artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

磯辺行久──環境・イメージ・表現

会期:2013/08/03~2013/11/04

市原湖畔美術館[千葉県]

千葉県市原市に美術館ができたというので見に行く。市原市といっても広うござんして、房総半島のほぼど真ん中、内房線で五井まで行き小湊鉄道に乗り換えて約40分、高滝駅からさらに徒歩20分ほど、ダム湖の高滝湖のほとりに建っている。風光明媚といえば風光明媚だが、グーグルマップで検索すると周辺には虫食いのごとく何十ものゴルフコースがひしめいてるのがわかる。最近、近くに圏央道が完成し、西へ走ればアクアラインを通って東京、横浜、そして羽田空港と結び、北へ向かえば成田空港に出られる。この地の利を生かして来年には「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス」を開くという。また「国際芸術祭」かよ。でも北川フラムさんが手がけるのでおもしろくなるかもしれない。また「北川さん」かよ、ともいえるが。そんな計画を見据えての開館だが、じつは建物自体はバブル後に建てられたもので、今回増改築してのリニューアルオープンとなった。そのせいか、湖上にはひと味違う彫刻が立ってたりして、まあいろいろ裏があるというか、物語性にあふれた物件ではある。円弧と正方形を組み合わせたコンクリート打ちっぱなしの建築は、あまり使い勝手がよくなさそうだが、「磯辺行久展」をやってるほか、KOSUGE1-16、クワクボリョウタ、ヴィト・アコンチの作品も展示されている。「環境」が大きなテーマか? いまいち脈絡がつかめない。たしかに国際芸術祭でもないかぎり2度と行かないだろうなあ。

2013/08/03(土)(村田真)

ヤドカリトーキョー Vol.09「秘密の部屋──恋する小石川」

会期:2013/08/02~2013/08/04

ヘルシーライフビル[東京都]

作品の展示場所を求めて都内を徘徊する「ヤドカリトーキョー」。その9回目の「ヤド」となったのが、小石川植物園の正面に建つ一見なんの変哲もないヘルシーライフビルだ。通常こういう場所で作品を見せるとき、壁を壊したり床をはがしたりしながら空間全体を変えてしまうような、いわゆるサイトスペシフィックなインスタレーションを期待するもんだが、ヤドカリトーキョーにはそれは期待できない。だって彼らはただヤドをカリるだけで、終わったらきれいに現状復帰して返さなければならず、ムチャはできないのだ。じゃあ貸し画廊の展示とどこが違うの?と突っ込まれるかもしれないが、カリるヤドが「フツーのビル」じゃないところがヤドカリトーキョーなのだ。今回のヘルシーライフビルも最初はフツーの事務所ビルだったらしいが、その後改装され、直前までシェアハウスとして使われていたという。シェアハウスとは敷金、礼金、保証人など不要の安くて狭いレンタルルームのことだが、だれが入居しているのかわかりにくく、一部は「脱法ハウス」とも呼ばれ、隣近所の評判はあまりよくない。このビルも2~4階の各フロアがそれぞれ約4畳ずつに細かく分割され、談話室も含めて部屋は計24室。ここに約40人のアーティストが作品を展示している。基本的に1部屋にひとり、ほかにキッチン、トイレ、シャワー、廊下などにも作品がある。だいたいみなさんおとなしく絵や写真を飾るだけだが、なかには残されたベッドや机を使ってインスタレーションしたり、トイレで映像を流したりするやつもいて楽しい。おもしろかったのはバーバラ・ダーリン(日本人)で、シャワールームではシャワーの水を出しっぱなしにし、キッチンでは大鍋に入れたチキンカレーを食べ放題に、部屋ではベッドの上にロデオマシーンを置いて、スイッチを入れるとズコズコ振動する近所迷惑な3部作を出していた。水道水を出しっぱなしにするのはかつて遠藤利克が、最近では原口典之もやってるいわば伝統芸。カレーを食べさせるというのもリクリット・ティラヴァーニャの得意技だ。ロデオもきっとなにかオリジナルがあるはず。つまりバーバラは現代美術の「名作」を場所に合わせて縮小し、広く「シェア」しようとしているのだ。まさにアートのシェアハウス。

2013/08/02(金)(村田真)

