2019年09月15日号
次回10月1日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018

会期:2018/07/29~2018/09/17

越後妻有里山現代美術館[キナーレ]ほか[新潟県]

    第7回となる越後妻有アートトリエンナーレのオープニングに出席する。今回の式典会場は屋外ではなく、原広司が設計した《キナーレ》の回廊を用いたおかげで、朝とはいえ、夏の暑さを回避することができた。21世紀の日本の芸術祭における建築と美術の境界を下げることに大きく貢献したのは、間違いなく、越後妻有の功績だが、2018年も建築的な見所が用意されている。まず、キナーレは、レアンドロ・エルリッヒによる錯視を利用した《Palimpsest: 空の池》を囲むように、企画展「方丈記私記」の四畳半パヴィリオンが並ぶ。例えば、建築系では、箸を束ねた《そば処 割過亭》(小川次郎)、人力で家型が上下する《伸び家》(dot architects)、《十日町 ひと夏の設計事務所》(伊東豊雄)、デジタル加工したダンボールによるコーヒースタンド(藤村龍至)、メッシュによる方丈(ドミニク・ペロー)、公衆サウナ(カサグランデ・ラボラトリー)である。極小空間としての庵そのものは、もうめずらしくないテーマだが、今後これらが町に移植され、活性化をはかるという。

清津峡渓谷トンネルに設置された中国のマ・ヤンソン/MADアーキテクツの《ペリスコープ》と《ライトケーブ》は傑作だった。前者は上部の鏡から外部の自然環境を映し込む足湯、後者は見晴らし所にアクセスするトンネルを潜水艦に見立てたリノベーションである。全長750mの巨大な土木空間ゆえに、照明、什器、トイレ、水盤鏡など、わずかに手を加えただけだが、まるでこの作品のためにトンネルがつくられたかのように思えるのが興味深い。そして何よりも涼しいことがありがたい。そしてトリエンナーレの作品ではないが、十日町では青木淳による新作が登場した。地元と交流しながら、設計を進めたプロセスでも注目された《十日町市市民交流センター「分じろう」》と《十日町市市民活動センター「十じろう」》である。リノベーションとはいえ、外観はあえて明快な顔をつくらない感じが彼らしい。その代わりに「十じろう」では、マーケット広場という半公共的な空間をもうける。ゆるさをもつデザイン、自動ドアでない引き戸、青木が寄贈した本などが印象に残った。

越後妻有里山現代美術館[キナーレ]の内部


小川次郎《そば処 割過亭》


マ・ヤンソン/MADアーキテクツ《ライトケーブ》


青木淳《十日町市市民交流センター「分じろう」》

2018/07/29(日)(五十嵐太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00045470.json s 10149088

『未来のミライ』

[全国]

細田守監督の『未来のミライ』は、ネット上の評判をチェックすると、家族のホームビデオを見せられているようだなど、あまり芳しくないが、本来、アニメで表現しづらい、派手さに欠けた家族の日常を細やかに描いた点で、実験的な作品だ。例えば、彼の過去作『サマーウォーズ』(2009)における親戚の集まりのシーンもそうだったが、実写ならば簡単に撮影できることも、逆にアニメは難しいのである。ただ、アニメならではの派手なアクションを期待するファンにとっては、退屈になるかもしれない。テーマとしては、『おおかみこどもの雨と雪』(2012)や『バケモノの子』(2015)でも子供の学びと成長を描いていたが、本作はこれを受け継ぎながら、さらに主人公の年齢を4歳にまで下げたこと、また日常的な住空間を舞台として、ファミリーヒストリーの系譜と現在の偶然性も加味したことが特筆されるだろう。

