artscapeレビュー
福住廉のレビュー/プレビュー
斎藤義重 '09複合体講義 創造と教育の交錯点─中延学園・TSA・朋優学院─
会期:2009/04/08~2009/05/16
朋優学院 T&Sギャラリー[東京都]
斎藤義重の「創造」と「教育」を同時に回顧する展覧会。高等学校内の地下のギャラリーで、斎藤義重の言葉や複合体シリーズの再制作作品、ミニチュア模型、講義などを記録した映像作品などが発表された。展示を見ていくと、斉藤義重がいかに「教育」を重視していたか、そしてそこから数々の美術家が成長していったかが理解できるが、美大教育とは異なるオルタナティヴな教育の伝統がほとんど見失われてしまったいま、その重要性を改めて痛感せざるを得ない。
2009/05/12(火)(福住廉)
日本の自画像 写真が描く戦後 1945-1964
会期:2009/05/02~2009/06/21
世田谷美術館[東京都]
1945年の敗戦から1964年の東京オリンピックまでの戦後日本を写真によって検証する展覧会。石元泰博、川田喜久治、木村伊兵衛、田沼武能、東松照明、土門拳、長野重一、奈良原一高、濱谷浩、林忠彦、細江英公、あわせて11人の写真家による168点のモノクロ写真が展示された。木村や土門、長野などのジャーナリスティックな傾向と、川田や東松、細江のような美学的な傾向が混在することで、戦後日本の歴史の厚みが表現されていたように思う(ただし、写真家はいずれも男性である)。なかでも衝撃的だったのが、田沼武能の《紐で電柱につながれた靴磨きの子ども》。敗戦後の銀座で犬のように電柱に縛りつけられた子どもは、とても「子ども」とは思えない、生きることに貪欲な労働者の眼をしている。
2009/05/12(火)(福住廉)
ツェ・スーメイ
会期:2009/02/07~2009/05/10
水戸芸術館現代美術センター[茨城県]
ルクセンブルク出身の新進気鋭のアーティスト、ツェ・スーメイの個展。広くは音楽と美術をテーマにしているらしいが、全体的には一発ネタをコンセプチュアルに装ったような作品が多く、その細かいネタが立て続けに連続するから、飽き飽きしてくる。ただし、群青色のインクを循環させる噴水の作品だけはそれなりに見応えがあった。
2009/05/09(土)(福住廉)
『ダブル・テイク』
会期:2009/04/28~2009/05/06
パークタワーホール[東京都]
「イメージ・フォーラム・フェスティバル2009」で公開されたヨハン・グリモンプレの映像作品。アルフレッド・ヒッチコックのそっくりさんをモチーフにして、米ソの冷戦の歴史を振り返る構成だった。これまでの作品と同様、スピード感のある編集が見事だったが、全体の尺が長すぎるせいか、あるいは展開にメリハリがつけられていないせいか、次第に食傷気味になった。
2009/05/06(水)(福住廉)
幻惑の板橋 近世編
会期:2009/04/04~2009/05/10
板橋区立美術館[東京都]
同館の所蔵作品から近世の美術を見せる展覧会。中身は常設展と大差ないとはいえ、見せ方を工夫しているため、けっこうな見応えがあった。畳を敷き詰めたお座敷に上がると、いくつもの屏風が立っており、来場者は腰を下ろした視点から間近で鑑賞できる。ガラスケース越しに見上げる屏風とはまた一味ちがった趣だ。また二つの展示室には、それぞれ狩野派と民間絵師による作品が分けて展示されているから、双方の質的なちがいを見比べることができた。なかでも、お経の文字だけで坊主を描いた加藤信清の《五百羅漢図》(1791年)が圧巻。輪郭はもちろん、色面まですべて文字で構成されている。果てしない執念とアホクサさが表裏一体であることを如実に物語っていた。
2009/05/03(日)(福住廉)