artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

東北──アートの博物学

会期:2016/05/10~2016/07/05

代官山蔦屋書店2階Anjin[東京都]

美大は中央から離れれば離れるほど特色が際立ってくるようで、とりわけ東北芸工大は土着色が著しい。今回は陶芸が多いので余計その傾向が強いのかもしれないが、なにか学校全体が反文明、東北回帰のメッセージを発しているような気もする。鴻崎正武は幅8.8メートルの巨大画面に、古今東西の動植物やロケットなどをコラージュ風に散りばめた《TOUGEN─希望の彼方》を出品。「TOUGEN」とは桃源郷に由来するが、金箔を用いたり屏風絵みたいな形式だったり、日本画っぽいけど洋画だったり。でもおそらく「東北画」なんでしょうね。高妻留美子はヒトデのミイラや蓮と種子などを陶で倍くらいの大きさにつくり、本物と並べている。拾ってきた自然物をマジマジと観察し、描きとめておく博物学の態度を思い出させる。

2016/05/22(日)(村田真)

WALLS TOKYO COLLECTION

会期:2016/05/10~2016/05/23

代官山蔦屋書店1階ギャラリースペース[東京都]

バンクシー、バリー・マッギー、カウズらストリートアーティストの売り絵。バンクシーはエディション600のシルクスクリーン作品なのに、1点200万円とダントツに高い。こんなの買うやつの気がしれないが、その売り上げが次のプロジェクトの資金になるのであれば反対はしない。

2016/05/22(日)(村田真)

麗しき故郷「台湾」に捧ぐ 立石鐵臣展

会期:2016/05/21~2016/07/03

府中市美術館[東京都]

立石鐵臣という名を聞いてタイガー立石(立石太河亞)の親族だと勘違いしたのは、単に名字が同じだったからだ(臣と亞も似てるでしょ?)。略年譜を見ると、鐵臣の長男は偶然にもタイガーと同年の1941生まれ。でも親子ではなさそうだ。ま、それはともかく、立石鐵臣は台湾に生まれ、日本で日本画を学んだあと、岸田劉生や梅原龍三郎に師事。第2次大戦までは日台を往復しながら絵を描いていたが、戦後は日本で国画会を中心に発表してきた。といってもいわゆる団体展系の絵とは違って、日本画、梅原、細密画、シュルレアリスムといった相反する要素が作品ごとに割合を変えながら出現するという不可解な画風なのだ。例えば今回日本初公開になる《台湾画冊》は、戦前の台湾の風俗を墨で絵日記風に描いたもので、絵と言葉による的確な描写は歴史的資料としても貴重なものだろう。その一方で、植物や昆虫の図鑑のために描いた細密画は、もはや図版用の原画の域を超えて超絶技巧が一人歩きしている(そういえば彼は初期の美学校で細密画工房をやっていて、それで名前を見たことがあるのだ)。さらに晩年にはこれらのスキルを総動員して、《月に献ず》《春》《身辺 秋から冬へ》みたいなシュールな細密画を試みたかと思えば、最晩年には《焼岳(昼)》のように梅原流の表現主義的な風景画に戻ったりもしている。この、どこに着地するかわからない振れ幅の大きさこそ、いまどきのアーティストに欠けているものではないか。

2016/05/21(土)(村田真)

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潑墨山水譚─気韻性道 内海信彦絵画表現研究室 腿テント

会期:2016/05/16~2016/05/21

ギャラリイK[東京都]

エレベータを下りるとすぐギャラリーなのだが、幕が張られて内部が見えず、白塗りの女が出てきて誘導してくれる。なかに入ると、壁も天井も幕が張られ、左手前に鉄釜を銅鑼代わりに鳴らす女、奥に白衣の女がふたり、手前に黒衣の男女不明がひとりうつぶせになり、全体を囲うように前衛書みたいな墨絵を描いた屏風が立っている。時間は2分半と告げられたので演劇仕立てらしい。奥のふたりの女がなにやらやりとりし、手前の黒衣が起き上がって(男だった)セリフをいうのだが、覚えているのは最後の「やっと見つかった。なにが? 永遠が」というだれもが知ってるセリフだけ。なんだかよくわからないアナクロ・アングラ芝居。

2016/05/20(金)(村田真)

ナティー・ウタリット “Optimism is Ridiculous"

会期:2016/05/10~2016/06/04

メグミオギタギャラリー[東京都]

東南アジアのアーティストには珍しい、一見古典的な静物画。矢が刺さった子鹿をはじめウサギやカモなどの獲物が描かれているので、17世紀オランダあたりで流行った狩猟画というべきか。これも静物画の一種ではあるけれど、「スティル・ライフ(静かな生)」というより「ナチュール・モルト(死んだ自然)」と呼ぶのがふさわしい。しかしタイトルの「Optimism is Ridiculous(楽天主義はバカバカしい)」を見ると、なにか政治的意図が隠されているのかもしれない。

2016/05/20(金)(村田真)