artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

小野耕石「削柱移植」

会期:2011/10/07~2011/10/23

アートフロントギャラリー[東京都]

セミの抜け殻や鹿の頭蓋骨の表面に、さまざまな色が層になった突起が無数についている。なんかキモイなあ。この色の層、実は版画の技法でつくったものだという。直径数ミリのドットを同じ版で同じ場所に色を変えながら100回くらい刷って積み上げた柱なのだ。この色の柱を削り取って別の物体に移植したのが、今回の「削柱移植」シリーズ。なんて妙なことをするアーティストだろう。だれも真似をしないだろうし、真似したくてもできないという意味ではきわめてオリジナリティが高い作品だ。それにしてもなんでセミの抜け殻や動物の頭蓋骨なの? どちらも生命が宿っていた抜け殻だが、そこに色の柱を立てることにどんな意味があるの? ナゾは深まるばかりだ。

2011/10/14(金)(村田真)

元田久治 展

会期:2011/09/26~2011/10/22

中京大学アートギャラリーC・スクエア[愛知県]

 午後から愛知芸術文化センターでコンペの審査があるので、その前にいちど行ってみたかったC・スクエアに寄ってみる。中京大学の構内にあるギャラリーで、巷の画廊より広いけど美術館ほど広くはないというスペース。いいかえれば、新人作家の個展にはもったいないし、巨匠の回顧展には狭すぎるが、中堅アーティストのある程度まとまった仕事を概観するにはちょうどよい広さだ。元田は既存建築の未来予想図ともいうべき廃墟の版画で知られるアーティスト。そこで廃墟にされるのは、東京駅、国会議事堂、六本木ヒルズ、羽田空港などで、建築をよく調べて克明に崩している。よく見ると、傍らの植物が建物に比べて大きく描かれた絵もあり、縮小モデルの廃墟というか、箱庭的なカタストロフという印象だ。日本だけでなく、シドニーのオペラハウスやサンフランシスコの野球場も含まれている。これらは彼が文化庁の海外研修制度で滞在した場所。お世話になった街に廃墟の図を残して去るなんて、シャレてるというか、恩知らずというか。版画以外に油絵もあって、点数的にも作品の内容としても満足のいく展示だった。

2011/10/08(土)(村田真)

スマートイルミネーション横浜

会期:2011/10/07~2011/10/09

象の鼻パーク+山下公園+元町ショッピングストリートほか[神奈川県]

横浜港発祥の地にある象の鼻テラスが、「都市観光とアートの融合」を目指して展開する光を用いたアートプロジェクト。都市の夜景を彩るイルミネーションといえば、阪神大震災の起きた1995年に始まる神戸ルミナリエがまず思い浮かぶ。地震後にイルミネーションが発想されたのは、犠牲者の鎮魂と都市の復興にふさわしいと考えたからだろう。この「スマートイルミネーション」にも、きっとそんな思いが込められているに違いない。もちろん「ブルー・ライト・ヨコハマ」からの連想もあるが。プレスツアーは、イルミネーションスーツをまとった日下淳一がうろつく象の鼻からスタートし、藤本隆行らがライトアップする通称キング、クイーン、ジャックの3塔を見ながら、高橋匡太による《ひかりの実》を設置した元町商店街や山下公園などをバスで巡回。いったん象の鼻に戻り、今度は船に乗って海から夜景をながめる約1時間のナイトクルーズ。これは快適、まさに「観光」。でも全体的にイルミネーションはちょっとさびしかったなあ。とくに元町商店街ではほとんど目立たない。鎮魂と復興が隠れテーマならもっとハデに繰り広げてほしかったけど、震災と津波だけでなく原発事故まで引き起こしてくれたおかげで、消費電力を抑えなければならない事情もある。目立ちたいけど目立っちゃいけない──この矛盾を解決する最終兵器が、省エネのLEDだ。タイトルの「スマート」にも省エネの意志が組み込まれている。

2011/10/07(金)(村田真)

ニューアート展 NEXT 2011「Sparkling Days」

会期:2011/09/30~2011/10/19

横浜市民ギャラリー3階展示室[神奈川県]

「今日の作家展」がいつのまにか「ニューアート展」に変わったと思ったら、今年から「ニューアート展NEXT」に更新された。どうせなら「アートネクスト」に縮めたらどうだ。出品作家は荒神明香、曽谷朝絵、ミヤケマイの女性3人。荒神は広い部屋にスパゲティ(もちろんゆでる前の)で家や山の輪郭をつくり、それらを組み合わせて空中楼閣のように天井から吊るしたインスタレーション1点。その宙吊りにされた風景は危うく、はかない。実際、何日もかけてこの場でつくり、終わったら撤去して影もかたちも残らないのだ。でもなんでスパゲティなの? 素材と内容にギャップが感じられる。曽谷はここ10年ほど描きためた虹色の絵画のほか、天井の高い一室でカラフルなシートを波紋状に切り抜いて壁や床に貼りつけたインスタレーションも発表している。シートに反射した光が壁や天井に映り、とても美しい。網膜で勝負。ミヤケはレリーフ状のフィギュアをボックス型の額に収めたり、通路にインスタレーションしたりといろいろ工夫しているが、基本的に工芸的。でも出品点数がハンパでなく、あとのふたりを圧倒している。その意欲は見習いたい。

2011/09/30(金)(村田真)

モダン・アート、アメリカン──珠玉のフィリップス・コレクション

会期:2011/09/28~2011/12/12

国立新美術館[東京都]

19世紀なかばの素朴派のエドワード・ヒックスから、世紀後半のアメリカ印象派、20世紀前半のモダンな都市風景を経て、1960年代の抽象表現主義のロスコ、フランケンサーラーにいたるまで、1世紀余りのアメリカ近代絵画をたどる展観。外光を浴びた日傘の描写が美しいプレンダーガストの《パッリア橋》をはじめ、自然の風景をモニュメンタルな形態に封じ込めたロックウェル・ケントの《アゾバルド川》、まるで豆腐のような建物がユニークなジョージア・オキーフの《ランチョス教会、No2、ニューメキシコ》、軽快なタッチで一瞬の表情をとらえたロバート・ヘンライの《オランダ人の少女》、夕暮れの高架鉄道を光と闇の対比で効果的に表現したジョン・スローンの《冬の6時》、マンハッタンに建ち始めた高層ビルを幾何学的抽象のように描いたチャールズ・シーラーの《摩天楼》など、抽象表現主義以前のあまり知られていない作品が紹介されて満足度は高い。肝腎の抽象表現主義は10数点出ているが、巨大画面を身上とするグループなのにそれほど大きな作品はなく、かえって貧相に感じられるのが残念。とはいえ、フィリップ・ガストンやクリフォード・スティルらの作品は日本で見る機会が少ないので貴重だ。

2011/09/27(火)(村田真)

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