2020年07月01日号
次回7月15日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

オックスフォードの博物館

[イギリス、オックスフォード]

カレッジが分散する街、オックスフォードに移動し、アシュモレアン博物館へ。外観の意匠はクラシックだが、内部は現代的な展示空間に改造され、特に吹抜けまわりの階段が印象的だ。古今東西の充実したコレクションを揃え、大学の運営とは思えない規模である。日本セクションでは、大英博物館と同様、茶室が再現されていた。もっとも、内部に入ることはできず、茶室の窓が面白いという視点はない。ここも現代アートの企画室があり、美術は同時代の家具や食器などと併せて展示されている。また地階では、コレクションの来歴や博物館の学芸員の仕事も紹介されていた。



アシュモレアン博物館の外観



アシュモレアン博物館の地階では、コレクションの来歴が解説されていた


ジョン・ラスキンが関わった自然史博物館は、ゴシック建築的な骨格をスチールに置き換え、屋根をガラス張りとし、太陽の光が降りそそぐ明るい空間である。興味深いのは、そのデザインが内部で展示された恐竜の骨と呼応していること。大型の陳列ケースも、ゴシック様式を意識したデザインだった。またラスキン生誕200周年ということで、コレクションをもとにしたアート作品の公募結果を発表していた。それにしても自然史博物館は、どこも子供で賑わっている。

背後で直接的に連結されたピット・リバース博物館は、一転して暗い空間である。収蔵庫がそのまま展示になったかのような圧倒的な物量が視界に飛び込む。地域や時代で整理せず、マスク、球技など、アイテムごとに世界各地からの収集物が押し込まれた陳列ケースが膨大に反復されている。おおむね2階は女性と子供(装身具や玩具など)、3階は男性(武器など)に関連した内容だった。



自然史博物館の外観



自然史博物館の内部。ゴシック建築的なスチールの骨格が恐竜の骨と呼応している


やはり大学に所属する科学史博物館は、アッシュモレアン博物館の創設時からあるものらしく、17世紀の建築である。全体はそれほどのヴォリュームではないが、特に2階に陳列された時間や空間の計測、計算、あるいは天体やミクロの観察のための器具の造形に惚れ惚れとする。科学の目的に応じて設計された機能主義のはずだが、独自の美学を備え、実際はそれを超えたデザインになっている。


科学史博物館の展示風景より。計測器具の造形美に惚れ惚れする


公式サイト:
アシュモレアン博物館 https://www.ashmolean.org/
オックスフォード大学自然史博物館 https://www.oumnh.ox.ac.uk/
ピット・リバース博物館 https://www.prm.ox.ac.uk/
オックスフォード科学史博物館 https://www.hsm.ox.ac.uk/

2019/09/13(金)(五十嵐太郎)

ケンブリッジの大学博物館ほか

[イギリス、ケンブリッジ]

およそ四半世紀ぶり、3度目のケンブリッジでは、大学が運営するいくつかのミュージアムに足を運んだ。まずフィッツウィリアム博物館は、狭い通りと対面の小店舗に対し、完全にスケールアウトした古典主義の建築である。しかも、左右のウィングが非対称で、イギリスらしいデザインだ。およそ1/3くらいのエリアが改装中である。日に焼けて亡霊化した壁のかつての作品跡と、現在の展示がズレつつ重なる中世のエリアが味わい深い。韓国の陶芸を収納する什器のほのかな照明が美しい。



フィッツウィリアム博物館の外観



フィッツウィリアム博物館における中世美術の展示風景



フィッツウィリアム博物館における韓国陶芸の展示風景


考古学・人類学博物館は、1階の導入と企画では、異なる時代の遺跡を複数のガラスを重ねることで見せるなど、展示インスタレーションがすぐれている。一方、2、3階は古い什器のままだが、一部に見える収蔵庫(場所が足りなかっただけかもしれないが)や、展示物に触発されたアートのコーナーがあった。印象的な三連の円窓を潰していることから推測すると、この建築は途中で使い方が変化したのだろう。


考古学・人類学博物館の展示風景

ケンブリッジ大学の動物学博物館の天井から吊るされた巨大なクジラ標本はお約束である。学術以外では、アーティストが動物進化に着想を得た作品展も開催されていた。セジウィック地球科学博物館は、展示物や什器が古いタイプのものだったが、サイン計画のデザインはアップデートされており、各セクションが色とアイコンで区分けされ、さらに窓をふさぐカーテンに大きくプリントされることで、空間の視認性を改善していた。



動物学博物館のクジラ標本



セジウィック地球科学博物館の展示風景

素晴らしかったのは、ケトルズ・ヤードである。これは入口からは小さな部屋しか見えないのだが、上階に行くと、思いがけない空間が広がるように、増改築を重ねたアート・コレクターの家を大学に寄贈したもので、建築のデザインだけでは決して到達できない魅力的な空間が出現していた。すなわち、ホワイトキューブではない室内に作品群を見事に配置する施主のセンスに圧倒された。