さて、建築の視点からは、主人公の両親が独立したばかりの建築家と編集者の夫婦であること、また遠くにみなとみらいのランドマークタワーが見える冒頭の俯瞰シーンが提示するように、父の設計により家を建て替えたことが興味深い。したがって、おそらくひな壇造成をよしとせず、傾斜地に対し、何段階にも各部屋のレベル差を設け、あいだに中庭を挟む、独特な構成をもつ。また父の作業机の後にある本棚には、ザハ・ハディド、清家清、バウハウスの作品集のほか、『人工楽園』などの書籍の背表紙が見える。実際は谷尻誠に住宅の設計を依頼したものだが、行動範囲が狭い子供にとっては、幼稚園以外で過ごす大きな世界である。と同時に、のび太の家の2階の窓や机の引き出しのように、住宅の中庭と樹が、時空ファンタジーへの入り口として機能していた。未来の妹ミライと出会うのも、まさにここである。そうした印象的な舞台が、建築家によってデザインされていた。

2018/07/25(水)(五十嵐太郎)

MONSTER Exhibition 2018

会期:2018/07/21~2018/07/25

渋谷ヒカリエ8/COURT[東京都]

渋谷のヒカリエにて、毎年恒例の「MONSTER Exhibition 2018」のオープニングに足を運んだ。筆者は公募の審査を担当しているが、今年は62組の作品が展示され、クオリティが高い技巧派も増え、賑やかな会場だった。なお、ほかの公募に比べると、怪獣を共通テーマとしながらも、アートとデザインが混ざっていることが大きな特徴である。建築家を含むユニットも2組入選していた。怪獣の足跡にどのような風景を生まれるかを模型で表現したirikichi.と、都市の皮膜をコロコロ(粘着クリーナー)で採取する加治茉侑子/佐藤康平である。いずれもアイデアは面白いが、アート作品そのものが並ぶ会場に置かれると、展示物としてはやや弱かった。一次審査のとき、黄色マニアのイラストレーター、kyo→koはかなりインパクトをもっていたが、会場のドローイングは思いの外おとなしく(作家のほうが強烈)、もっと大きなサイズで徹底的に黄色を使っていれば、良かったかもしれない。

やはり建築だけでなく、写真やイラスト系では、実空間における展示で見ると、アート比べて弱さが生じてしまう。さて、一般を含む投票で決まる最優秀賞は、サイコロ・アートの高島亮三だった。これはコンセプチュアルな作品だが、大量の本物のサイコロを使うことで、モノとしての強度も兼ね備えていた。今回、会場を4周して、個人的に強い印象を受けたのが、おねしょの記憶を引きずる川平遼佑のパンツ絵画であり、作家の切実さを感じる作品だった。懇親会でも、各作家の講評は続いた。昨年は凄いドラゴン女子(中日ではなく、竜が大好き)に感心させられたが、今年は1年かけて国立の銭湯の軒先の生きた木の幹に直接、高さ7mの仏像を彫った仏師、西除暗の作品に驚く。今回の出品作ではなかったので、写真を見せてもらうと、仏像の頭の上から木が生えているようだ。美大卒でないが、あるとき仏像に開眼し、彫るようになったという。現代の円空である。こうした思わぬ逸材に出会えるのが、MONSTER Exhibitionの楽しみだ。

会場風景


高島亮三


川平遼佑(左)、西除暗(右)


2018/07/20(金)(五十嵐太郎)

《真鶴出版2号店》

[神奈川県]

tomito architectureが設計した《真鶴出版2号店》が竣工したばかりだったことを思い出し、下田からの帰路の途中、立ち寄ることになった。駅から歩いて10分弱、通りから外れた狭いせと道の奥にあるすでに増改築されていた古い家屋をリノベーションしたものである。プログラムは宿とキオスク。2部屋だけの小さな宿だが(旧玄関から入ってすぐの部屋と、斜めの平面をうまく処理した2階の部屋)、逆に壁を外してスケルトン状にした1階中央の共有スペースは広い。空間の考え方としては、横浜で見学したばかりのtomito architecture による《CASACO》にも近い。レクチャーで模型やドローイングを見せてもらったときは、せと道からのシークエンスを重視していることや、周辺の植栽が目立つことなどが印象的だったが、やはり風景のなかに溶け込む建築である。したがって、最初は道に迷ったせいもあるが、外観はあまり手を加えておらず、すぐにどれが彼らの作品なのか、正直わからなかった。ちなみに、はす向かいには施主が暮らす住宅がある。

