artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

Under 30 Architects exhibition 2013 30歳以下の若手建築家による建築の展覧会「U- 30 記念シンポジウムII」

会期:2013/09/28

アジア太平洋トレードセンター(ATC)ITM棟 11階特設会場[大阪府]

大阪のU-30の展覧会へ。今年は岩瀬諒子、塚越智之、杉山幸一郎、植美雪、小松一平の5組が出品したが、ATCにおけるU-30記念シンポジウムは、若手建築家のプレゼンテーションの後、上の世代から叩かれるのが毎年恒例になっている。この日は谷尻誠、平沼孝啓、藤本壮介、吉村靖孝がゲストに、五十嵐が司会となって討議を行なう。全体として建築への思いが足りないことを批判されつつも、U-30組から逆に上の世代はやり過ぎなんじゃないかといろいろな切り返しがあり、一方通行にならず、双方向の議論が実現した。

2013/09/28(土)(五十嵐太郎)

あいちトリエンナーレ2013 オープンアーキテクチャー 朗読劇「ベアトリーチェ・チェンチ」

会期:2013/09/27~2013/09/28

名古屋陶磁器会館[愛知県]

名古屋陶磁器会館のオープンアーキテクチャーと、田尾下哲らの演出による朗読劇「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」が開催された。まず1932年竣工の会館を見学し、輸出用の陶磁器産業が栄えていた歴史と、戦後に入ったデザイン事務所とリノベーションについて説明が行なわれる。続いて陶磁器会館の2階を使い、父殺しで処刑されたベアトリーチェを描いたとされる一枚の絵をめぐる朗読劇がスタートした。実はこの会場に決まるまで、ほかにさまざまな近代建築の候補を訪れ、検討し、ようやく決まったのだが、最初からこの場所のために制作されたと思えるほど、空間の相性がよい演出だった。朗読劇は、画家のグイド・レーニとある訪問者の会話(1615年)のシーンと、チェンチ家の事件が起きた1596~99年の回想シーンが交互に登場しながら、物語は進行していく。照明の効果だけで劇的に空間は変わるのが印象的である。特に奥の浅いアルコーブが光のたまり場として闇に浮かぶ。第一幕は強権的な父フランチェスコと娘ベアトリーチェのただならぬ関係を軸に展開するが、第二幕はむしろグイド・レーニと訪問者の会話による物語論であり、絵画論になっていく。振り返るポーズの「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」は、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」のもとになったと言われる絵だ。しかし、処刑前に描かれた女の目がなぜ絶望ではなく、光に満ちあふれているか。朗読劇を通じて、独自の解釈がなされる。空間を使い倒し、ジャンルを越境する、あいちトリエンナーレにふさわしい、近代建築を舞台にした絵画をめぐる朗読劇の初演だった。

2013/09/27(金)(五十嵐太郎)

あいちトリエンナーレ2013 パフォーミングアーツ アルチュール・ノジシエル「L'IMAGE」

会期:2013/09/22~2013/09/23

愛知芸術劇場 小ホール[愛知県]

「L'IMAGE」を観劇した。最後まで句読点が一切ないベケットの同名短編テキストをもとに、アルチュール・ノジシエルが演出した日本初演の作品である。地を這う男による、ばらばらになった身体のごとき特殊な動き。あるいは、痙攣と震え。そして同じ場にいながら、異空間に存在するかのような朗読と音楽。本編よりも長いアフタートークが、作品の理解を深めた。実はダンサーのダミアン・ジャレは、3.11の当日、東京にいて震災に遭遇しており、その激しい揺れの体験が反映されているという。また舞台に敷きつめられた芝は、もともと本作が屋外用につくられたからで、大地と交わる震える身体の運動なのである。

2013/09/23(月)(五十嵐太郎)

高橋匡太「Glow with City Project」

会期:2013/09/21~2013/09/22

白川公園、名古屋市科学館、長者町、オアシス21、愛知芸術文化センター[愛知県]

高橋匡太のGlow with city projectに参加した。約1時間ほど市内を歩く1,000人の提灯行列だが、すべての提灯と、オアシス21、科学館のプラネタリウム、愛知芸術文化センターなどのランドマーク的な建物の色の変化が同期するものだ。高橋にとって新しい試みとなる参加型の都市プロジェクトは、前回のトリエンナーレにおける池田亮司のサーチライトによる光のスペクタクルとは違う方向性である。池田のプロジェクトは圧倒的な光の力で崇高な現象を生みだすタイプだったが、今回のものは、それ以上の強い光を求めるものではない。一つひとつはささやかな蛍のような光だが、多くの市民がそれを手にもって参加することで、都市の夜の風景を再発見するような試みだ。2日目は、ちょうど芸術文化センターの10階から、都市の光とシンクロする1,000人の提灯行列のフィナーレをずっと俯瞰できた(音楽は聴こえませんが)。行列に参加すると全体像は見えなくなるが、上から見ると、光の集合体の全容がよくわかる。

2013/09/21(土)(五十嵐太郎)

反重力 展

会期:2013/09/14~2013/12/24

豊田市美術館[愛知県]

豊田市美術館の「反重力」展が素晴らしかった。中村竜治は細いピアノ線で小さな円をつくって積み上げ、環状に並べ、大きな見えないリングを生みだし、ここでも驚異的なインスタレーションを実現している。宿命的に重力に縛られた建築側から興味深い、このテーマに即した作品群は、個人的に好みのものが多く、あいちトリエンナーレとセットで鑑賞するとより楽しめるのではないか。変動する現実を受けとめる「揺れる大地」と、ユートピア的な世界を感じさせる「反重力」は相互補完的に読みとれるだろう。

写真:上=中村竜治、下=中谷芙二子

2013/09/21(土)(五十嵐太郎)

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