ケトルズ・ヤードの展示風景


住宅と連結された新しく建設されたギャラリーも、大学のコレクションからアートと工芸を混ぜた企画や、ジェニファー・リーの洗練された陶芸のインスタレーションなどを楽しめる。最後に大学のボタニカル・ガーデンを訪れたが、意外と普通の公園風であり、イギリスに導入された海外の植物を時系列で並べたエリアが印象に残った。



ジェニファー・リーの陶芸インスタレーション



ボタニカル・ガーデンの展示サイン


公式サイト: フィッツウィリアム博物館 http://www.fitzmuseum.cam.ac.uk/
ケンブリッジ大学考古学・人類学博物館 http://maa.cam.ac.uk/
ケンブリッジ大学動物学博物館 https://www.museum.zoo.cam.ac.uk/
セジウィック地球科学博物館 http://www.sedgwickmuseum.org/
ケトルズ・ヤード https://www.kettlesyard.co.uk/
ボタニカル・ガーデン https://www.botanic.cam.ac.uk/

2019/09/12(木)(五十嵐太郎)

北帝国戦争博物館、マンチェスター博物館、ウィットワース美術館

[イギリス、マンチェスター]

博物館を調査するプロジェクトのために、イギリスに渡航した。マンチェスターにて、念願のダニエル・リベスキンドが設計した北帝国戦争博物館を訪問した。ウォーターフロントに位置し、独特の外観ゆえに、水辺のランドマークとして機能している。もっとも、地球を表象する球体を立体的に分割し、それらの断片を再構成するという思弁的な形態操作による外観は張りぼて気味で、内部の空間との関係も薄く、微妙である。とはいえ、展示のデザインは結果的に彼らしいユニークな場となっていた。すなわち、全体的に斜めに傾いた不安定な床、天井は高いがひどく狭い通路、そして大空間に林立する鋭角的なヴォリューム群(それぞれの内部はテーマ展示室)である。おそらく展示として使いづらいという批判もあるだろうが、それがもたらす異様な空間体験は、戦争という展示物との相性もよい。



北帝国戦争博物館の外観



ダニエル・リベスキンド設計、北帝国戦争博物館の展示風景


マンチェスター大学の博物館は、メイン・エントランスのリノベーションにあわせ、アジアのコレクションなどのエリアは閉鎖中だった。したがって、自然史のエリアのみを鑑賞する。それほどコレクションは多くないが、独自のテーマの設定やメタ的な視点が導入されており、興味深い。またイギリスのインド抑圧をテーマにした現代アートの巨大絵画や、パンジャブの虐殺の歴史展示もあった。あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」を電凸と脅迫で閉鎖に追い込むような日本なら、間違いなく自虐的な内容として炎上するだろう。さすがにイギリスは大人の国に成熟している。


マンチェスター大学の博物館



イギリスのインド抑圧に関する歴史展示。マンチェスター大学の博物館より


続いて、マンチェスター大学のウィットワース美術館を訪れた。古典主義の建築を増築したものである。巨匠のセザンヌの企画を除くと、壁紙デザイン、イスラムの女性アーティスト、アンデスのテキスタイルなど、切り口がユニークだった。そしてガーナのイブラヒム・マハマによる二等車の椅子を議会風に並べた大型のインスタレーションが力強い。この美術館は公園に面しており、立地の良さを生かした、緑に包まれたガラス張りのカフェ空間も良かった。


古典主義建築を増築したウィットワース美術館



ガーナのイブラヒム・マハマによるインスタレーション



ウィットワース美術館内にある、緑に包まれたガラス張りのカフェ

公式サイト:
北帝国戦争博物館 http://www.iwm.org.uk/north/
マンチェスター博物館 https://www.museum.manchester.ac.uk/
ウィットワース美術館 https://www.whitworth.manchester.ac.uk/

2019/09/11(水)(五十嵐太郎)

2019ソウル都市建築ビエンナーレ

会期:2019/09/07~2019/11/10

東大門デザインプラザ(DDP)、敦義門博物館村、ソウル都市建築展示館、ソウル歴史博物館[韓国、ソウル]

社会から疎外された弱者のために構想する「Shelter for soul」のコンペの二次審査のため、ソウルを訪れた。1/1のリアル・スケールで、実際に屋外で制作されたファイナリストの15組の審査の途中から台風が激しくなり、夕方から撤去されることになった。したがって、残念なことに、翌日の表彰式は作品がない状態となり、台風が完全に過ぎてから、再度、設置されたらしい。



