artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

STAND BY ME ドラえもん

映画『スタンドバイミー ドラえもん』(監督:八木竜一、山崎貴)を見る。建築模型+キャラCGの描写が生みだした独自の空間感は評価できる。新作の脚本ではなく、原作の良さを再認識させる有名なエピソードを束ねたのも悪くない。成長物語の泣きをやや強調し過ぎのところもあるが、今回の山崎監督には騙されてよいと思った。彼の実写だと鼻につくような過剰な演出や悪ふざけも、マンガだと、逆にこれくらいでちょうどいい感じである。『スタンドバイミー』のCGだが、『ドラえもん』については最初から違和感がなく、人物ははじめ少し引っかかったが、途中から気にならなくなった。が、さすがのアクション・シーンを演出したタケコプター以外、CG表現の必然性はそれほどでもない。

2014/08/13(水)(五十嵐太郎)

現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展 セゲオ財団コレクションより

会期:2014/06/20~2014/08/24

東京国立近代美術館[東京都]

台湾のヤゲオ財団コレクションからセレクトした名品で構成したものだ。展示担当の保坂健二朗のギャラリートークを聞き、税金で購入する公立美術館ではできない個人コレクションだからこそできる実験だと理解すると、さらに面白い。また会場構成が興味深い。左右対称、水平と垂直の構成、鏡面/リフレクション、手前の部屋と奥の部屋の関係、絵の見えるシークエンスなど、注意深く練られている。会場には持ち主が家や職場でどう同じ作品を飾っているかも写真で紹介しており、それと比較すると、なお楽しめる。

2014/08/13(水)(五十嵐太郎)

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ミッション[宇宙×芸術]──コスモロジーを超えて

会期:2014/06/07~2014/08/31

東京都現代美術館[東京都]

タイトル通り、宇宙開発/観測とアートが交差する内容だ。先月、改めて水族館の集客力に考えさせられたように、宇宙そのものがもつ魅力の大きさを痛感する。作家の構想するイメージやフィクションよりも、科学的に観測/考察/挑戦する現実が、圧倒的に凄いというか。もっとも、その中でも、名和晃平の作品は健闘していた。

2014/08/13(水)(五十嵐太郎)

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日本建築学会建築文化週間 学生グランプリ2014「銀茶会の茶席」第一次審査

会期:2014/08/12

建築博物館ギャラリー[東京都]

建築学会の文化週間にちなむ企画である学生グランプリ「銀茶会の茶席」第1次審査に出席した。これは学生を対象としているが、実際につくることが特徴のコンペであり、構造的なアイデアと、茶室としての機能の両方から評価されることもユニークだろう。光を透過する薄いベニアを湾曲させた壁の案、風船で覆いを浮かす案、ダンボールのヴォリュームを削る案、そしてユニットを反復する案が選ばれた。秋にはこれらがそれぞれ実現されるので、完成が楽しみである。

2014/08/12(火)(五十嵐太郎)

札幌国際芸術祭2014 3日目

会期:2014/07/19~2014/09/28

モエレ沼公園[北海道]

札幌国際芸術祭の3日目は、モエレ沼公園へ。ガラスのピラミッドに坂本龍一、武村真一らの展示を設置する。ハイクオリティの作品だが(プロジェクションでなく、小さな画面をつなぐ大画面のシステムも驚異的)、ICCを訪れたような雰囲気で、モエレ沼公園感は少し薄い。ただ、昨年時間切れで見落としたエリアを再訪するよい機会となった。




展示風景 坂本龍一+真鍋大度《センシング・ストリームズ─不可視、不可聴》、モエレ沼公園ガラスのピラミッド

市内に戻り、狸小路7丁目に隣接する《茶月斎》にて、中華のランチ。五十嵐淳がインテリアをデザインしたもの。内側からエッジのある水平連続窓を演出し、カーテンでやわらかく仕切る。ふわっとした空間のパーティションは、五十嵐淳の大阪現代演劇祭仮設劇場を思いだす。大洋ビルの他店も雰囲気がいい。


五十嵐淳《茶月斎》

残った時間は、北海道大学を散策した。農学校の建築群はあいにく保存の工事中で見学できなかったが、明治期からの近代建築が残るキャンパス、建築棟、教員食堂エルムの森、図書館前の庭などの環境がうらやましい。総合博物館、大学出版会、古河記念講堂、バイオサイエンス研究棟などの近代建築は意匠的にも興味深い。
今回、札幌の家以外は国際芸術祭のすべての会場を訪れたが、初めて見た場所はなく、ほぼ予想通りの会場だったので、美術館以外の作品展開は、もっと空間のポテンシャルを引きだせると思う。逆に無名の場所を発掘するのが、あいちトリエンナーレの街なか展開の特徴かもしれない。また札幌国際芸術祭のオフィシャル・ガイドブックは、けっこうセンスのある本で感心させられた。

2014/08/11(月)(五十嵐太郎)