トーキョー・ストーリー2013 第3章「私をとりまく世界」

会期:2013/07/13~2013/09/23

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

TWSのレジデンス・プログラムに参加したアーティストによる成果発表展。今回は海外に派遣された池田剛介、奥村雄樹、東京に招聘されたヌール・アブアラフェ(パレスチナ)、モハメド・アブデルカリム(エジプト)、スッティラット・スパパリンヤ(タイ)の5人。しかし展示を見ると、奥村の作品が見当たらず、代わりに井出賢嗣が入っている。はて? リーフレットによれば、奥村は2国間交流事業プログラムでバーゼルに滞在していたが、同プログラムに選ばれなかった井出に、もしバーゼルに滞在していたらつくったであろう作品を制作せよとの指示を送ったという。それに対して井出は、落選者に制作を依頼するのはバカにしていると述べ、この話をニシノという旧友にしたところ、作品を提供してくれたという。つまり奥村は井出に指示を出しただけで作品は出さず、依頼された井出も自分の作品を出すことなく、旧友の作品を展示したというのだ。もしこの話がホントなら、奥村は2カ月半におよぶ滞在制作期間中に上記の指示を出しただけ、しかもその指示は実現しなかったということになる。でもそれは考えにくいので、一部始終がふたりで仕組んだコラボレーション作品だったと見るべきかもしれない。しかしふたりは当落を分けた間柄なので(それもつくり話かもしれないが)、対等なコラボレーションというのは考えにくい。となると、奥村の指示は井出によって実行された、つまり井出は怒りつつか怒りを装いつつかは知らないが、奥村の指示を受け入れてこのような作品に至ったとも考えられる。いずれにせよこれは、レジデンス・プログラムを渡り歩くアーティストによる、レジデンス・プログラムそのものを俎上に載せた作品といえるだろう。

2013/07/31(水)(村田真)

曽谷朝絵「宙色(そらいろ)」

会期:2013/07/27~2013/10/27

水戸芸術館[茨城県]

虹色に輝くバスタブや水滴をはらんだガラス窓など、光あふれる光景を描いてきた曽谷の大規模な個展。初めのほうの展示室では清冽なタブローが並び、途中には色とりどりのシートを波紋状に切り抜いて壁や床に貼ったインスタレーションの部屋もある。圧巻は、天井から吊るした鏡の球体にアニメーションを投影し、展示室全体に色彩を反映させた新作の映像インスタレーション《宙》。ひととおり見て歩くと、虹色の絵画に始まり、着色シートを切り抜いて貼ったインスタレーションに移行し、アニメによる映像インスタレーションに到達したことがわかる。平面(2次元)→立体(3次元)→映像(時間)と一歩ずつ着実に進歩しているし、そのチャレンジングな姿勢には感心するが、しかし映像だけ見ると、どこかで見たようなありふれたイメージのように感じてしまう。唯一無二のイメージを確立した絵画に比べ、映像だとだれでもできそうに思えてしまうのだ。言い換えれば、それだけ絵画で光を表わすのが難しく、だからこそ価値があったのであって、最初から光である映像で光を表現しても珍しくないということだ。もちろん彼女自身そんなことは百も承知で、いまさら映像に転向するつもりはないだろうし、あいかわらず絵も描き続けている。とくに最近の絵はこれまでと違った方向性を感じさせ、期待がもてる。

2013/07/27(土)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00022526.json s 10090197

アートがあればII──9人のコレクターによる個人コレクションの場合

会期:2013/07/13~2013/09/23

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

9人のプチコレクターの作品を集めたコレクション展の第2弾。9年前の第1弾のときは、「これはいくらで買ったんだろう」とか「これはあの画廊で買ったんだろう」とかゲスの勘ぐりに終始したもんだ。そもそ個人のプチコレクションを天井の高いホワイトキューブの巨大空間で見せていいわけ? という疑問もあった。でも今回、意外と素直に見られたのは、作品の持つ力ゆえかもしれない。力といっても作品自体が大きくなったわけじゃなく、相変わらず小品が多いのだが、しかし限られた予算のなかから選ばれた作品だけあって、個々に輝いて見えるのだ。そう、ここにあるのはどんなに小さくても、どんなに安くても、金銭トレードで勝ち抜いてきた作品なのだから。

2013/07/26(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00022134.json s 10090196