artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
森下泰輔「濃霧」
会期:2011/08/18~2011/08/27
アートラボ・アキバ[東京都]
霧が立ちこめるギャラリーに入ると、テレビモニターからは福島第一原発の映像が流れ、ときおり不気味なノイズが発せられる。奥には金と銀に塗られた骸骨も立っていて、不穏な空気に拍車をかける。降り注ぐ原発からの放射線を使ってノイズを鳴らすという試みだそうだ。なるほど、これからはガイガーミュージックとも呼ぶべき新たなジャンルが確立されるかもしれない。立方体に近いコンクリート製のこのギャラリーも、映像で見慣れてしまったあの建屋の内部を連想させ、舞台としてはぴったり。作者によれば、このインスタレーションは日本の将来を暗示する「五里霧中」をコンセプトとしているという。
2011/08/23(火)(村田真)
イケムラレイコ「うつりゆくもの」
会期:2011/08/23~2011/10/23
東京国立近代美術館[東京都]
70年代初めから40年近くヨーロッパを拠点に活動してきたイケムラレイコの回顧展。展示は通常の回顧展とは逆に、まず新作・近作に始まり、徐々に時間をさかのぼっていき、最後に再び新作が見られるという構成だ。時代順に並べると、初期の作品を見ているうちに疲れてしまい、最後のほうは素通り同然になりかねない。若いころに傑作をものして名を成し、その遺産で晩年まで食いつないでいくような早熟型の物故作家の回顧展ならそれでもいいが、近年ますます特異な世界に突き進んでいる旬のアーティストであるイケムラの場合、やはり新作を真っ先に見せたいという同展の意図は正解だろう。事実、最後のほう(つまり初期)の80年代の作品は、当時ヨーロッパを吹き荒れていた新表現主義絵画となんら変わるところがないし、その手前の90年前後の作品は、山水画の構図や日本的な中間色を多用した和洋折衷様式で、(悪名高い)岡田謙三の「ユーゲニズム」を思い出させる。これらを最初に見せられたら、イケムラのイメージはまるで違ってしまうところだった。彼女が独自の世界を確立していくのは、その後(展覧会ではその手前の)90年代にテラコッタによる彫刻が登場し、黒い背景に横たわる少女のモチーフが現われ、キャンヴァスだけでなく目の粗いジュートに描くようになってから。最新作、つまり展覧会の最初のほうには再び「山水」のシリーズが登場するが、これはかつてのような和洋折衷とかユーゲニズムとはまったく違う世界になっている。これらを先に見られたことは幸いだった。
2011/08/22(月)(村田真)
中原佑介さんを偲ぶ会
会期:2011/08/20
ヒルサイドプラザ[東京都]
この会は当初、8月に80歳を迎える中原さんの傘寿のお祝いをかねて、『中原佑介美術批評選集』の出版記念会として計画されていたものだが、3月に中原さんが亡くなられたため、出版記念をかねた「偲ぶ会」となってしまった。選集の発行は現代企画室とBankART出版。BankARTとは、2005年にスクールの講師として中原さんをお招きして以来の縁だ。横浜市在住だったし。会の参加者は、ざっと見たところ9割方が50歳以上で、数十年ぶりというなつかしい顔もチラホラ。みんな中原さんと親交のあった人たちだが、同時にこれが批評に親しんだ、いや批評に導かれた最後の世代かもしれない。美術に限ったことではないが、批評が衰退して活字離れが顕著になったのは、軽佻浮薄の時代といわれた80年代前後のこと。そんな時代気分を促進した原因のひとつに『ぴあ』があったとすれば、元編集者として少し複雑な気分にもなる。そしてその『ぴあ』もこの夏に最終号を迎えたことを考えると、時代はもうふた周りほど進んでしまったことになるのか。
2011/08/20(土)(村田真)
フランシス真悟“Veils”
会期:2011/08/05~2011/08/20
ギャルリーパリ[神奈川県]
フランシス真悟ってイヴ・クラインの息子だっけ? ってくらい青の使用量が多い画家だが、今回は赤紫の大作を出品。タイトルの「ヴェール」のごとく青や赤の絵具を何十回も塗り重ねて深い色合いを出している。画面の上下に少し残した余白が効果的だ。関係ないが、このギャラリーの入ってる三井物産横浜ビル(明治44年竣工)は8月に100歳を迎えたそうだ。この雰囲気のある空間は長く残してほしいものだ。
2011/08/16(火)(村田真)
藤島武二・岡田三郎助展:女性美の競演
会期:2011/07/28~2011/09/04
そごう美術館[神奈川県]
ともに明治維新前後に九州に生まれ、曾山幸彦の画塾に学び、時期は違うがヨーロッパに留学し、東京美術学校で教えるという同じような道を歩んだ藤島武二と岡田三郎助。ふたりとも女性美を追求した人物画でも定評があるが、今回はその女性像を中心とした展示。ここまで共通点が多いと、どれがだれの作品かわからなくなり、2人展としての意味がなくなりかねないが、このふたりは初期作品を除いて作風はかなり異なっている。藤島が平面的でメリハリのある画面をつくるのに対し、岡田はぼんやりとしてなめらかな絵肌を得意とする。いってみれば、「モダニスト=藤島」vs「古典主義者=岡田」の違いであり、それがおそらく美術史上の評価の違い(藤島のほうが上)にも反映されているのではないか。でもぼくはよりキッチュ度の高い岡田に軍配を上げたい。
2011/08/14(日)(村田真)