artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
MAMプロジェクト019:エムレ・ヒュネル
会期:2013/09/21~2013/01/13
森美術館[東京都]
トルコのアーティスト。暗いギャラリーに三角錐の白い物体がドンと鎮座し、壁にはドローイングが掛けられ、映像が流れている。「文明社会とその未来について問いかける作品」らしいが、目に止まったのは「太陽の塔」を描いた1点のドローイングだけで、あとの視覚情報は網膜を素通りして脳内のゴミ箱行き。
2013/09/20(金)(村田真)
六本木クロッシング2013[アウト・オブ・ダウト]展
会期:2013/09/21~2013/01/13
森美術館[東京都]
出品作家は30代前後の若手を軸に、中村宏(81歳)、赤瀬川原平(76歳)、中平卓馬(75歳)、菅木志雄(69歳)ら70代前後の長老組がちらほら混じる奇妙な人選。中堅と呼べるのは柳幸典ただひとり。いいかえれば、70-90年代に登場し、いまもっとも脂ののっているアーティストたちがごっそり抜け落ちているということだ。なんでこんな奇妙な人選になったのか、というより、この奇妙な人選こそ今回の「クロッシング」の狙いなのかもしれないと思えてきた。たとえば、最初のほうに絵に描いたような社会批判を木版に彫る風間サチコが出品しているが、その隣に60-70年代の赤瀬川原平の風刺画を並べ、明らかに対比させている。昔こんなことやってた先輩がいるんだよと。そう考えると、ルーマニアに行って社会主義者を胴上げしたり、日本共産党にマルクスの肖像を掲げるよう頼みに行く丹羽良徳のパフォーマンスも、かつてだれかが似たことをやってたような気がしてくる。今回は出てないが「半刈りにしてハンガリーに行く」などはこれに近い。モニターとプロジェクターの映像を巧みに組み合わせた泉太郎も、他人の個展をプロデュースして自分の作品にしてしまう奥村雄樹も、今回のなかではもっとも優れた部類に入ると思うが、どこか既視感がぬぐえないのも事実。それは仕方がないことで、これだけ表現メディアが拡散してしまうと、逆にやることが似通って見えてしまうからだ。むしろ絵画なら絵画という形式にこだわったほうが多様性が担保できるような気がする。今回もっとも印象深かったのは中村宏と千葉正也で、どちらも絵画だったのは偶然ではないだろう。まあ未知の若手がことごとく期待はずれだったというのも大きいが。
2013/09/20(金)(村田真)
大野麥風 展「大日本魚類画集」と博物画にみる魚たち
会期:2013/07/27~2013/09/23
東京ステーションギャラリー[東京都]
大野麥風ってぜんぜん知らなかったけど、『大日本魚類画集』をはじめとする博物画を手がけた日本画家だと聞いて見に行く。麥風は初め油絵を学び、途中で日本画に転じたというが、この経歴は博物画に向いていたかもしれない。なぜなら博物画は西洋流の緻密な観察力と写実性に加え、日本画的なパターン化した線描が必要だからだ。彼が原画を描いた『大日本魚類画集』を見ると、主役の魚だけでなく岩や水草まで描き込んであるが、その描写はまさに日本画的に様式化されている。ただしよく観察してはいるものの、たとえば魚の胸ビレの付け根に注目すると、解剖学的にありえない付き方をしているものもあって、やっぱり日本画だなあと思う。ちなみにこの画集、戦前から戦中にかけて毎月1点ずつ計72点を刊行したが、500部限定の会員制による会費で賄われたという。版画ではしばしばこうした販売方式をとるが、現代美術にも応用できないものか。ともあれ、同展には麥風だけでなく、江戸時代の本草画から平成の杉浦千里による甲殻類のイラストまで集められ、満足のゆく展観になっていた。
2013/09/19(木)(村田真)
中谷宇吉郎の森羅万象帖 展
会期:2013/09/02~2013/11/23
LIXILギャラリー[東京都]
寺田寅彦や中谷宇吉郎らの著作は理系だけでなく、文系にもウケがいい。文系のほうがウケがいい、というべきか。しかしもっともウケがいいのは、もっとも非合理的な芸術系の人たちではないかしら。なぜなら科学も芸術も想像力を最重視するからだ。彼の研究した雪の結晶や放電現象などは、視覚的にもイマジネーションを刺激してやまない。実際、雪の結晶は曽根裕が作品化しているし、放電現象も杉本博司が写真にしているし。まるで現代美術の虎の巻。
2013/09/14(土)(村田真)
奥村昂子 展──あれをつくる
会期:2013/09/02~2013/09/28
LIXILギャラリー[東京都]
ビルに入ると、2階のギャラリーに行く階段に白いシートが被せられ、通れなくなっている。これは奥村のシワザだなと思ったら、ホンモノの工事中らしい。ギャラリーには大小2体の彫刻があり、どちらも白い布製なので大理石風だ。ひとつは小便小僧、もうひとつは大きすぎて天井につっかえ、胴体が折り曲がってるので、最初はボロフスキーの「走る人」かと思ったが、このポーズはミケランジェロ作《ダヴィデ》ですね。さて、タイトルの「あれをつくる」の「あれ」ってなんだろうと考えると、2体の彫刻に共通するのはおチンチン。そうかおチンチンをつくったのかと納得して帰りがけに振り返ったら、横の陳列ケースに天使の像が……。これはたしかラファエロが描いた有名な天使像だが、上半身の像なのでおチンチンがない! ということは「あれ」というのはおチンチンではなく、だれもが知ってる有名作品のことか。アレだよアレ。
2013/09/14(土)(村田真)