artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
「第1回 未来の風景をつくる 学生実施コンペ」最終審査会
会期:2013/09/07
株式会社マミヤ[愛知県]
名古屋から赤池へ。間宮晨一千が企画した「未来の風景をつくる学生実施コンペ」の最終審査会に出席した。現在、開発中の郊外の住宅地にまとめて隣接する3棟の家のあり方を東海圏の大学の研究室が提案するというもの。審査員は、間宮、原田真宏、藤村龍至、五十嵐である。17の大学研究室が模型とドローイングを展示し、午前に巡回審査をしてから投票を行なう。これだけ票が割れないのもめずらしいくらい、ほとんど全員一致で、すんなり6作品が決まる。午後は各研究室ごとに、プレゼンテーション、質疑応答、討議を繰り返し、じっくりと時間をかけて審査をした。最後は、どの案も一長一短があり、最優秀をひとつに絞るのは難航した。審議の結果、デザインはまだこなれていないが、ロジカルな初期条件の設定があり、失点が少ないことから、最優秀は名大の脇坂研に決定する。次点は、むしろ中間講評の低層案がよかったが、庭を共有する囲み型を評価された中部大の中村研。そして五十嵐賞は、のびしろを期待して、半地下的な空間をもつ家が連なる名城大の生田研とした。審査会場は、間宮が設計した新しい事務所ビルである。内外の印象の差が大きいため、ガワだけを残して、内部を入れ替えたリノベーションにも見える。
2013/09/07(土)(五十嵐太郎)
井口健、久米建築事務所《北海道百年記念塔》(1970)/佐藤武夫設計事務所(現・佐藤総合計画)《北海道開拓記念館》(1971)
[北海道]
《北海道百年記念塔》へ。開拓事業の一環となるコンペで井口健が選ばれ、1970年に竣工したものである。高さは100mだが、都心でもなんでもないこのエリアでは、とんでもない大きさのタワーで、遠く電車で移動中の線路の上からもよく見える。森林公園の水平の広がりと一点集中の垂直が対照的だ。モエレ沼公園にも通じる日本離れしたスケール感である。続いて佐藤武夫による《北海道開拓記念館》へ。これも煉瓦貼りながら、列柱が並ぶ巨大なモニュメンタル建築だ。屋上からは、遠くに札幌ドームも見える。展示は、先史時代、アイヌ、蝦夷、開拓、酪農と工業、そして戦後の高度成長と続くが、本州とは違う視点で、北海道という特殊名場から見た「日本」近代の歴史をたどることができる。
写真:上=《北海道百年記念塔》、下=《北海道開拓記念館》
2013/09/05(木)(五十嵐太郎)
《野外博物館 北海道開拓の村》(1983)
[北海道札幌市厚別区]
北海道の近代建築を移築し、集めた野外博物館の《北海道開拓の村》を散策した。ヴァナキュラーな建築群からは強い地域性が感じられ、明治村、民家園、江戸東京たてもの園とは違う雰囲気をかもしだしている。特にいわゆる様式建築に所属しない、開拓小屋、旧平造材部飯場、炭焼小屋などは、スタイルの呪縛が一切ない分、せざるをえなかった素材や構造による造形が圧倒的にユニークだ。もうひとつの近代を目撃したような感じがする。
写真:上=開拓小屋、下=旧平造材部飯場
2013/09/05(木)(五十嵐太郎)
西村浩《岩見沢複合駅舎》(2009)
[北海道]
西村浩が設計した岩見沢の駅舎へ。デザインは思っていた以上にシャープな現代建築だった。が、何よりも駅と共同体の記憶を継承しつつ、しかもさまざまなアクティビティを誘発しながら、市民にちゃんと使われてる実態が素晴らしい。写真ではよさがすべて伝わらないが、グッドデザイン賞の大賞や日本建築学会賞(作品賞)も納得である。各地の駅舎が少しずつでもこうした空間の質を獲得すると、日本はもっと豊かになるだろう。
2013/09/05(木)(五十嵐太郎)
五十嵐研ゼミ旅行3 安藤忠雄の《水の教会》(1988)ほか
[北海道]
3日目は、灘本幸子が温室をリノベーションした《十勝ヒルズ》(2013)のエントランス施設、テクスチャーが強い存在感を放つ象設計集団による《森の交流館・十勝》(1996)と《北海道ホテル》(1995/2001)を訪れた。安藤忠雄の《水の教会》(1988)と《渡辺淳一文学館》(1998)も見学したが、前者はさすがウェディングチャペルならではの空間的な仕かけに感心した。本物の教会ならば、大きなガラス窓が横にスライドして全開する飛び道具は必要ないだろう。最後のイサム・ノグチによる《モエレ沼公園》(2005)は、ランドスケープとアートが融合したものだが、日本らしくないスケール感のデカさが圧倒的だった。なにしろ小山がつくられている。建築ではなかなかできない空間の体験だ。
写真:左上=《十勝ヒルズ》、左中=《森の交流館・十勝》、左下=《北海道ホテル》、右上=《水の教会》、右中=《渡辺淳一文学館》、右下=《モエレ沼公園》
2013/09/04(水)(五十嵐太郎)