artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
棚田康司 展「◯と?」(らせんとえんてい)
会期:2011/09/22~2011/10/14
スパイラルガーデン[東京都]
スパイラルガーデンの巨大な吹き抜け空間に、2組4体の彫刻が置かれている。奥が「風神雷神」にヒントを得た《風の少年》と《導雷少女》で、手前が《ナギ》と《ナミ》。いずれも一木づくりで表面が彩色され、台座部分は木のかたまりのままだ。奇妙なのは《ナギ》と《ナミ》の展示で、両者が向かい合うように横倒しになっているのだ。この2体、巨木を縦に割ってそれぞれに彫っているのだが、台座の大きさに比べて人物像が細くて小さいため、横倒しにすると身体部分が宙に突き出したかたちになる。つまり作品の前に立つと、両側から《ナギ》と《ナミ》の頭がニューと出ていて、まるで「風神雷神」を守る遮断機のようなかっこうになっている。しかもこの2体、身体が微妙にねじ曲がっているため波形に見える。いや波形というより螺旋を描いているというべきか。スパイラルの語源になった螺旋状の吹き抜け空間に置かれた、ゆるやかに螺旋を描く1組の人体彫刻。空間を深く読みとったインスタレーションといえる。
2011/09/22(木)(村田真)
ゼロ年代のベルリン──わたしたちに許された特別な場所の現在(いま)
会期:2011/09/23~2012/01/09
東京都現代美術館[東京都]
世界12カ国からベルリンに集まった15組(10/29から18組に増加)のアーティストを紹介。映像作品が多いので閉口するが、マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフの映像は笑える。マティアスが地下鉄構内や橋などにヒモを掛けてブランコ遊びをするところを記録したもので、映像作品というよりストリートアートのドキュメンタリーになっている。ミン・ウォンはパゾリーニ映画の登場人物すべての役を自分ひとりでこなすという映像作品がメインだが、その映画のワンシーンを描いたペインティングも出していて、こちらのほうがおもしろい。ペインティングでいえば、抽象表現とグラフィティを掛け合わせたようなカタリーナ・グロッセの作品が、今後の絵画の可能性を示唆しているように思えた。
2011/09/22(木)(村田真)
世界遺産 ヴェネツィア展──魅惑の芸術・千年の都
会期:2011/09/23~2011/12/11
江戸東京博物館[東京都]
なぜいまヴェネツィア展なのか。今年はヴェネツィア・ビエンナーレの開かれる年だから、ってわけではない。ビエンナーレは2年に一度開かれるんだもん。考えられるのは、ヴェネツィアも日本もいま水没の危機に直面しているということだ。しかしそんな理由で来るかね。ともあれヴェネツィア。考えてみれば、ぼくがいちばんたくさん行った海外の都市は、パリでもロンドンでもニューヨークでもなく、ヴェネツィアなのだ。もちろんビエンナーレを見に行くためだが、何度か行くうちにビエンナーレの取材より、むしろヴェネツィアという街を再訪すること自体が楽しみになってきた。そして、行けば行くほどこの街は奥深い表情を見せてくれるのだ。こうして人はヴェネツィアと恋に落ちていくのかもしれない。なーんてね。展覧会はヴェネツィアの歴史と文化を紹介するのが目的なので、ガラスをはじめとする工芸品、衣装、家具、写本などもけっこう出ている。絵画は、ヴェネツィアを代表する画家ティツィアーノが1点もないのが残念だが、ベッリーニ兄弟、カルパッチョ、ティントレット、カナレットらはある。とりわけ仮面舞踏会などヴェネツィアの風俗を描いた18世紀の画家、ピエトロ・ロンギの作品を見られたのがうれしい。
2011/09/22(木)(村田真)
「宮澤賢治/夢の島から」(飴屋法水『じめん』、ロメオ・カステルッチ『わたくしという現象』)
会期:2011/09/16~2011/09/17
都立夢の島公園多目的コロシアム[東京都]
舞台芸術の祭典「フェスティバル/トーキョー」のオープニングを飾る、飴屋法水構成・演出『じめん』と、ロメオ・カステルッチ構成・演出『わたくしという現象』のダブル公演。『じめん』では、クレーター状のコロシアムの盆地中央に白い椅子が数百席ほど並び、一番前の席に少年がひとりぽつんと座っている。やがて少年の座った椅子を残して椅子たちがゴトゴトと後退し始める。まるで生き物のようにうごめく、というより、津波に押し流されるガレキのようにといったほうが適切かもしれない。ここがいちばん心を動かされる場面だ。『わたくしという現象』は、『猿の惑星』のサルや『2001年宇宙の旅』のモノリスが出現したり、放射能研究やラジウムの発見で知られるマリー・キュリーが登場したり、飴屋が出て来てロメオと対話したり、めくるめく展開を見せる。最後に、日本の地形が消えた極東の地図が登場し、日本そのものが「夢の島」だったというオチ。「夢の島」で行なわれたサイトスペシフィックな野外公演でした。
2011/09/16(金)(村田真)
山下麻衣+小林直人「The Four Souvenirs and The Book」
会期:2011/08/06~2011/09/17
タクロウソメヤコンテンポラリーアート[東京都]
焼く前の陶土製の皿にエサを置き、それを食いにきたハリネズミが陶土に足跡を残し、それを焼いてオリジナルの皿を完成させる。丸太を抱えてアルプスに登り、雄大な雪渓を見ながらその風景を丸太に刻む。銅製のフタコブラクダをつくり、ふたりでコブをなでてツルツルにする。制作過程がひとつのパフォーマンスであるが、その結果どれもちゃんとした美術作品(陶器や彫刻)として残している。ただあれこれいろんなことをやってるので散漫な印象があり、たんなる思いつきの連発に見られかねない。
2011/09/16(金)(村田真)