2023年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

中之条ビエンナーレ2021と原美術館ARC

[群馬県]

コロナ禍のため、スタートが遅れていた中之条ビエンナーレを、総合ディレクターの山重徹夫氏の案内により、伊参エリアの山間部を中心に、一足先に見学することができた。実は筆者にとって初めての訪問であり、聞いてはいたが、参加するアーティストのラインナップを含めて、確かにほかの芸術祭とだいぶ雰囲気が違う。必ずしも潤沢な予算ではなく、派手なアイコン的な作品はないが、長めの滞在制作がメインなので、やはり手をかけ、時間をかけた作品群は心を打つ。例えば、西島雄志による宙に浮かぶ鳳凰(旧五反田学校)や中村岳による屋外の大がかりな構築物(親都神社)のほか、鳥越義弘の室内インスタレーション(道の駅「雪山たけやま」)、古建築の瓦を再利用した三梨伸(やませ)、遺跡を制作する宮嵜浩(BOMBRAI WEST)(伊参スタジオ)、トモミトラベルのツアー(旧第三小学校)、CLEMOMOによる粘土群イサマムラ(旧伊参小学校)などが印象に残った。また今回はいつもより長期滞在組が少なかったり、海外組はオンラインの設営になったりしたとはいえ、「PARAPERCEPTION 知覚の向こうから」というコロナ禍を逆手にとったテーマを設定したことも興味深い。


西島雄志 作品展示風景



中村岳 作品展示風景



鳥越義弘 作品展示風景



三梨伸 作品展示風景



宮嵜浩 作品展示風景



旧第三小学校



旧伊参小学校


その後、2021年4月にリニューアルした原美術館ARCを青野和子館長の案内でまわった。ここは久しぶりの再訪だったが、山と自然に囲まれており、晴れた日にとても気持ちが良い建築である。増築された觀海庵へのアプローチから眺める風景も素晴らしい。また分棟型の展示室が、それぞれ外部と直接につながる開放的な空間は、磯崎新にはめずらしいデザインかもしれない。1988年の開館時から存在するピラミッド型屋根をもつギャラリーAは、現代アートの大型の作品も通用する空間である。磯崎新アトリエ出身の吉野弘の設計により、品川の原美術館から部屋ごと移設した奈良美智や森村泰昌のインスタレーションも、ギャラリーBやトイレの横などの新しい場所にぴたっと入っていた。ほかにも館の内外には、草間彌生、束芋、イ・ブル、オラファー・エリアソン、ジャン=ミシェル・オトニエル、鈴木康広などの作品が組み込まれ、常設で彼らの作品を楽しむことができる。また吹き抜けの開架式収蔵庫では、キリンアートアワード2003の展覧会で筆者が担当した名和晃平の初期作品と思いがけず再会した。


原美術館ARC



觀海庵へのアプローチ



ギャラリーA 奈良美智 展示風景


中之条ビエンナーレ2021

会期: 2021年10月15日(金)〜11月14日(日)
会場:群馬県中之条町 町内各所

2021/10/03(日)(五十嵐太郎)

クリエイティブアイランド中之島、大阪中之島美術館

[大阪府]

クリエイティブアイランド中之島の国際ミーティング「都市のアーカイブ──その実践と創造的活用」のイベントに登壇した。最初にシカゴ美術館のアーカイブ・ディレクター、ナサニエル・パークスとフランクフルトのドイツ建築博物館のアーカイブ部長、カチャ・ライスカウによるレクチャーの収録映像が流されたが、前者は建築家のダニエル・バーナムも創設に関与しており、近現代の建築を誇りにする街ならではの活動、後者は図面だけでなく、模型も積極的に収集しつつ、今後のデジタル・データの課題を紹介していた。ちなみに、シカゴはニューヨークに先駆けて、世界で最初の高層ビルの近代都市を実現し、現在はそうしたレガシーを活用しつつ、シカゴ建築ビエンナーレや日常的にさまざまな建築ツアーなどを開催し、シカゴ美術館では建築展も企画されている。もちろん、日本でもようやく国立近現代建築資料館が登場したが、都市との連携はなく、立体物は収集しておらず、まだ十分とは言えない。

来年2月に開館する大阪中之島美術館は、アーカイブを重視し、積極的に推進しつつ活用するという。そこでイベントが始まる前に、遠藤克彦が設計した美術館を見学する機会に恵まれた。外観はシンプルな黒いキューブだが、内部は一転して複雑な空間の構成である。立体的な動線が交錯する迷宮風のデザインはピラネージ、艶やかさはジャン・ヌーヴェルを想起させるだろう。また南北や東西軸に沿って、大きな開口から外の風景が見えるのも、効果的である。大都市の中心部において、ビルの内部ではなく、巨大空間をもつ独立した美術館の建築は、意外とこれまでの日本になかったはずだ。そもそもクリエイティブアイランド中之島のプロジェクトは、各種の美術館やホールなど、文化施設のネットワークをつくりながら、新しいものを生みだすことをめざしている。大阪中之島美術館はその重要な一翼を担うはずだ。

