artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

クリスト・アンド・ジャンヌ=クロード展──Books, Editions, Printed Matters

会期:2011/09/26~2011/10/31

ストア・フロント[東京都]

池之端にオープンした新しいギャラリー。オーナーは長年クリスト夫妻のアシスタントを努めて来た柳正彦。60年代の梱包作品から《アンブレラ》までオリジナル作品のほか、版画・マルチプル、ポスターなどを展示している。ギャラリーの名前にもなった作品《ストアフロント》もあった。オープニングレセプションにはクリスト自身も駆けつけてサインしまくり。ギャラリー空間は狭いが、ブックショップも兼ねているし、活動次第ではアートスポットとして注目を浴びるかもしれない。

2011/09/26(月)(村田真)

「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」展・記者発表

会期:2011/09/26

イタリア大使館[東京都]

待望のレオナルド・ダ・ヴィンチ展。といっても《モナリザ》が来るわけないし、《最後の晩餐》は壁画だから運べない。タブローは、作者が「レオナルドと弟子」とか、「レオナルド構想」とか、「レオナルド派」とかばかりで、確実にレオナルドの手になるのは2点の素描と習作のみ。それでもすごい。地震と津波に襲われ、放射能に汚染された二流国の、いや文化的には三流国の日本に貸してくれるのだから、イタリアは太っ腹だ。たんにアバウトなだけかもしれないが。で、レオナルドの真作は《ほつれ髪の女》と《衣紋の習作》の2点。前者は清楚な女性(ひょっとしたら男)を描いた素描で、これは人気が出るだろう。でも私的には、人物を描かず服のシワだけを描いた《衣紋の習作》のほうに興味がある。おそらくクリストもこういう衣紋の美しさに魅せられて布による巨大なインスタレーションを始めたのだ。ほかにも、4点の《裸のモナ・リザ》を含む「モナ・リザもどき」や、もうひとつの《岩窟の聖母》なども見られる。静岡市美術館(2011/11/03~2011/12/25)、福岡市美術館(2012/01/05~2012/03/04)のあと、Bunkamuraザ・ミュージアム(2012/03/31~2012/06/10)にて開催。

2011/09/26(月)(村田真)

山下残『庭みたいなもの』

会期:2011/09/22~2011/09/25

神奈川芸術劇場[神奈川県]

ヨコトリ連携プログラムとして制作された公演。客はまず材木で組まれた舞台の下を通って客席に着く。舞台下は食堂や浴室などを備えた小屋になっていて、一艘の船も置かれている。つまり舞台は小屋の屋上ということになる。もうこれだけでリッパなインスタレーションだ。舞台上に登場するのは男3人に女4人の計7人。彼らがシリトリでもするかのように次々と言葉と行為によるコミュニケーションを繰り広げるのだが、その間合いがじつに微妙で、笑う場面で笑えなかったり、逆に笑うべきでない場面で笑えたり。このハズシ方はとても新鮮だ。終盤、床板を外して小屋から船を引き上げるのだが、この屋根の上に船が乗った風景はどこかで見た覚えがある。さてどう終わるのかと思ったら、じつに後味のいい絶妙な終わり方をしていた。これは納得。

2011/09/25(日)(村田真)

レオ・ルビンファイン「傷ついた街」

会期:2011/08/12~2011/10/23

東京国立近代美術館ギャラリー4[東京都]

2階の一室で開かれている写真展。さまざまな国の街角で市井の人びとを撮ったスナップが35点、宙吊りに展示されている。2、3点を除いてモノクロームだ。なんの説明も聞かずにこれを見たら、無表情で無愛想な人々が写ってるだけのつまらない写真だと思うだろう。が、ルビンファインが9.11のテロをニューヨークの自宅で間近に目撃し、その体験をきっかけにテロ事件を経験した都市(東京、モスクワ、ロンドン、マドリッド、エルサレム、ニューヨークなど)の通行人を撮るプロジェクトを始めたと聞くと、これらの写真を見る目も俄然変わってくる……かもしれないが、ぼくにはやっぱりつまらない写真にしか映らなかった。テロを経験した都市といったって、たとえば東京の場合、地下鉄サリン事件が起きてから7年後に撮られものなので、写っている人はだれもテロのことなんか考えていないはず。ほかの都市も同様で、ただ無表情で不安げな通行人のスナップを撮り集めて並べただけだろう。それをもったいぶって「傷ついた街」などと深刻そうなタイトルをつけ、テロへの憎悪と危機感をあおるのはいかがなものか……という見方もできるのではないか。

2011/09/24(土)(村田真)

CAFE in Mito 2011──かかわりの色いろ

会期:2011/07/30~2011/10/16

水戸芸術館現代美術センター[茨城県]

CAFEっつったって館内にカフェを開くわけではなく、Communicable Action for Everybody(だれもがコミュニケーションできる行動)の頭文字をとったもの。これまで3回は芸術館を出て街なかで作品を展開してきたので、今回も屋外に出て行くのかと思ったら大間違いで、ほとんどが屋内での展示だった。しかもインスタレーション系が少なく、水戸芸に関係したアーティストによる絵画か写真などの平面作品が大半を占め、おまけにこれまでの展覧会のポスターやカタログまで並べている。一見ずいぶん後退したというか、後ろ向きの印象は否めないが、もちろんこれにはワケがある。東日本大震災で水戸芸も被災し、開催中および予定していた企画展やイベントはキャンセルされ、4カ月余り休館。「CAFE展」は震災後初めて開く展覧会なのだ。とはいえまだ余震が続くため、大規模なインスタレーションはひかえ、絵画や写真など壁掛けの平面作品を中心に、元気の出る作品を集めたという。いってみれば水戸芸術館の再出発のごあいさつのようなもの。それにしても「揺れる美術館」というのは比喩としてはよく使われるけど、物理的に揺れるのは致命的だなあ。しかも水戸は全国的に見れば福島に近いし。こうした条件をプラスに転化させる展覧会はできないものだろうか。

2011/09/23(金)(村田真)

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