2022年10月01日号
次回10月17日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

増田友也の世界─アーカイブズにみる思索の軌跡

会期:2021/10/27~2021/12/12

京都大学総合博物館[京都府]

「モダン建築の京都」展(京都市京セラ美術館)の第7セクション「モダン建築の京都」において、山田守の《京都タワー》(1964)や前川國男の《京都会館》(1960、現・ロームシアター京都)は年表のみの記載だが、厳選された最後の作品として、《京都大学総合体育館》(1972)が登場する。設計者は京都大学で長く教鞭をとった増田友也(1914-1981)であり、同校の関係者から分かる人には分かる凄い人といった風に、カリスマ的に語られていたため、正直近づきがたい印象があり、展覧会の扱いはやや唐突にも思えた。



「モダン建築の京都」展の京都大学総合体育館模型



京都大学総合体育館


世代としては1913年生まれの丹下健三と同世代だから、東大と京大をそれぞれ代表するモダニズムの建築家と言えるだろう。ちょうど同時期に、《京都大学総合体育館》と道路を挟んで向かいの京都大学総合博物館において増田の建築展が開催された。彼の作品と活動をていねいに紹介しており、ようやくその重要性を理解することができた。特に興味深いのは、増田の建築が数多く建設され、ほとんど残っている鳴門市が共催し、映像や家具、過去の記録写真なども展示していること。そこでは建築論をきわめた哲人としてではなく、使用者の立場から、市民がいかに彼の建築を愛し、使っていたかをとりあげている。



京都大学総合博物館の展覧会案内パネル



鳴門市民会館の椅子



鳴門市民会館の椅子


今回の企画は、脱神格化しつつ、増田展を実現したことに加え、建築アーカイブズをどう扱うかというもうひとつの重要なテーマをもつ。実は2015年にも生誕100周年記念建築作品展が京都工芸繊維大学の美術工芸資料館で開催されており、そのときに制作された模型は「増田友也の世界」展でも活用されている。が、増田が残した膨大な資料、すなわち各種の図面、スケッチ、写真、メモ、研究ノート、手稿、領収書、手帳、チラシなどを、京都大学の田路貴浩、博物館の齋藤歩らが整理する京都大学研究資源アーカイブ事業の成果を反映したものなのだ。どういうことか。例えば、完成した建築の図面よりも、途中のプロセスで描かれた図面を優先している。また大きな図面によってそれぞれの建築を紹介しつつ、手前では同時期に彼が考えたことを伝える、さまざまなタイプの資料が並ぶ。おそらく、見せることを主眼とする展覧会ならば、細々とした手前の資料は省くか、もっと点数を絞るだろう。しかし、今回は建築アーカイブズとは何か、またどのように整理するか(キャプションでは、「Ar MIXED 2017/2/S1/062」など、詳細な資料情報を記載)を知ってもらう試みでもある。その結果、京都大学総合博物館の企画展としては、通常よりもかなり広い面積をとって開催された。もちろん、国立近現代建築資料館でもアーカイブズを紹介しているが、本展はかなり意識的にアーカイブズとは何かに焦点をあて、今後の建築界が大いに参考にすべき試みとなっている。

★──京都大学研究資源アーカイブ「増田友也建築設計関係資料, 1938–1984(主年代1950–1981)」https://www.rra.museum.kyoto-u.ac.jp/archives/1666/



増田友也の世界」展会場


2021/12/05(日)(五十嵐太郎)

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遥かなる都市展

会期:2021/11/17~2021/12/05

BankART Station[神奈川県]

会場には映像を投影する9面のスクリーンのみ(そのうち4面は、2つの壁の表裏=両面を使用)。都市への批評的な提案をテーマとしながら、立体的な表現がないので、物足りないのではないかと思ったが、杞憂に終わった。1960年代や70年代に撮影された、興味深い作品がいくつか含まれており、しかも全体を鑑賞できるような各作品が適度な長さの映像だったのもありがたい。なお、この展示は「横浜フランス月間2021」のイベントとして開催されたものだが、前半は特にイタリア人が多く、後半もオーストリアやアメリカの建築家やアーティストを含み、むしろフランス人は少数派である。さて、建築の観点からは、いずれも「アーキラボ:建築・都市・アートの新たな実験展 1950-2005」 (森美術館、2004-2005)などでオブジェとしては見たことがあったが、アーキズームの《ノーストップ・シティ》(1971)やスーパースタジオの「基本的な行為:人生《スーパーサーフェス》(1972)の映像を初めて実見したのが大きな収穫だった。後者は地球の表面を均質なスーパー・グリッドで覆う《コンティニュアス・モニュメント》のプロモーション・ビデオといった趣である。

