artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
あいちトリエンナーレ2013 映像プログラム「短編2 若人の大地」
会期:2013/10/12
あいちトリエンナーレの映像プログラム、短編集「若人の大地」を見る。ぬQの「ニュ~東京音頭」、室谷心太郎「平成アキレス男女」、加藤秀則「あの日から村々する」など、震災後の世界を意識しつつも、笑いを伴う作品を集めたものだ。姫田真武の作品「ようこそぼくです」の音、色、強烈な自己愛はクセになりそう。夜に上映されたパールフィ・ジョルジの「ファイナル・カット」は、映画450本の引用のみで構成された作品である。恋、ケンカ、目覚め、別離、結婚、死闘など、テーマごとにお決まりの場面をつないでいく。ステレオタイプな物語として再編集された映画史である。地下二階の展示、編集と音の文法を逆利用したニコラス・プロヴォストの映像と比べて鑑賞するのも興味深い。
2013/10/12(土)(五十嵐太郎)
アーク・ノヴァ
[宮城県]
空気膜による松島のモバイルシアター、アーク・ノヴァを訪問した。最初に磯崎新の家で見せてもらったとき、本当にできるのかとも思ったが、ついに実現している。空間のねじれと穴は、造形を担当した彫刻家アニッシュ・カプーアそのものだ。濃い赤色なので、内部に入ると、大きな臓器を想起させる。現代アートの作品の内部にまぎれ込んだような、不思議な空間の体験である。地元の子どもを招いてのコンサートに立ち会ったが、音楽が鳴り響くと、まさに空間が鼓動していた。
2013/10/09(水)(五十嵐太郎)
あいちトリエンナーレ2013 パブリック・プログラム イン・ディスカッション 藤村龍至/あいちプロジェクト 第5回最終発表
藤村龍至のあいちプロジェクトのパブリック・ミーティングの最終発表を聞く。さまざまな要素をどんどん蓄積するデザインは、東工大における相対主義的な建築の流れと同時に、こうあるべきだったポストモダンを想起させる。二者択一の投票形式は、一般人へのハードルを下げ、意見やコメントを集めるツールとしてうまく機能したと言える。ただ、途中の段階で、コメントを収集するシステムとしては見事だが、最後にどこかで流れを切断する「終わり」が訪れる。そのときの投票の意味をどう位置づけるかは課題かもしれない。この日も最終的に提示された二案は、それぞれに長所と短所があり、両者の融合がベストなのだが、投票する際は、どちらかを選ぶしかない。ちなみに、藤村の会場とした中央広小路ビルは、最もアートにふさわしくない場所だ。が、彼はいわゆる空間インスタレーションをしないだろうから、ここで依頼することになった。その結果、公開された設計作業の途中、来場者が意見を交わし、投票する新しい設計事務所の場がビルの一角に出現したのである。
2013/10/06(日)(五十嵐太郎)
あいちトリエンナーレ2013 映像プログラム 土本典昭『原発切抜帖』/濱口竜介+酒井耕『なみのおと』
あいちトリエンナーレ2013の映像プログラムを2本鑑賞する。『原発切抜帖』と『なみのおと』の2本立てで、前者は原発に関する実験的な作品、後者は津波に関するドキュメンタリーであり、今回のあいちのテーマに最もダイレクトに関わりをもつ作品だった。土本典昭の『原発切抜帖』(1982)は、公式取材が拒否され、新聞記事の再構成だけで映像を成立させる作品。冒頭、1945年の原爆投下翌日の記事の扱いの小さいことにまず驚く。チェルノブイリ前の作品なので、むつやスリーマイルの話が多いが、その対応、発表、報道の迷走ぶりは現代とあまりに同じで再度驚く。『原発切抜帖』は、3.11以後にその意味が復活し(ニナ&マロアンの作品において黒澤明『生きものの記録』を現状に照らし合わせたように)、またネット時代を迎え、新聞メディアの意味を再考させる作品としても新しい意義を獲得している。ゲストトークでは正木基が、この作品を読みとく背景やほかの原爆映像などを紹介した。
濱口竜介+酒井耕『なみのおと』(2011)は、岩手の田老から福島の新地まで南下しながら被災者の語りを記録する映画。個人的に、ポスト震災のドキュメンタリーとして最も興味深い作品だった。被災地の風景映像は移動時のみで、ごくわずか。資料映像もなく、正面ショットの語りだけで、142分。しかし、『なみのおと』が退屈だと感じる瞬間はなかった。被災者の語りに耳を傾け、その表情と仕草から起きた出来事、彼らの失われたふるさとを想像させるからだ。特にかけがえのない友を失った南三陸の女性、家ごと流され九死に一生を得た東松島の夫婦、何気ない風景の思い出を愛おしく語る新地の姉妹。筆者はおそらく通常の鑑賞者とは違い、『なみのおと』に登場するすべての被災地を歩いている。例えば、田老、気仙沼、南三陸、東松島の野蒜、相馬の新地である。ゆえに、野蒜や新地を荒涼とした状態でしか見ていなかったが、彼らの記憶をめぐる語りを聞きながら、あの風景に色がつき、意味が充填していく。映像の外側にあるものを思い出していた。
2013/09/29(日)(五十嵐太郎)
あいちトリエンナーレ2013 パブリック・プログラム スポットライト「名和晃平」
名和晃平のトークの進行を担当した。いつも理系作家だなあと感心するが、今回は数式モデルで自分の作品を整理して語っている。今年は韓国、犬島、あいちで3つのビッグ・プロジェクトが続けて実現し、大きな飛躍の年になったという。今回のレクチャーでは、初めて見る学生時代のドローイングも幾つか紹介された。あいちトリエンナーレの泡のインスタレーション「foam」は、世界創造の風景を思わせる、名和作品の進化形であると同時に、実は学生時代から暖めていた着想で彼の原点でもあることがよくわかった。
2013/09/29(日)(五十嵐太郎)