artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
ミケランジェロ展──天才の軌跡
会期:2013/09/06~2013/11/17
国立西洋美術館[東京都]
日本では絵画がほとんど来なくても「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」が成立するように、彫刻がほとんど来ない「ミケランジェロ展」だってノープロブレムだ。彼らほどの底なしの天才となれば、素描だけでも十分鑑賞に耐えるからだ。実際、素描を見せられても「なんぼのもんじゃ」と思うけど、たとえば高校生のころ穴の空くほど複製を見つめ、模写も試みた《レダの頭部習作》の本物を目の当たりにすると、やはり心が動かされる。何通か公開されている手紙も必見もの。直筆文字は意外にも活字のようにていねいに書かれているし、ある手紙にはその日に食べた料理が「パン2個、ワイン1瓶、ニシン1匹」といったようにイラスト入りで記されている。几帳面な性格だったようだ。そんなことがわかっただけでもうれしい。
2013/09/05(木)(村田真)
視触手考画説
会期:2013/07/06~2013/09/01
トーキョーアートミュージアム[東京都]
プラザ・ギャラリー開設25周年記念展の第3期は、菊池敏直の企画で、「第一線で活躍する作家からハンディをもつ人の作品までを同じ空間に展示する」というもの。「第一線で活躍する」のは小山利枝子、佐川晃司、藤村克裕ら9人で、絵画、コラージュ、彫刻など1点1点サイズも大きく、余裕を持って展示している。それに比べ「ハンディをもつ」約20人は小さめの作品が多く、狭い空間に2段3段がけで展示されている。別に「差別」を告発しようというのではなく、逆に「ハンディをもつ人」のいわゆるアウトサイダーアートは1点1点独立して鑑賞するものではなく、むしろ何点も並べて全体で見せたほうが力を発揮することを確認させてくれた。じゃあ「第一線」は1点1点鑑賞に耐えるかというと、それが問題なのだ。なかにはどちらに属するのかわかりにくい作家もいたが、作品の大きさと展示面積の広さでかろうじて判断できた。
2013/09/01(日)(村田真)
ポート・ジャーニー・プロジェクト メルボルン⇄横浜
会期:2013/08/09~2013/09/04
象の鼻テラス[神奈川県]
横浜とメルボルンのアートプロジェクト交換事業。昨年メルボルンからプルー・クロームが来日・制作・発表したのに続き、この5月さとうりさが《宇宙船“かりぬい”》を携えてメルボルンに乗り込んだ。《宇宙船“かりぬい”》は卵を細長くして安定感をもたせたバルーンで、高さ2メートルほどあり、人が入って立てる大きさ。もちろん宇宙船といっても機械もなにもなく、通風口から空気を送り続けないとしぼんでしまうのだが、内部はのっぺりした曲面に覆われ、角も平らな面もないせいか大きさの感覚や距離感が失われ、ある種の快さを覚える。メルボルンでは路上、カフェ、植物園、大学構内など市内各地をさまよったという。今回はその帰国展だが、いつもながらカフェに展示されてるため見映えがよくない。この日も夜に卓球大会があるというので隅に押しやられていた。かわいそ。
2013/08/30(金)(村田真)
渋川駿「ひとって、なに」
会期:2013/08/26~2013/08/31
ギャラリー58[東京都]
具象とも抽象ともつかない形象がゴチャゴチャと描かれた大作絵画。いちばんの特徴は、描かれたキャンバス布を木枠から外して展示していること。搬入に便利なように木枠から外したのかと思ったらそうではなく、まだ学生なので金がなく、木枠を使い回しているからだそうだ。でも描くことに集中してるせいかそのへんの自覚があまりなく、キャンバスの周囲の余白をどう処理するかとか、木枠なしでどう展示すべきかといったことには無頓着だ。そもそも金がないならキャンバスを木枠に張らず、壁に貼ったり床に置いたりして描くことだってできるんだから。それによって描く内容も変わってくるはず。絵画はそうした形式面からもういちど追求していく余地がある。
2013/08/29(木)(村田真)
ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー「嬰ヘ短調の実験」
会期:2013/08/07~2013/10/19
ギャラリー小柳[東京都]
薄暗いギャラリー内に大きなテーブルが置かれ、その上に約40個の大小さまざまなスピーカーが上向きに並べてある。遠目に見ると陶器の展示みたいだが、ひとつだけ旧式のラッパ型のスピーカーが鎌首をもたげるようにこちら(正面)を向いている。近づくと音楽が聞こえてくる。周囲を動き回ると音が変化する。人の影を感知するセンサーで制御しているらしい。あいちトリエンナーレでは旧作が出ていてガッカリしたが、これは初体験。肝腎の音だけでなく、ヴィジュアル的にもシンプルで洗練されている。
2013/08/29(木)(村田真)