「Shelter for soul」の表彰式の風景

ちょうど第2回目の2019ソウル都市建築ビエンナーレがスタートするタイミングであり、そちらのオープニングに足を運んだ。市長が建築に力を入れており、2017年に開始したものだが、実は前回も見学する機会に恵まれた。前回と同様、ザハ・ハディドが設計した東大門デザインプラザ(DDP)がテーマ展示を行なうメイン会場であり、近現代の街区をまるごと保存した敦義門博物館村も都市建築を展示するサブの会場となっている。また新しく会場に加わったのは、今年の春にオープンしたソウル都市建築展示館と、ライブ・プロジェクトを行なうソウル歴史博物館だ。そして全体のテーマは「コレクティヴ・シティ」である。

全体のヴォリューム感は、前回に比べると、やや減っているように思われた。なぜなら、東大門デザインプラザのスロープは映像やパネルの展示が多く、立体的なインスタレーションがあまりなかったからである。また展示室内も、前回はぎゅうぎゅうに各都市の展示を並べていたのに対し、今回はかなり空間に余裕があった。



*メイン会場・東大門デザインプラザのスロープの様子



アトリエ・ワンの展示風景


展示物として印象に残ったのは、メイン会場では中国の農村における現代建築プロジェクト群やワークショップ、ダッカの雑貨屋を再現したインスタレーション、歴史博物館ではソウルの市場の歴史、博物館村ではヴェネズエラのモールが避難所や監獄に転用された二重螺旋の巨大構築物、展示館では再現された北朝鮮のスーパーマーケットなどである。



DDPにおける、中国の農村における現代建築プロジェクト群



DDPにおける、ダッカの雑貨屋を再現したインスタレーション



ソウル歴史博物館における、ソウルの市場の歴史の展示



敦義門博物館村における、ヴェネズエラのモールが監獄に転用された巨大構築物の模型



ソウル都市建築展示館における、北朝鮮のスーパーマーケットの再現展示


前回も平壌のマンションのインテリアを再現した展示がインパクトを与えたが、今回も北朝鮮が目を引いた。ともあれ、市がこうした建築や都市をテーマにしたビエンナーレを継続していることは、東京では考えにくいイヴェントであり、とても羨ましい。

公式サイト:http://www.seoulbiennale.org/2019/

2019/09/07(土)(五十嵐太郎)

近つ飛鳥博物館、狭山池博物館

[大阪府]

関西方面へのゼミ合宿で、安藤忠雄設計の博物館を2つ再訪した。近つ飛鳥博物館(1994)と狭山池博物館(2001)である。前者は大阪芸大の濃密な塚本英世記念館を見た直後だったので、同じコンクリートの建築でもだいぶあっさりして見えたが、安藤忠雄の本領はアプローチのデザインだろう。そもそも自動車でいきなり建築に近づきにくい立地だが、登り下りがあり、道を曲がるなど、風景の変化を感じながら、ようやくその姿が立ち現われる。また途中で小さなパヴィリオンが出迎えるが、その上の小さな円塔が、遠くに見える本体の大きな直方体の塔と呼応している。すなわち、自然の風景の中で幾何学的な構造体が対話しているのだ。この建築が内部で紹介する古墳も、いわば自然における大きな人工物=幾何学として存在している。展示デザインは、テーマが古墳文化なので難しいところだが、巨大な古墳模型は圧巻だ。また傾斜した屋根が、まるごと大階段になっており、壮観である。その造形は、ゴダールの映画にも登場したマラパルテ邸の系譜だが、はるかに拡大したスケールで展開されている。



近つ飛鳥博物館に向かう道の途中から見えてくる、パヴィリオンの上の円塔



近つ飛鳥博物館本体の直方体の塔



近つ飛鳥博物館内部に展示されている巨大な古墳模型


もうひとつの安藤建築である狭山池博物館までタクシーで移動する際、車中からPL教団の大平和祈念塔を眺められるが、やはりニュータウンにおいては異彩を放つ。狭山池博物館は、駐車場からすぐに入ることも可能だが、遠まわりになっても、隣接するため池を見てから、計画されたアプローチをたどるのがいいだろう。屈曲しながら進むと、それまでは隠されていた大きな水庭が、突然、視界に飛び込む。しかも両側から滝のように水が落ちる。インパクトのある出会いが演出されているのだ。内部の空間も印象的である。なぜなら、北堤の断面など、巨大なスケールをもつ土木の展示物が、現代アート的なインスタレーションにも見えるからだ。これは常設の展示であり、変わることがない建築のアイデンティティになっている。そしてこれらを収める直方体のシンプルさが、外観の特徴を決定づける。秀逸なのは、内部の展示物のサイズ感が、そのまま外部のヴォリュームに反映されていること。竣工してもう20年近くたつが、古びない傑作である。



狭山池博物館の外観



狭山池博物館の巨大な水庭



狭山池博物館内の巨大な土木展示物。まるで現代アートのインスタレーションのように見える



狭山池博物館内の展示風景より


公式サイト:
近つ飛鳥博物館 http://www.chikatsu-asuka.jp/
狭山池博物館 http://www.sayamaikehaku.osakasayama.osaka.jp/_opsm/

2019/09/04(水)(五十嵐太郎)

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