2017/03/13(月)(村田真)