同時代のラディカルな建築家集団、アーキグラムが映像を制作していたことは、日本でDVD化されたことで知っていたが、アーキズームやスーパースタジオも試みていたわけである。かつてル・コルビュジエはその建築・都市論を映像化し、山本理顕は修士論文のためにアニメーションを制作していた。フィルムの時代における建築家による映像の系譜はまだ全容がわからないので、今後のテーマとなりうるだろう。さて、同展では、ハウス・ルッカー・コーの《イエローハート》(1968)と、フィレンツェ中心部の運動をとりあげたUFOの《都市現象no.6》(1968)が、改めて1968年の文化革命と空気膜のオブジェの強いつながりを示していた。ウーゴ・ラ・ピエトラ《街を取り戻す》(1977)は、ミラノ周辺に生成したセルフビルド的な家屋群を紹介している。またアント・ファームの《メディア・バーン》(1975)は、アメリカのアイコンである自動車とテレビを衝突させるパフォーマンスだった。なるほど、これらの作品は、やはり映像でしか伝えられないものだろう。

2021/11/27(土)(五十嵐太郎)

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「静けさの創造」展、「歴コンを語る ~10年間の振り返りと今後のビジョン~」

会期:2021/11/16~2022/05/29

谷口吉郎・吉生記念金沢建築館、金沢学生のまち市民交流館[石川県]

金沢で毎年、開催されている歴史的空間再編コンペティションが十年目を迎えるにあたって行なわれた特別企画「歴コンを語る ~10年間の振り返りと今後のビジョン~」に参加した。歴代審査員、歴代入賞者、そして歴代の学生スタッフを集めたイベントで、筆者は立ち上げの第1回の審査員を務めていたからである。今世紀に入り、せんだいデザインリーグを筆頭に、日本各地でさまざまな学生のコンペが増えたが、金沢は重層的な建築の歴史が残る特性をいかして、歴史をテーマに掲げたことで、類似企画と一線を画している。会場もユニークで、町家を改修し、2012年にオープンした金沢学生のまち市民交流館を使い、畳の上で議論したり、模型が置かれているのは、ほかにはない特徴だろう。個人的にはデザインを通じて、歴史に関心がもたれている状況は好ましいが、一方で建築史に興味をもつ学生が本当に増えているという実感はなく、歴史がただのネタとして消費されていないか、あるいは単にまったく触れられない静的な保存の対象になり、思考停止していないか、そのあたりを注意深く見ていきたい。



金沢駅前に展示された「歴コン10年の歩み」



特別企画・座談会の会場 金沢学生のまち市民交流館



金沢学生のまち市民交流館 外観



歴コンに出品された模型


さて、金沢21世紀美術館の大成功もあって、金沢は市として建築のまちづくりに力を入れており、歴コンにも協力しているだけでなく、公立として日本初の建築ミュージアム(谷口吉郎・吉生記念金沢建築館)を2019年にオープンさせた。現在、谷口吉生が設計した11の美術館を紹介する企画展「静けさの創造」を開催している。もちろん、会場となる建築も彼が手がけたものだが、初期の《資生堂アートハウス》(1978)や《土門拳記念館》(1983)に始まり、《ニューヨーク近代美術館新館》(2004)や金沢の《鈴木大拙館》(2011)までをとりあげており、すべての作品を筆者は最低2回以上訪れていたことに気がついた。そのうえで、やはり図面、写真、模型などで、形状やプランはわかっても、空間の素晴らしさを伝えるのは難しいことを再確認した。どれも実物の方が断然良い。もっとも、建築には写真映りの方が良いケースもあることを踏まえると、谷口の美術館はやはり実際に内部を歩いて、体験しないと理解できないことが特徴なのだろう。実際、建築から見える風景は、現場でないとわかりにくい。なお、会場の外にあるロビーで流していた映像が、もっとも空間の再現性が高いと感じた。また『日本経済新聞』で谷口が連載した「私の履歴書」から、美術館の回を抜粋したテキストも興味深い。



谷口吉郎・吉生記念金沢建築館



「静けさの創造」展 展示風景


2021/11/20(土)(五十嵐太郎)

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INAXライブミュージアム

INAXライブミュージアム[愛知県]

なかなか足を運ぶ機会がないままになっていた常滑のINAXライブミュージアムをようやく訪れることができた。開放的な敷地において、大正時代の窯と建物、煙突を保存しつつ、中心となる広場のまわりに徐々に建て増していった複数の施設が並ぶ。まず「窯のある広場・資料館」は登録有形文化財に指定された産業遺産の空間を体験できる。ただ、窯のプロジェクションは面白いが、窯そのものを見るために、映像ナシの時間帯ももっと欲しい。そして「世界のタイル博物館」と建築陶器のはじまり館は、さすがのコレクションである。前者は、タイル研究家の山本正之が寄贈したタイルをもとに開設されたもので、一階で空間ごとタイルの表現を体験することができ、二階でさまざまな装飾タイルを楽しむことができる(陶板画も見事)。またミュージアムショップの近くでは、古便器のコレクションも展示していた。ちなみに、同館にはレストランが併設されており、事前に薪釜で焼くピザのお店があると知っていたら、ここでランチを食べたのにと後悔した。