具体的な建築の介入としては、以下の通り。まず、通り側にあった入口を変えている。すなわち、塀を外し、壁面を後退させ(既存家屋の増改築で生じていた不自然な屈曲も修正)、魅力的な外構や土間をつくり、脇から入るようにしたこと。その際、近くにあった郵便局が2階部分を減築することから、ガラスをもらい、住宅としては大きな窓を設けた。新しいエントラスは、真鶴独自の風景を形成する石垣が面しており、傾斜する地形を受け止めるような関係性を創出している。これは建築をモニュメントとして突出させるのではなく、細やかな観察によって周辺環境と接続しつつ、訪問者を内部に引き込む空間改造と言えるだろう。住宅が環境に寄り添うようなリノベーションである。また真鶴はまちづくりのために定めた「美の条例」でも知られているが、これも参考にしたという。あらゆる細部に地域の物語がぎゅっと凝縮されているような建築である。

せと道、左手が《真鶴出版2号店》(右手が1号店)


共有スペース


塀の切り取りと壁の後退


大きな開口(左)、土間と階段(右)


外構


2階の部屋


2018/07/14(土)(五十嵐太郎)

THE ROYAL EXPRESS、《下田プリンスホテル》、《ベイ・ステージ下田》

[静岡県]

お昼に横浜駅を出発する伊豆観光列車「THE ROYAL EXPRESS」に乗車した。水戸岡鋭治がデザインを担当し、浅いアーチの格天井は皇室用客車をイメージしたものだろう。最後尾の読書室、コンサートのための車両、厨房だけがある車両、子供の遊び場がある車両など、各種の空間をリニアに繋ぐのは、列車ならではの構成だ。もっとも、エクスプレスという名前をつけているが、実際は速く到着することはあまり重要ではなく、むしろ3時間かけて下田に向かい、昼食、眺望、演奏を楽しむのがクルーズ・トレインの醍醐味だ。

リノベーションの関係で、下田は十数年前に何度か通っていたが、保存運動していた「南豆製氷所」が解体されてからは初めての訪問である。製氷所跡は今風の飲食施設《ナンズ・ヴィレッジ》に変化していた。しかし、なまこ壁以外の地域アイデンティティとなりうる建築だから、やはり残せばよかったと思う。山中新太郎が手がけた蔵ギャラリーを備えた旧澤村邸の改修(観光交流施設)、ペリーロードなどを散策してから、《下田プリンスホテル》に泊まる。45年前の建築なので、客室のインテリアは現代風に改装されているが、エレベータのコアや海を望むレストランほか、円筒のヴォリュームをあちこちに散りばめ、曲線好きの黒川紀章らしさを十分堪能できる。全体としては、海に向かってV字に開き、雁行配置された全客室がすべてオーシャンビューの明快な構成をもつ。

翌朝はシーラカンスK&Hによる《ベイ・ステージ下田》を見学した。物産館、飲食施設、駐車場、史料編纂室、会議場、最上階の博物館などが複合した道の駅である。道路側からは浮遊するガラスのボリュームが船のように見え、反対側のファサードは縦のルーバーが目立ち、オープン・デッキから海を望む。なお、博物館の展示デザインは、空間の形式性が明快で興味深いが、情報量がやや少ないような印象を受けた。

THE ROYAL EXPRESS 読書室


《ナンズ・ヴィレッジ》


旧澤村邸の改修(観光交流施設)


《下田プリンスホテル》円筒のヴォリューム


《下田プリンスホテル》雁行配置された客室


《ベイ・ステージ下田》道路側から見るガラスのボリューム


《ベイ・ステージ下田》オープン・デッキ


2018/07/14(土)(五十嵐太郎)

文字の大きさ