artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

よみがえれ! シーボルトの日本博物館

会期:2016/07/12~2016/09/04

国立歴史民俗博物館[千葉県]

江戸後期、2度にわたり来日し、長崎・出島のオランダ商館を拠点に日本の自然や文化を調査したドイツ人の医師シーボルト。その彼がヨーロッパに持ち帰った厖大な資料をオランダ、ドイツの各都市で展示し、西洋で初の日本紹介となった。最終的にはミュンヘンに日本博物館の建設を構想したが、果たせずに死去。同展はこれらのコレクションの一部を公開し、シーボルトが思い描いた日本像を紹介するもの。まず初めに出会うのが、胸にたくさん勲章をつけた威厳たっぷりの《シーボルト肖像》。油彩で写実的に描かれており、その後に出てくる日本人が描いたマンガみたいな《シーボルト肖像》と比べると、19世紀の日本と西洋の文化の落差に唖然とさせられる。ほかに、出島で一緒に暮らした日本人女性タキや、ふたりのあいだに生まれた娘イネ(のちに日本初の西洋医学を修得した女性医師となる)の肖像画、帰国後ふたりに宛てた手紙など。さらに、1度目の帰国後に出版した『日本』『日本植物誌』『日本動物誌』の3部作、1度目の滞在で国外退去の原因となった日本地図など。ここまでがプロローグで、本題の「日本博物館」はここからなのだが、実のところこの先は歴史博物館や民俗資料館に行けばいくらでも見られるような日用品、工芸品が並んでいて、ちょっと退屈。そりゃ19世紀のヨーロッパでは珍しがられたかもしれないけど、当時の日本人にとってはありふれたものだからね。でも洋風画を得意とする長崎の絵師、川原慶賀に描かせた《人物画帳》がおもしろい。町人、花魁、大工から盗人まで109人の日本人がフルカラーの全身像で描かれているのだ。これは必見。

2016/07/11(月)(村田真)

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竹岡雄二 台座から空間へ

会期:2016/07/09~2016/09/04

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

大阪の国立国際美術館からの巡回。ぼくが竹岡さんに興味をもったのは、1992年のドクメンタⅨに出品された野外彫刻を見てから。2001年には国立国際で開かれた「主題としての美術館」展に出していたが、そのとき今回の個展が発案されたというから、実に15年越しの実現になる。彼のテーマは一貫して「台座」。かつて彫刻は抽象形態の台座の上に鎮座していたが、20世紀に入ってブランクーシあたりから台座がなくなっていく。ちょうど絵画が抽象化するにつれ額縁が徐々になくなっていったように、彫刻自体が抽象的になったため必要とされなくなったのだ。裏返せば、彫刻と台座が一体化した、あるいは台座が彫刻化したからともいえるのではないか。竹岡はその台座=彫刻を見せる。会場には平らな円柱や角柱、立方体の台座だけでなく、4畳半ほどもありそうなガラスケースや、マガジンラックのような棚、雑誌の詰まった陳列台、額縁のような壁掛けの展示ケースも並ぶ。また、壁の表層をはがしてコンクリートをむき出しにし、上から透明なケースを被せたインスタレーションもある。いずれもそれがもともと「本体」ではなく、なにかを載せたり入れたりする台または容器であり、それを竹岡は「本体」としているのだ。会場を一巡してなにか物足りなさを感じるとしたら、それは形態も色彩もミニマルだからというだけでなく、「本体」の不在感ゆえかもしれない。

2016/07/09(土)(村田真)

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聖なるもの、俗なるもの メッケネムとドイツ初期銅版画

会期:2016/07/09~2016/09/19

国立西洋美術館[東京都]

ケレン味たっぷりの「カラヴァッジョ展」の次は、ドイツ・ルネサンス期の知られざる銅版画家メッケネムの展覧会。ギャップが激しいなあ。しかも多くはキリスト教主題で、小さめのモノクロ版画が大半を占めている。こんなんで夏休みのチビッコたちを呼べるのか。いや、夏休みくらいガラ空きのスペースで知的な大人たちにゆっくり鑑賞してもらおうという美術館側の配慮かもしれない。そんな大人のための見どころは、オリジナルとコピー。メッケネムはデューラーやショーンガウアーら人気画家の版画をコピーしまくってるのだ。いまなら盗作、著作権侵害で訴えられかねないが、当時は写真も画集もなかった時代、安く版画が手に入るのだからコピーは喜ばれたに違いない。メッケネムは刷り上がった版画を見ながらコピーしたため、画像の左右が反転しているが、たまに左右反転してないコピーもあって、なぜだろうと思ったら、右手に剣を持つ人が描かれているからだ。

2016/07/08(金)(村田真)

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「禅─心をかたちに─」東京展に関する記者発表会

会期:2016/07/08

東京国立博物館[東京都]

春に京博で開催され、秋には東博に巡回する「禅」展の記者発表。なぜいま「禅」かというと、臨済義玄禅師の1150年遠諱と、白隠慧鶴禅師の250年遠諱を記念するものだそうだが、意味も読み方も知らずに資料を写しました。りんざいぎげん(?-866)は臨済宗の宗祖で、はくいんえかく(1686-1769)は禅画で知られるが、臨済宗中興の祖とされる。その没後、100回忌を過ぎてから50年ごとにおこなわれる行事を遠忌(おんき)というらしい。へー初めて知った。白隠は没後まだ247年で3年足りないが、細かいことには黙想するのが禅なのかもしれない。代表的な出品作品は、雪舟の《慧可断臂図》、白隠の《達磨像》、狩野永徳の《織田信長像》、大岳周崇の《瓢鮎図》、若冲の《群鶏図》など。つい絵ばかり挙げたけど、仏像やら仏具やら書やら陶芸やらもある。どうも書いてて熱が入らないな。

2016/07/08(金)(村田真)

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新しい建築教育の現場

会期:2016/06/12~2016/08/22

LIXILギャラリー[東京都]

東大の建築学科にできたT_ADSは、デザインする人、構造計算する人、インテリアをつくる人など、ズタズタに分割された建築界をもう一度つなぎ直すための場所。そのラボを再現した会場には、オガクズやワリバシなど大量の木っ端をくっつけて固めたものがころがっていて、建材や遊具の材料として使うのだろうか。建築学科の教室というより、まるで彫刻家の工房みたい。

2016/07/01(金)(村田真)