artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

カイユボット展──都市の印象派

会期:2013/10/10~2013/12/29

ブリヂストン美術館[東京都]

カイユボットは印象派のなかでは知名度こそ低いものの、光の鈍い反射を描くのが巧みな画家だ。たとえば雨にぬれた石畳とか、室内の木の床の描写とか。今回も《ピアノを弾く若い男》のピアノに反射した光とか、《ペリソワール》のオールを映す水面とか、《ヨーロッパ橋》の鉄橋の質感などにその特徴がよく現われている。カイユボットは裕福な上流階級の出身だが、その食事風景を描いた《昼食》を見て既視感を覚えた。調べてみたら、「印象派を超えて──点描の画家たち」展に出ていたシニャックの《ダイニングルーム 作品152》とよく似ている。窓からの逆光、画面やや左に据えられたテーブルと、その上の食器、テーブルにつくふたりの家族と、そのあいだに立つ給仕……。窓の数や画法の違いはあるものの、構図も空気感もほとんど同じだ。カイユボットのほうが10年早いので、シニャックが参考にしたのかも。

2013/10/14(月)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00023354.json s 10093701

戸田裕介「銀の微塵のちらばるそらへ──fragile VI」

会期:2013/09/07~2013/10/27

トーキョーアートミュージアム[東京都]

天井の高い奥まったところに、高さ5メートルほどの巨大なキノコがそびえ立つ。黒い鉄の曲面をつなぎ合わせてモコモコさせた彫刻で、キノコというよりキノコ雲。雲なのに鉄でできている。これはアッパレ! でもこの後どうするんだろう。モノがモノだけに置いて喜ばれるもんではなさそうだし。

2013/10/14(月)(村田真)

谷山恭子 展「Perspective」

会期:2013/10/05~2013/10/27

プラザギャラリー[東京都]

壁にモノクロの航空写真を入れた鉄のボックスが並び、写真をおおうガラス面に緯度と経度が記されている。これは、このプロジェクトに参加した人たちに自分にとっての大切な場所をインタビューし、それをグーグルマップで検索してその画像を撮影したもの。会場にはインタビューをまとめた冊子が置かれ、その場所にまつわるエピソードが読めるようになっている。インターネットからデータを引用し、匿名の個人史と重ね合わせる手法は鮮やかだが、逆に、こうして個人のおぼろげな記憶や過去の居場所までが特定されてしまうことに、ある種の感慨と恐ろしさも覚える。そのことも含めて考えさせる作品だ。

2013/10/14(月)(村田真)

竹内栖鳳 展──近代日本画の巨人

会期:2013/09/03~2013/10/14

東京国立近代美術館[東京都]

終了間際の土曜日なので開館時間の10時ちょうどに駆けつけたら、すでに約100メートルの列が。20分待って入館。「東の大観、西の栖鳳」といわれるように大観とはライバル関係といわれているが、人気や知名度ではかなわないものの絵のうまさでは栖鳳のほうが大観よりはるかに上だ。でもこれ見よがしに技巧に走る作品もあって、いささか鼻につくのも事実。ライオン、骸骨、女性、富士山などなんでも描き倒したなかで圧巻というか仰天なのは、ヨーロッパの風景を水墨で描き屏風に仕立てた《羅馬之図》や《和蘭春光・射伊太利秋色》。まるでターナーだが、東西の画法と美意識が混在したさまは、まさに鵺(ヌエ)のようにとらえどころがない。

2013/10/12(土)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00022933.json s 10093698

ターナー展 Turner from the Tate: the Making of a Master

会期:2013/10/08~2013/12/18

東京都美術館[東京都]

日本では久しぶりの大規模なターナー展。ターナーというと、晩年の朦朧とした大気の表現が印象派の先駆けみたいにいわれるが、初期の作品を見ると意外と古風で、レンブラントやクロード・ロランを彷彿させる。でも40歳をすぎるころからクセのある色彩や丸みを帯びた形態、かすんだような大気の描写が出てきて、なにかこの世のものとは思えない光景が現出し始める。晩年のモネと同じく目をわずらったんじゃないかと勘ぐるのだが、細部は意外としっかり描き込んであって、むしろその粗密の落差がターナーらしさを生み出しているのかもしれない。「崇高」を絵に描いたような《グリゾン州の雪崩》、古典主義的な《ディドとアエネアス》、夢の情景みたいな《チャイルド・ハロルドの巡礼──イタリア》、クロード・ロランに触発された《レグルス》、ラファエロのいるパノラマ画《ヴァティカンから望むローマ》、モネを思い出す《湖に沈む夕陽》など佳品が少なくない。首をひねったのは、縦長の画面を水平に分割した抽象画。これは《三つの海景》というタイトルのように、三つの水平線を縦に並べたものだが、まるでロスコの絵みたい。もうひとつ興味深かったのは、画家愛用の絵具箱が出ていること。箱のなかには小さなガラス瓶や豚の膀胱でつくった袋入りの絵具が並び、登場したばかりのチューブ入り絵具が1本だけ入ってる(色は多用したクロームイエロー)。ようやく晩年になってチューブ入りの絵具が発明され、戸外での制作が容易になったのだ。

2013/10/11(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00023344.json s 10093697