「窯のある広場・資料館」



トンネル窯



「世界のタイル博物館」



古便器コレクション


「建築陶器のはじまりの館」は、日本の近代建築を飾った数々のテラコッタを紹介する。注目すべきは、それらが実物であること。言い換えると、ライトが設計した帝国ホテル旧本館や京都府立図書館など、取り壊されたり、改修されたりした建築から譲り受けたものだ。ともあれ、建築の上部についているとわからないが、地上レベルに降ろされると、かなり大きいこともよくわかる。横浜松坂屋本館や大阪ビル1号館など、とくに「テラコッタパーク」の屋外陳列は壮観だ。また「土・どろんこ館」では、旧丸栄百貨店本館、中日ビル(中部日本ビルディング)などを紹介する「壮観!ナゴヤ・モザイク壁画時代」展を開催中である。最近、解体されたばかりの村野藤吾による丸栄百貨店の壁画や中日ビルの天井画のほか、北川民次や脇田和の原画による作品などを紹介したものだ。モザイク壁画は、一部現物もあるが、現役で使われているものも多く、主に大きな写真のインスタレーションによって会場を構成している。そして「やきもの工房」は、特別に作業現場も見学させてもらったが、これまでにもジオ・ポンティや東京都庭園美術館のタイルの復元に協力しており、科学の実験室のように、色、造形、焼き方などを研究していた。



「テラコッタパーク」



「壮観!ナゴヤ・モザイク壁画時代」展の展示



「やきもの工房」


壮観!ナゴヤ・モザイク壁画時代

会期:2021年11月6日(土)~2022年3月22日(火)
会場:INAXライブミュージアム「土・どろんこ館」企画展示室
(愛知県常滑市奥栄町1-130)

2021/11/19(金)(五十嵐太郎)

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「ナラティブの修復」展

会期:2021/11/03~2022/01/09

せんだいメディアテーク[宮城県]

年に一度、せんだいメディアテークで開催される現代美術の大型の企画展として「ナラティブの修復」が開催された。開館から20周年、そして震災から10年という節目において、「もの語り」をテーマとしつつ、10組の作家によるさまざまな世界の認識を提示するものだ。選ばれた作家は、仙台に在住していたり、せんだいメディアテークと関わりをもち、直接的に震災を表現していなくとも、記憶に関わる作品などによって、いやおうなくポスト震災の表現となっている。

さて、展示のトップを飾るのは、仙台で調査やフィールドワークを継続してきた伊達伸明の「建築物ウクレレ化保存計画」だ。取り壊される建物の部材を活用してウクレレを制作するプロジェクトは、研究者が思いつくものではなく、アートならではの思いがけないかたちでの失われていく建築への弔いだろう。続く佐々瞬は、戦後の応急仮設住居から始まり、公園の整備によって消えた仙台の追廻地区の歴史をたどりながら、共同体の記憶を伝えるものだ。その存在は知っていたが、初めて追廻地区の全容を知ることができた。



伊達伸明「建築物ウクレレ化保存計画」展示風景



佐々瞬 作品展示風景


そして展示は、菊池聡太朗の荒地のドローイング群、磯崎未菜は歌をモチーフとする作品、是恒さくらによる鯨をめぐるエピソード、安定の小森はるか+瀬尾夏美が収集した11歳の記憶(什器は建築ダウナーズが協力)など、若手が続く。写真、立体、ドローイング、言葉という風に、表現の手法もバラエティに富む。ほぼ展示が終わって、会場の外に出たのかと思ったところで出現するのが、ダダカンが暮らす住宅をかたどった大きなインスタレーションだ。ここに彼が行なったハプニングやメールアートの記録のほか、さまざまな書簡や知人の作品、コラージュのための切り抜き、関連する映像などをぎゅうぎゅうに詰め込む。もともと本人が記録魔なのだが、これらの膨大な資料を整理したのが、細谷修平、三上満良、関本欣哉、中西レモンをメンバーとするダダカン連である。1920年生まれだから、もう100年を生きており、ほとんど全身美術史とでもいうべき展示の圧倒的な密度ゆえに、それまでの内容を忘れてしまうほどだ。今後、ダダカンの資料をどう扱い、保存していくのかも気になる。ともあれ、最後に一人の生き様でもっていかれる展覧会だった。



菊池聡太朗 作品展示風景



是恒さくら 作品展示風景



小森はるか+瀬尾夏美 作品展示風景



ダダカン 作品展示風景



ダダカン 作品展示風景


2021/11/17(水)(五十嵐太郎)

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