また、コロナ禍のためにしばらく入りづらかった安藤忠雄による《こども本の森 中之島》 (2020)もようやく訪問した。あわせて手前の道路が広い歩行空間になり、昔から中之島に対するプロジェクトを提案してきた彼にとって、ここに建てることの意味が大きい建築である。また日建設計による隣の《大阪市立東洋陶磁美術館》(1982)は、室内のあちこちから外の風景が見え、特殊な自然採光を試みるなど、さまざまな工夫がなされていた。陶器の美術館だからこそ可能になった展示の空間だろう。


大阪中之島美術館



《こども本の森 中之島》



《こども本の森 中之島》



《大阪市立東洋陶磁美術館》



《大阪市立東洋陶磁美術館》


クリエイティブアイランド中之島「都市のアーカイブ ― その実践と創造的活用」

開催日:2021年9月30日(日)
会場:大阪中之島美術館×アートエリアB1国際ミーティング
プレゼンテーター:ナサニエル・パークス(シカゴ美術館アーカイブ・ディレクター)、カチャ・ライスカウ(ドイツ建築博物館アーカイブ部長)
ディスカッサント:五十嵐太郎(建築史・建築批評家、東北大学大学院教授)、渡部葉子(慶應義塾大学アート・センター教授)
モデレーター:植木啓子(大阪中之島美術館学芸課長)、木ノ下智恵子(大阪大学准教授、アートエリアB1運営委員)

2021/09/30(木)〜2021/10/01(金)(五十嵐太郎)

山形のムカサリ絵馬

会期:2021/09/18~2021/12/12

天童織田の里歴史館[山形県]

山形においてムカサリ絵馬めぐりを行なう。ムカサリ絵馬とは、子供を失った親が、実現しなかった結婚式の絵を奉納する山形の風習であり、明治期から昭和にかけて興隆したものだ。靖国神社の遊就館では、特攻など、戦争で亡くなった息子のために制作された花嫁人形が数多く展示されているが、その絵画バージョンといえる。なお、花嫁人形は青森にある風習らしい。ともあれ、男女の結婚という制度を重視しているという点において、近代的な発想だろう。


永昌寺と久昌寺では、いずれも本堂の一角に掲げられていた。そして黒鳥観音と小松沢観音は、三方の内壁すべてをぎっしりと覆いつくす圧巻の風景だった。巡礼のお札も大量に貼られていたが、特に後者は天井面にもムカサリ絵馬が掲げられている。若松寺の絵馬堂には過去のものが収蔵・展示されている。


《黒鳥観音》



《小松沢観音》



《高松観音》



《若松寺》


地元の絵師によって描かれた絵の構図や内容は、ある程度様式化されているが、ひとつひとつの絵に子供を失った親の強い想いが託され、未来の花嫁/花婿が想像で加えられている。アーティストが表現として描く絵やインスタレーションではない。だが、結果的に絵とは何かを鋭く問いかける空間だった。

かつては戦没した子供のためのムカサリ絵馬が多かったが、いまも継続している場所はほとんどないようだ。若松寺は現在も受け付けており、関東や沖縄など、全国から奉納されている。また令和にもその数は増えている(時代を反映し、同性のカップルも確認できた)。ここでは下手でもいいから、家族が自ら絵を描くことを推奨しているという。もっとも、どうしても無理な場合、やはり絵師にお願いしているようだ。


ここから、天童織田の里歴史館の企画展に貸し出し中のムカサリ絵馬が2点あると知り、足を運ぶ。役所を復元した資料館の2階では、「天童の人々と信仰」展が開催されており、観音信仰、キリスト教の布教とともに、ムカサリ絵馬を紹介していた。そして東北芸術工科大学では、青山夢によるムカサリ絵馬に着想を得た絵画のシリーズと巨大なインスタレーションのプロジェクトを見学する。すなわち、現代美術にも影響を与えているのだ。


《天童織田の里歴史館》


天童の人々と信仰

会期:2021年9月18日(土)~12月12日(金)
会場:天童織田の里歴史館
(山形県天童市五日町2丁目4-8)

2021/09/24(金)(五十嵐太郎)

《秋田市文化創造館》、200年をたがやす、《秋田市立中央図書館明徳館》、ルーヴル美術館の銅版画展

会期:2021/07/01~2021/09/26

秋田市文化創造館[秋田県]

秋田県立美術館が2013年に移転新築し、解体が予定されていた旧県立美術館は、保存を望む市民の声によって、県から市に無償譲渡され、今年、秋田市文化創造館として再生した。2021年に開館した長野県立美術館の旧館は、同じ場所での建て替えなので、消えてしまったが、秋田市の旧館は新しい道を歩みはじめたのである。なお、秋田市と長野市の旧館は、いずれも日建設計が手がけ、1966年に竣工した建築であり、特徴的な屋根をもつ。



