artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
國盛麻衣佳「be with underground」
会期:2011/08/29~2011/09/03
GGJ[東京都]
國盛は石炭を画材にして絵を描いたり(コール・ペイント)、オリジナルの石炭チョークを用いて「山本作兵衛なりきりワークショップ」を開いたり、とにかく炭鉱をテーマに作品づくりをしている珍しいコ。そのカワイイ容姿と重厚長大なモチーフとのギャップが感動的だが、出身が炭鉱の街として知られる福岡県大牟田市と聞けばなるほど。今回は石炭から灰色、濃灰色、茶色、黒の4色をつくり、にかわで溶いて、炭鉱の廃屋からはずした天井板やセラミックの上に人物を描いている。モデルは炭鉱地ゆかりのおじいちゃんやおばあちゃん。素材も色彩もモチーフもけっして新しくも美しくもないが、こんなことやってるヤツはほかにいないという点で高く評価したい。炭鉱への愛がヒシヒシと伝わってくる。ギャラリーには廃屋の一部が再現され、畳の上でワークショップやトークも行なったという。
2011/09/02(金)(村田真)
辰野登恵子 展「抽象──明日への問いかけ」
会期:2011/08/23~2011/10/16
資生堂ギャラリー[東京都]
出品作品は20点もあるけれど、油彩は4点だけで、あとは版画(リトグラフ)。そういえば辰野が70年代にデビューしたときは、ストライプやグリッドによるミニマルなシルクスクリーン作品だったっけ。なんで版画なのかよくわからなかったけど、80年ごろから抽象表現主義的なタブローに移行してからは、「これが絵画なんだ」と妙に納得したもんだ。だからなんでまた版画に力を入れるのか理解に苦しむ。だいたい彼女の抽象的なイメージをモノクロ版画で刷ったところで、タブローを何十倍も薄めたくらいにしか感じられないし。まあタブローの引き立て役というのならわかるけど、まさかね。
2011/09/02(金)(村田真)
松山賢「絵の具の絵」
会期:2011/08/24~2011/09/05
新宿高島屋10階美術画廊[東京都]
これはおもしろい。今月のベスト1。って9月はまだこれしか見てないけど、メダルはほぼ確実だ。文字どおり「絵の具」を描いている。白い皿に赤とか青とか黄色とかの絵具を出してていねいに描写し、背景も同じ色に塗っている。それだけなのだが、この絵のおもしろいところは、たとえばウルトラマリンブルーの絵具を描くとき、素人ならウルトラマリンブルー一色で描けると思いがちだが、もちろんそんなはずはなく、陰影や立体感を出すにはさまざまな色を使わなければいけないこと。つまり「青色」と青色の「絵の具」は別のものだということがわかるのだ。さらにこの絵が正方形の分厚いキャンヴァスに原寸大で描かれているため、だまし絵の効果が倍増すること。とくに真上から描いた作品(壁掛けではなく卓上に水平に置く)にそれが顕著だ。作者によれば「抽象画でも具象画でも、画面に何が描かれているかではなく、何色がどのような形でどのように描かれているかというように見えます。赤い色の面は、赤い色の絵具が塗られたものにすぎないのです」。絶対音感ならぬ「絶対色感」ともいうべき感覚を持った画家ならではの言葉だ。ほかに、小動物の頭蓋骨やミイラ、ミニカーなどを原寸大で描いた小品に、昆虫と少女の組み合わせという松山ならではのモチーフもある。さらに奥のほうには虹色で同心円を描いた3点の連作があって、松山にしては乱暴なタッチなので一瞬なんだろうと首をひねったらわかった。画面下の空白部分が東北地方を横倒しにした白地図になっていて、同心円が震源地からの波(振動波や津波)の伝播を表しているのだ。うーむ松山画伯ともあろうお方までもが大災害に心を痛めておられるとは。いやけっこうモチーフが広がったと内心ほくそ笑んでおられるかも。
2011/09/01(木)(村田真)
Unknown
会期:2011/08/25~2011/08/31
アユミギャラリー[東京都]
白井美穂、松本春崇、村田峰紀、西原尚、原游、カトウチカという30~50代の異才たちによる異色の取り合わせ。3.11の大惨事により未知の扉が開いてしまった。その知られざる世界を見つめ直し、一歩踏み出していかなければならない、というのが「Unknown」の意味するところらしい。原発事故関連のマップを美しい色彩で描いた松本春崇のように、3.11に直接言及する絵画もあれば、ドラムセットの一部から自動演奏楽器をつくった西原尚のように、3.11とは直接関係ない表現もあるし、また、パフォーマンスで用いてグシャグシャになった本を展示している村田峰紀のように、意図はどうあれ結果的に3.11を連想させる作品もある。注目すべきは原游の作品。イメージのリプレイスメントともいうべき遊び心あふれる絵画は、3.11とも9.11とも無関係なフリを装いつつ、さりげなく未知の扉をノックする佳作だ。
2011/08/31(水)(村田真)
博物館網走監獄
博物館網走監獄[北海道]
なぜか網走なう。網走といえば監獄、そこで明治23年に誕生したという網走監獄の博物館を訪れる。「網走監獄博物館」ではなく、博物館を前にもってくるところに日本一有名な(悪名高いともいえる)監獄としての「どや感」が漂う。首都大学東京みたいなもんだ。ぜんぜん違うか。丘の中腹に移築または復元した監獄建築は重厚な存在感を放つが、囚人や看守のマネキンや当時の労働風景を再現したジオラマなどは、本来の意図とは別の哀れさを感じさせないでもない。館内の食堂で監獄食をいただく。受刑者と同じメニューだというが、麦メシに魚と副菜2品、みそ汁がついた定食は思ったより豪華。もっと質素かと思った。それでも700円(サンマ)か800円(ホッケ)もするのは高いのではないか。もっともこれは観光用の値段で、囚人用はもっと安上がりだろうけど。売店には「網走監獄」の商標が入ったグッズや、「出所しました」というキャッチコピー入りの商品が並び、他のミュージアムショップとはあきらかにベクトルが異なる。負のイメージを逆手にとった自虐戦略なのだ。
2011/08/26(金)(村田真)