artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

黄金町バザール2011

会期:2011/08/06~2011/11/06

日ノ出町・黄金町界隈[神奈川県]

これも新・港村と同じくヨコトリ特別連携プログラム。京急日ノ出町駅から黄金町駅にかけての高架下周辺に密集するアヤシゲな店を改装し、アーティストのスタジオに再活用していく長期的プロジェクトで、3年前に始まった。広大なスペースの新・港村とは反対にこちらは街一帯に狭小なスペースが点在しているため、一軒一軒たずね歩く楽しみはあるものの、真夏は暑い。9月からは参加アーティストや作品が増えていくらしいが、この段階での注目は、竜宮美術旅館の志村信裕と樋口貴彦、八番館の北川貴好と雨宮庸介の作品。志村は旅館の風呂に湯を張って上からレース模様の映像を投影し、天井に揺らめく像を反射させるインスタレーションを発表。夜には実際に入浴できるという。元ラブホの風呂という淫靡な場所を最大限に生かした体験型の秀作だ。樋口は旅館の裏の空き地に古い山小屋を移築し、壁の中央に水平にガラスブロックを差し挟んだ作品を制作。ビルに囲まれた空き地に突如異空間を出現させるという力業だ。北川は黄金町界隈で拾い集めた百の電球を球状にした作品。アヤシゲな街だけにアヤシゲな色の電球も混じっていて、夜点灯するのが楽しみ。雨宮は狭い部屋の壁に斜めから映像を当てたものだが、その不定形の映像の輪郭に合わせて壁にキャンヴァスを置いている。これは絵画やイメージが前提としている正面性や四角形に揺さぶりをかけているようにもみえる。樋口を除いて一つひとつの作品規模は小さいだけに、かなり実験的な作品を試みることができたようだ。

2011/08/09(火)(村田真)

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BankARTライフIII「新・港村」

会期:2011/08/06~2011/11/06

新港ピア[神奈川県]

ヨコハマトリエンナーレ2011の特別連携プログラムとして、新港ピアの広大な空間を使ったBankARTの無謀な試み。そもそも新港ピアは横トリのメイン会場として建てられたものじゃなかったっけ? なのに今回は新港ピアを使わず、横浜美術館と日本郵船倉庫をメイン会場にし、そのため日本郵船倉庫を拠点にしているBankARTが新港ピアに移るという玉突き現象が起きてしまったのだ。最初から横浜美術館と日本郵船倉庫(第1回に使った赤レンガ倉庫でもいいが)を横トリの会場に決めておけば、毎回会場が変わることもなく、新港ピアを建てるムダも省かれたのに。まあいろいろと裏事情があるんでしょうねえ。で、新・港村は新港ピアをひとつの村に見立て、そこに大小3つのギャラリーや劇場、工房、各地のアートNPOのブース、スクール校舎、ブックショップ、カフェなどを配する壮大な計画……のはずなのだが、オープニングの時点では未完成部分もあり、とくにいちばん奥の気鋭の建築家数人に設計を任せたゾーンは半分もできていなかった。ヨコトリ本体がこぢんまりとまとまっているだけに、中途半端感は否めないが、会期中に現在進行形で建設されていくのを見せるのも動的で悪くないかも。35歳以下の若手アーティストを紹介するU35ギャラリーの「西原尚展」、梅佳代らが被災前の八戸の人や風景を撮った写真展「八戸レビュ─」(新・港村ギャラリー)、関内のギャルリーパリと同時開催の「フランシス真悟展」(HHギャラリー)などはこの日、無事オープン。

2011/08/06(土)(村田真)

クシシュトフ・ヴォディチコ《サヴァイヴァル・プロジェクション2011》

会期:2011/08/05~2011/08/09

新港ピア壁面[神奈川県]

新・港村を開村した新港ピアの建物の側面にプロジェクターで映像を映し出し、観客は地べたに座ってそれをながめる。今回は軍を退いた元兵士たちの言葉を集めた《退役軍人のためのヴィークル》に、3.11の被災者たちへのインタビューを加えた構成。映像といっても言葉だけ(英語と日本語、ポーランド語もあったか?)で、しかも音声と同時に言葉が単語ごとに現われては消えていくため(その後、銃声とともに高速度で単語が繰り返されるが)、メッセージについて考える余裕がない。そのため記憶に残っているのは銃声とともに単語が明滅したという現象だけで、その内容に関してはほとんど覚えていない。たぶん、それでいいのだ。

2011/08/05(金)(村田真)

ヨコハマトリエンナーレ2011

会期:2011/08/06~2011/11/06

横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫[神奈川県]

ヨコトリについては、すでに8月15日号の「フォーカス」にレポートを書いてしまったので、そこで触れなかったことを少し。3.11の震災に関連する作品についてだ。この大震災と原発事故の影響で、本展の開催時期や出品作家も大きく変わるのではないかと危ぶまれたこともあって(結果的には予定どおり)、震災・原発に触発された作品が多く出されるだろうと予想したのだが、幸か不幸か見事にはずれた。あきらかに震災に言及した作品は、ぼくの見た限り、日本郵船倉庫の3階にあるジュン・グエン=ハツシバの映像インスタレーション《呼吸することは自由:日本、希望と再生》のみ。これは作者やボランティアがGPSを装着して走り、その軌跡で地図上にドローイングを描くという試み。プロジェクト自体は2007年に始まったが、とくに今回は東北の被災者に捧げるため、ホーチミン市と横浜市の街を桜の花のかたちに走ったという。多くの人たちを巻き込んだ労作ではあるが、隣でやってるクリスチャン・マークレーの映像《ザ・クロック》の前では影が薄い。同じフロアにはシガリット・ランダウの《死視》や、「フォーカス」でも触れたヘンリック・ホーカンソンの《倒れた森》もあって、この一角だけ不穏な空気を漂わせている。《死視》は作者自身が全裸で死海に浮かび、たくさんのスイカとともに流されていく映像、また《倒れた森》は巨大な鉢植え植物を横倒しにしたインスタレーションで、いずれも津波を連想させずにはおかない。ちなみに《死視》というタイトルは「Dead Sea(死海)」を「Dead See」に置き換えて和訳したもの。しかしどちらの作品も5、6年前の旧作で、震災後につくられたものではない。震災とは関係ないが、同じ建物の1階に展示されているイェッペ・ハインの《スモーキング・ベンチ》にも触れておきたい。背もたれのない四角い箱のような椅子が床に置かれ、前には大きな鏡が立っている。観客が椅子に座ると下のほうから煙が出て、一瞬人の姿が見えなくなってしまうという作品。アホらしくて笑えるが、しかし煙とともに人も消えてなくなったら……と考えるとかなりコワイ。とくに子どもは、親や自分自身が一瞬にして消えてなくなることを想像するだけで本気で怖がるはず。まさにそれが3.11で実際に起こったのだ。しかも数万人規模で。まあこの作品からそこまで想像を膨らませる必要はないけれど。

2011/08/05(金)(村田真)

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NEXT - TWS10年!

会期:2011/07/07~2011/10/02

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

ワンダーサイト開館10周年記念展。遠藤一郎、永岡大輔+松本力、寺澤伸彦、オル太らが作品を出しているのだが、3月の大震災を意識しすぎたのか結局なにがやりたいんだかよくわからない。唯一納得できたのは、震災に関係ない心臓みたいなイモ(イモみたいな心臓?)をつくったオル太のみ。と書いて気づいたけど、イモみたいに地中に心臓があったら地面も揺れ動くわね。

2011/07/30(日)(村田真)

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