artscapeレビュー

写楽 幻の肉筆画

2009年10月01日号

会期:2009/07/04~2009/09/06

江戸東京博物館[東京都]

ギリシア人のグレゴリオ・マノスによるコレクションを紹介する展覧会。近年発見された写楽による肉筆扇面画をはじめ、浮世絵や絵画などおよそ120点あまりが展示された。狩野派による仏画、山水画、花鳥画はもとより、美人画や役者絵などを丁寧に見ていくと、江戸時代の熟成した町人文化のありように改めて感服せざるをえない。とりわけ、歌川国貞による大判錦絵《戻橋綱逢変化》(1804-18)は、北野天満宮の屋根の上で鬼と武将が対峙するシーンを描いたものだが、画面全体に流れる漆黒のうねりが、あたかも鬼のおどろおどろしい魔力を表わしているかのようで、抜群の迫力をもたらしている。これほどの絵を見てしまうと、マンガだろうとアートだろうと、「描写」という面では、もはや江戸時代に到達点を迎えてしまったのではないかと思わずにはいられない。

2009/08/28(金)(福住廉)

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