artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
美を掬(すく)う人 福原信三・路草─資生堂の美の源流─
会期:2016/04/05~2016/06/24
資生堂銀座ビル1、2階[東京都]
資生堂初代社長であり写真家としても活動した福原信三と、弟の路草の未発表写真展。作品は兄弟別ではなく、木、風景、人物などテーマ別に分かれているが、信三は黒、路草は白と額縁の色で区別している。兄弟だから似たような写真ばかりだろうと思いながら見ていたが、しっかり違いがわかった。信三はきわめて真っ当な美しい芸術写真を目指したのに対し、路草はディテールにこだわったり抽象的な画面構成を試みたりどこか斜に構えているのだ。信三が調和のとれた全体を目指す古典主義だとすれば、路草はそこからの逸脱を試みるバロックにたとえられるかもしれない。まあだいたい兄弟ってそんなもんでしょ。
2016/06/06(月)(村田真)
奥村雄樹による高橋尚愛
会期:2016/06/04~2016/09/04
メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]
奥村はベルギーのある画廊の活動をまとめた本を通じて、60年代にそこで個展を開いた高橋尚愛というコンセプチュアル系のアーティストを知る。彼に興味をもった奥村は、当時の画廊主を探し出して、倉庫で作品に対面し、作家本人に会うことにも成功。高橋はミラノでルーチョ・フォンタナ、その後ニューヨークで長くラウシェンバーグのアシスタントを務めたという。なぜ高橋に興味をもったかといえば、奥村と同じく「私の作品」「作者」という概念に批判的な問題意識を持っているからだ。ここからふたりのコラボレーション、というより奥村による高橋への自己同一化の試みが始まる。今回のふたりの「個展」では、高橋としてインタビューに答える奥村の映像、ラウシェンバーグらとともに撮った写真から高橋だけを浮き上がらせた画像、高橋がラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズ、ジョセフ・コスースら22人のアーティストに記憶だけで描いてもらったアメリカ地図などを出している。この地図の作品は、サイ・トゥオンブリは極限まで単純化し、荒川修作は女の横顔に見立てて描いていておもしろいのだが、彼らの作品であると同時に高橋の作品であり、また今回は奥村の作品にもなっているのだ。この方法を拡大すれば「ひとり国際展」も不可能ではない。ちなみに高橋の若き日のポートレートを見ると、どことなく奥村に似ている。
2016/06/06(月)(村田真)
BankART AIR オープンスタジオ 2016
会期:2016/05/27~2016/06/05
BankART Studio NYK[神奈川県]
50組のアーティストが2カ月間BankARTの2フロアをスタジオとして使用、その成果を発表している。成清北斗は苗字の「成」の字を円で囲んで大きな看板にし、赤く塗ってBankARTの外壁に飾った。2カ月間これつくってたんかい。台湾から来た廖震平は、横浜の風景をフレーミングして半抽象画に仕上げている。なかなか丁寧な仕事だ。片岡純也は透明な四角柱の上からコピー用紙を1枚ずつ落下させる装置を制作。紙はバランスよく水平を保ったままゆっくりと落ちていく。それだけだけど、お見事。アートファミリー(三田村龍神+わたなべとしふみ)の三田村は寺の坊主でもあり、仏教に親しんでもらうために映像を制作。お堂のなかで笑いながらパフォーマンスしていてなんだか楽しそうだ。河村るみは、壁にドローイングしているところを映像に撮り、それを壁に投射しているところにドローイングを重ね……という行為を延々繰り返していくパフォーマンス映像。時間と空間のズレが視覚化されていておもしろい。以上、50組中5組に注目。打率1割、まあまあだ。
2016/06/05(日)(村田真)
富士ゼロックス版画コレクション×横浜美術館 複製技術と美術家たち─ピカソからウォーホルまで
会期:2016/04/23~2016/06/05
横浜美術館[神奈川県]
6月5日(日)
富士ゼロックスの版画コレクションに、横浜美術館の写真コレクションなどを加えた「複製芸術」の展示。なぜ富士ゼロックスかというと、横浜美術館と同じ、みなとみらい地区に本社があるから。しかもコピー機の会社だからコレクションは版画。主催者からすれば近い、軽い、安い、の3拍子そろってるので、こりゃ便利。でも見る側からすれば、タイトルにある「複製技術」と聞いただけで行く気が萎える。同じ作品が複数あるので、アウラ(平たくいえば、ありがたみ)が薄く感じられるからだ。それが最終日まで行くのをためらった言い訳だ。で行ってきました。ピカソ、マティス、デュシャン、斎藤義重、リキテンスタイン、荒川修作、ドナルド・ジャッドなどがあり、最後はウォーホルのポラロイドによる9点組の肖像シリーズで、そのうちの1枚は亡くなったばかりのモハメド・アリだった。懐かしかったのは、ゼロックスコピーを使った高松次郎の《日本語の文字(この七つの文字)》と《英語の単語(These Three Words)》という作品。最初にこれを見たとき(もう40年以上前だが)、めまいがするほど感動した。あの感動はいまどこに?
2016/06/05(日)(村田真)
荒木経惟「センチメンタルな旅─コンプリート・コンタクトシート」
会期:2016/05/25~2016/07/23
IMA gallery[東京都]
1971年に限定1,000部の私家版として世に出た荒木経惟の写真集『センチメンタルな旅』。陽子夫人との新婚旅行の一部始終を捉えたこの“幻の写真集”のコンタクトシート全18枚、653カットを公開している。関西、九州方面だろうか、行く先々の風景に、電車のなか、ホテルや旅館の部屋、ベッドや布団の上にもカメラを向け、妻はときにヌードで、ときに行為中の淫らな姿も見せている。この写真集で印象的なことのひとつは、陽子夫人がずーっと無表情というか、むしろ不機嫌そうな顔しか見せていないこと。いくらなんでも新婚旅行で笑顔ひとつ見せないのは不自然なので、きっと笑顔の写真はカットされたんだろうと思っていたが、ざっと見たところ笑顔はほとんどなかった。だとすれば、本当に笑顔を見せなかったか、笑顔は見せたけど撮らなかった(撮らせなかった)かのどちらかだ。どっちにしろ不自然だが、この不自然さは新婚旅行中ふたりが「新婚旅行」を演じていたからかもしれない。劇場型犯罪ならぬ劇場型写真。これが「劇写」ってやつか?
2016/06/01(水)(村田真)