artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
榎忠展──美術館を野生化する
会期:2011/10/12~2011/11/27
兵庫県立美術館[兵庫県]
そして、そしてそしてそして神戸。まずはエノチュー展の開かれている兵庫県美へ。港を望むこの地にはかつて製鉄所があったというから、エノチューが鉄の匂いを嗅ぎつけてきたのか、磁石のように引きつけられてきたのか、いずれにせよ鉄、鉄、鉄の展覧会。アメリカ製のコルトとロシア製のカラシニコフを型どりした鉄塊がずらりと並ぶ通路を進んで展示室に入ると、工作機械の部品で組み立てた巨大な大砲が5、6点鎮座している。かっこうだけの大砲もどき、と思ったらちゃんと撃てるやつもあるというから驚く。裁断機にかけられた鉄片に油を塗った《ギロチンジャー1250》は、色つやといい肌触りといい陶器のようだし、部分的にカットされた巨大な鋼管《テスト・ピース》はまるで原口典之の彫刻だ。最後は旋盤で機械部品を削って塔のように何百本も林立させた《RPM-1200》。このインスタレーションはこれまで見たなかでは最大規模で圧巻。……なのだが、見終えてやや食傷気味になる一方で、なにかもの足りなさを感じてしまうのも事実。それは、彼の作品の大半が工場で偶然にできた形態か、さもなければ大砲のように廃材を組み合わせて別のかたちにしたものだからかもしれない。いってみれば、鉄だけにハードばかりでソフトが伝わってこないというか。おそらく鉄以外のパフォーマンスも含めた彼の全体像を見れば、また違った印象を受けただろう。
2011/10/21(金)(村田真)
丸山純子「ユートピア トトピア」
会期:2011/08/06~2011/11/06
横浜市中区本町6丁目第二公区[神奈川県]
馬車道駅のすぐ近くに位置する50メートル四方ほどのアスファルトの地面に、廃油からつくった石鹸の白い粉で大きな花の絵を描くプロジェクト。その空地に隣接する宇徳ビル4階にスタジオを構える丸山が発案し、関係機関と交渉して実現させたもの。花の直径だけでも30メートルくらいあるので、地表からだとなにが描いてあるのかわからないが、宇徳ビルやランドマークタワーの上階からならよく見える。また、雨が降ると流れてしまうのでそのたびに描き直さなければならず、実際9月に見に行ったときには台風の後だったためなにも見られなかった。今回は宇徳ビル8階のガラス張りの部屋からながめる。何度も描き直しているため、しかもそのつど違う花を描いているため、わずかながら以前の線が何本も残り、図らずもマティスのドローイングのように生動的な効果を生み出している。これはいいかも。
2011/10/20(木)(村田真)
UNDER35 中谷ミチコ展
会期:2011/10/14~2011/11/06
UNDER35ギャラリー[神奈川県]
中谷ミチコといえばレリーフだが、いわゆる「浮き彫り」とは反対に「沈み彫り」とでもいうべき技法で彫り、そこに透明樹脂を流し込んで固めたものが代表的だ。凹凸が逆になるため不気味な陰影や立体感を醸し出す。今回も「沈み彫り」が何点か出ているが、圧巻はオオカミのような動物が何頭か群がった浮き彫りのほうだ。絡み合った身体やウロコのような毛並みまでリアルに表現されている。沈み彫りは物理的に四角い枠と厚みが必要だが、浮き彫りは枠が必要ないので現実空間との関係が直接的になり、よりリアルに感じられるのだろう。沈み彫りがタブローに近いとすれば、浮き彫りは壁画に近いといえるかもしれない。レリーフにもいろんな可能性があるんだねえ。
2011/10/14(金)(村田真)
横浜を撮る!捕る!獲る! 横浜プレビュウ
会期:2011/10/14~2011/11/06
新・港村(新港ピア)全体[神奈川県]
中平卓馬、森日出夫、石内都といった大御所から、佐久間里美、三本松淳らの若手まで、横浜をテーマにした写真展。新・港村には大小三つのギャラリーがあるが、作品はギャラリーだけでなく四つのゾーンに分かれた村全体に散りばめられている。宮本隆司と佐藤時啓はピンホールカメラで新港ピアや関内をとらえ、楢橋朝子は大岡川の水面から風景を撮影、山崎博はおそらく港の明かりを浮遊する光として表現、小山穂太郎は横浜港を撮った巨大なモノクロ写真をつなげ、逆に鈴木理策は小さな写真で展示を重視、といったように作品も展示も各人各様。それはいいのだが、同時期にBankARTスクール飯沢耕太郎ゼミの発表や東京芸大の写真展なども重なり(「アペルト」とも呼ばれる)、それらの展示も各所に散らばっているので、いったいどれがだれの作品なのかわかりにくい。まあだれの作品かわからなくても、見れば質の違いは歴然だけどね。
2011/10/14(金)(村田真)
代官山インスタレーション2011
会期:2011/10/09~2011/10/30
代官山界隈[東京都]
今年で7回目を迎えた野外インスタレーションのコンペ。前回までとなにか違いがあるとすれば、審査員のひとり中原佑介さんが亡くなり、代わりに北川フラムさんが加わったこと。もともと北川さんは主催者側の人間だから、この変更によって審査の方向性が変わることは考えにくい。でも今回は、毎回ひとつはあった思わずうなってしまう奇抜なプラン、思わず笑ってしまうおバカな作品が影をひそめたように感じるのは気のせいか、それともナンセンスをこよなく愛した中原先生が抜けたせいか。ちょっとおバカだったのは、河地貢士の《まんが農業》。分厚いマンガ雑誌の印象深かったページに野菜の苗を植え、水をまいて育てるというプランだが、残念ながらサイトスペシフィックではない。平賀俊孝×佐々木尚之の《象徴的生活感》とZEMIの《ヒルサイドFM》は、どちらも街なかにブースを設け、ガラス張りのなかで人が活動するというプラン。これは新しい傾向かもしれない。一方、ヒルサイドテラスの裏にある屋敷を際立たせるため、駐車場に四角い大きな枠(額縁)を設けた松本明子+鈴木将記の《A邸~都市の記憶~》は、プランの段階では感心したものの実際にはそれほど効果的でなかったのが惜しい。さて、いま挙げた四つのプランはどれも四角を基本としていることに気づいた。四角いマンガ雑誌、四角いガラス窓、四角い枠……。そう思って残りの作品を見直してみると、やはり四角(ボックス、道しるべ)もしくは円(ボール、自転車)を基本としていることが判明。単なる偶然だろうけど、この幾何学偏重は興味深い。
2011/10/14(金)(村田真)