《秋田市文化創造館》



《秋田市文化創造館》


そのオープニングとして開催された服部浩之監修「200年をたがやす」の展示期間「みせる」では、生活、食、工芸など、秋田のさまざまな文化資産を掘り起こしつつ、空間設計に建築家の海法圭が入り、空間を自由に使う可能性を提示していた。かつて藤田嗣治の巨大な絵画「秋田の行事」が展示されていた壁には、同じサイズの鏡面を設置し、過去を想起させながらも現在の姿を写しだす。美術の分野で特に印象的だったのは、「農民彫刻家」として活動した皆川嘉左ヱ門である。大きく力強い木彫の作品は、吹き抜けの大空間においても圧倒的な存在感を維持していた。



皆川嘉左ヱ門の作品展示風景



1階のリサーチセンター



工芸の展示


秋田市文化創造館の横は、谷口吉生による美しい階段をもつ《秋田市立中央図書館明徳館》(1983)が建ち、また向かいでは、佐藤総合計画の設計による《あきた芸術劇場ミルハス》が建設中であり、この一帯が文化のエリアとして再編されている。


《秋田市立中央図書館明徳館》



《秋田市立中央図書館明徳館》


道路を挟んだ秋田県立美術館では、「ルーヴル美術館の銅版画展」を開催していた。あまり知られていないグラフィック・アート部門の銅版画のコレクションだが、ルイ14世の時代に始まり、現代作家のものも収集されているという。

ここでは藤田の「秋田の行事」のための展示空間が設けられているが、創造館における不在を示す鏡面を見てからはしごすると興味深い。なお、彼がこの絵を制作した当時の空間の模型に加え、常設展示するための美術館の図面が発見されたことにより、その建築模型も置かれていた。秋田県立大の研究室が制作したものだが、1938年に着工されたものの、戦争で中止になったという。驚かされたのは、そのデザインである、ガラス張りの鉄骨の屋根の展示空間だから、もし実現していれば、当時の日本としては画期的な美術館になったはずだ。

200年をたがやす / CULTIVATING SUCCESSIVE WISDOMS

会期:2021年7月1日(木)~9月26日(日)
会場:秋田市文化創造館
(秋田県秋田市千秋明徳町3-16)ほか

秋田県誕生150年記念 ルーヴル美術館の銅版画展

会期:2021年9月11日(土)~11月7日(日)
会場:秋田県立美術館
(秋田県秋田市中通1-4-2)

2021/09/22(水)(五十嵐太郎)

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《函館市北方民俗資料館》、函館市青函連絡船記念館摩周丸ほか

おそらく20年ぶり以上の函館訪問である。改めて、《旧函館区公会堂》(1910)、《函館市旧イギリス領事館》(1913)、修復中の《函館ハリストス正教会》(1860)のほか、リノベーションされた《金森赤レンガ倉庫》(1909)や《旧ホテルニューハコダテ(旧安田銀行函館支店)》(2017)など、多くの近代建築が今でも多く残りつつ、坂道が独特の風景を生みだしていることに感心させられた。



《金森赤レンガ倉庫》


個人的に印象深いのが、《函館市北方民俗資料館(旧日本銀行函館支店)》(1926)である。ここはアイヌ民族の資料を展示する施設になっているが、内部空間のあちこちに館長自ら、もしくは学芸員が手書きで細かい建築意匠の解説をしていたからだ。文体もユーモラスで、自己ツッコミなどもあるのだが、思わずじっくりと建築を観察してしまう。 これは筆者が企画した「装飾をひもとく」展と同じ精神である。もっとも、日本橋高島屋の展示室内で細部の装飾を解説し、ハンドアウトをもって館内を散歩してもらったのに対し、北方民族資料館では、トイレや壁に直接、解説するパネルを貼っており、便利なことこのうえない。展示品だけでなく、かつての日銀という建築も楽しんでもらおうという心意気を感じた。


《函館市北方民俗資料館(旧日本銀行函館支店)》


函館市北方民俗資料館の館長のコメント


さて、函館市で足を運ぼうと思っていたのが、函館市青函連絡船記念館摩周丸である。1988年まで運行した青函連絡船をそのまま博物館化したものだ。実は青森市でも、青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸を訪問し、鉄道をレールでそのまま船内に引き入れて運ぶ、車両甲板を見学して盛り上がったのだが(失われた交通テクノロジーだが、現在、ここでライブなども行なうらしい)、1954年に台風で沈没した洞爺丸事故の記憶がどのように伝えられているかも関心を抱いていた。全体では5隻が遭難し、1400名以上が犠牲になるという日本海難史上最大の事故である。もっとも、青森側にはわずかな情報があるだけで、その理由はすべて函館港で沈没や座礁したからだ。しかし、摩周丸の展示も、複数のパネルによる説明のみで決して多くはない。20世紀の一時代を築いた輝かしい歴史を振り返るのが主目的だとしても、やはりこうした負の歴史がきちんと表現されていないことに311後の伝承館と同根の問題を感じた。


青函連絡船記念館摩周丸


青函連絡船記念館摩周丸内 洞爺丸事故についての展示パネル


八甲田丸の車両甲板


八甲田丸の展示

2021/09/15(水)(五十嵐太郎)

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