artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展

会期:2014/09/06~2014/10/26

名古屋市美術館[愛知県]

巡回展なので、東京国立近代美との見せ方の違いが興味深い。例えば、中国近代美術のセクションは二階の後半に移動し、逆にリヒター、杉本博司、シュトゥルートらの作品が早めに登場する。また東京が明快に空間として各部屋を分節していたのに対し、名古屋では既存の可動間仕切りを使いながら、各セクションはゆるやかに連続していく雰囲気だった。

2014/09/14(日)(五十嵐太郎)

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「これからの写真」展、APMoAプロジェクト・アーチ

会期:2014/08/01~2014/09/28

愛知県美術館[愛知県]

メディアで騒がれただけに、鷹野隆大の裸体表現とその対処が話題になりがちだったが、他の作品も充分に興味深い。被災を題材とする新井卓や田代一倫。また鈴木崇、木村友紀、田村友一郎らは、空間や場をつくり、写真の枠組を超える試みだった。とくにモノそれ自体の高解像度の写真を1/1のスケールでモノに張りつけて、表面に対する認識の揺らぎをもたらす、加納俊輔が印象的だった。また常設のエリアでは、美術館があいちトリエンナーレ2010と2013で展示された志賀理江子の写真25点を新規購入したが、黒いフレームに入れ、これまでのインスタレーション的な見せ方とは装いを変えて展示している。APMoAプロジェクトでは、末永史尚が県美の作品をもとに、額縁までを含めた絵画(しかし、絵の中身は表現せず)を制作する。大塚国際美術館の額縁効果を思いだし、ニヤリとさせられる。


鈴木崇《BAU group》展示風景

2014/09/14(日)(五十嵐太郎)

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Under 35 Architects exhibition 2014

会期:2014/09/04~2014/10/04

ITM棟10階大阪デザイン振興プラザギャラリー[大阪府]

大阪ATCのU-35(「Under 35 Architects exhibition 2014 35歳以下の新人建築家7組による建築展覧会」)展へ。平沼孝啓が企画に関わり、これで5回目になるが、今年からU-30を35に引き上げ、石上純也が審査員をつとめて、7組を選ぶ。年上になった分、最初の実施プロジェクトが増え、やや堅実な案が増えたが、なかでも海外組のプレゼンがユニークだった。筆者が司会を担当したシンポジウムでは、五十嵐淳をはじめとする年長組からのダメだしよりも、20代のときから知り合いだった藤本壮介×平田晃久のトークが白熱する。今回参加したU-35のメンバーたちも、将来こういう関係になるといいだろう。


細海拓也の展示風景

2014/09/13(土)(五十嵐太郎)

2014年度日本建築学会大会[近畿]

会期:2014/09/12~2014/09/14

神戸大学国際文化学部(鶴甲第1キャンパス)ほか[兵庫県]

建築学会の大会で、神戸大学に訪れる。今年は研究室から6名が発表した。また学生コンペで、1名が公開審査に進む。空き時間に、坂を上りながら、神戸大学の《本館》(文部省営繕設計/1932)、《講堂》(文部省営繕設計/1935)、《図書館》(文部省営繕設計/1933)、《兼松記念館》(文部省営繕設計/1934)、《武道館》(文部省営繕設計/1935)を見学した。1930年代の建築がよく残り、周辺の現代建築も、当時の外壁のテイストをあわせている。これだけ建築関係者が全国から集まりながら、意外にここを見る人がいないことは気になった。

学会の後、学生とともに、久しぶりに大阪の中崎町へ。山崎亮に連れていってもらい、初めてこの場所を訪れ、アジアならともかく、日本でもこんな場所が成立するのかと感心したのが、10年くらい前だったと思う。住宅地とリノベーションによる小さな店舗が混在し、独特のコミュニティをつくる界隈である。以前から減ったお店もあるし、増えたお店もあり、やはり変化しているようだ。

上:神戸大学講堂 下:図書館

2014/09/12(金)(五十嵐太郎)

東北大学五十嵐研究室ゼミ旅行(2日目)

会期:2014/09/10~2014/09/11

[兵庫県]

まわりが何も見えない夜に着いたため、朝起きて初めて、《TOTOシーウインド淡路》から海の絶景を堪能する。そして海に向かうプールやテラス(これを眺めながら朝食をとる)。ロビーでは、お得意の大階段と大本棚が出迎える。安藤のドローイングが飾られた各部屋も広く、ベネッセハウスに近い経験を味わえるが、ここは割安な感じで楽しめるので、ここのホテルはおすすめである。
久しぶりに訪れた大塚国際美術館(徳島県鳴門市/1998年3月開館)にて、約3時間の名画鑑賞を行う。世界の有名美術館のコレクションを集めたベスト・オブ・ベストである。すべて複製の陶板画とはいえ、額縁付きで1/1のスケールで展示され、システィナ礼拝堂の天井画など、モノによっては空間ごと再現しているのが良い。小さく縮小された本の図版ではわからない細部も確認できるからだ。今回、研究室では美術と建築の本に関わるので、美術史のおさらいするために訪れた。ところで、国際美術館の向かいに、琵琶湖ホテルとよく似た大塚製薬の迎賓館がある。これも1930年代の国策による国際観光ホテルかと思いきや、職員にたずねると、1980年代頃につくったという。そうだとすれば、建築もコピーである。
遠藤秀平による福良港の《淡路人形座》(2012)と《うずまる》(2010)を見学する。いずれも津波を想定した建物だ。途中、瓦の素材で一面が覆われた《甍公園》(エイトコンサルト設計/2001)に立ち寄り、畑に点在するネギ小屋、遠景で丹下健三の《戦没学徒記念若人の広場》(1967)を眺めた。福良港の水門ほか、淡路島では瓦の使用率が高いが、これらと比較すると、改めて遠藤や安藤は外観のデザインに使わない選択をしたことがわかる。ゼミ合宿の最後は、いるか設計集団が手がけた《岩屋中学校》(1993)へ。ていねいに各部屋を案内していただく。屋根が傾斜することで、どこにいても屋根を意識させる空間、瓦屋根の集落的な風景、にぎやかな装飾的な細部は、象設計集団による沖縄の建築やポストモダンの時代を想起させる。ちなみに、少子化の影響で在校生が減少し、当初に比べて、空間の使い方はいろいろ変化したという。

2014/09/11(木)(五十嵐太郎)