artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

対話する美術/前衛の関西

会期:2012/06/09~2012/07/29

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

同館の開館40周年を記念した展覧会。過去に企画展などを通じて収集した、戦後関西の現代美術作家17組を紹介している。会場構成は、最初に「カンヴァス上の格闘」と題して、須田剋太、津高和一、元永定正、白髪一雄らを紹介し、次からは、「物質と時間」(山口牧生×藤本由紀夫)、「世界を映す」(森口宏一×植松奎二)、「見えないもの」(石原友明×パラモデル)といった具合に、1室ごとに2作家が対峙するかたちを取っていた。作家や作品の数を増やそうと思えばできるものを、あえて作品数を抑えて贅沢な空間づくりに徹したのが素晴らしい。規模は決して大きくないが、最近美術館で見た展覧会のなかでも記憶に残るもののひとつである。

2012/06/09(土)(小吹隆文)

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加藤智大 個展「LIFe IS STEEL FULL!」

会期:2012/05/25~2012/06/16

TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]

首都圏を拠点に活動している加藤の関西初個展。これまでの作品は、キャンバスの代わりに鉄板を木枠に張った絵画や、日用品を鉄で細部まで精巧に模倣した立体などが知られている。本展では鉄製の茶室が発表された。建屋はもちろん、茶碗、茶筅、茶釜、掛軸、一輪挿しなどすべてが鉄製で、その徹底ぶりには驚くばかり。しかし、そのたたずまいは決してエキセントリックではなく、むしろシックで茶道の美意識にも叶っているように思われる。重量が気になるが、移動茶室として用いれば面白がる茶人もいるのではなかろうか。

2012/06/07(木)(小吹隆文)

花岡伸宏「回帰:recurrence」

会期:2012/06/02~2012/06/17

Gallery PARC[京都府]

まるで無関係なモチーフや素材を合体させた彫刻作品で、常識が通用しない“意味の真空地帯”を味わわせてくれる花岡伸宏。本展では、新作3点と近作6点が展示され、近年の彼の志向がうかがえる構成となっていた。花岡の以前の作品には、人物像の肩が脱臼していたり、円筒形のご飯の塊が木を突き抜けるなど、特徴的なパターンが見られた。しかし、新作には純然たる木彫作品もある。どうやら彼は新たな領域へ踏み込もうとしているようだ。展覧会タイトルの「回帰」が何を表わしているのか、次の個展を見ればその答えが明らかになるだろう。

2012/06/02(土)(小吹隆文)

川北ゆう個展 はるか遠くのつぶ

会期:2012/06/01~2012/06/30

eN arts[京都府]

川北といえば、水溶性シートに線画を描き、水をたっぷり沁み込ませたキャンバスに貼ることで、崩壊しながら定着する様を見せる平面作品が思い出される。本展でもそうした作品が出品されたが、同時にまったく新しいタイプの新作も披露された。それらは浅く水を張った水槽にタイルを沈め、水面にインクを垂らすと比重の重いインクが沈み、タイルの上に風紋を思わせる繊細な模様が描き出されるというものだ。どちらも水の性質を利用した作品ながら、イメージはまったく異なる。それでいて非常に魅力的だ。川北の表現に新たな方向性が加わったことを素直に嬉しく思う。今後の活躍がますます楽しみだ。

2012/06/02(土)(小吹隆文)

Seeds 河原林美知子 展

会期:2012/05/19~2012/06/02

ギャラリーギャラリー[京都府]

弾力のあるメッシュの布地を丸める、ひねるなどして造形し、天井から吊るしたインスタレーション。白い布地が有機的な形態を描きながら浮遊する様は、海中や森の中の風景を思わせる。真っ白な空間を満たす光との相性も良く、見飽きることのない美しい空間が形づくられていた。驚くべきはその造形方法。どのオブジェも布地を仮留めしただけで、ほどけばもとの1枚の布地に戻るのだ。まさにファイバーアートならではの発想であり、この制約があったからこそ豊かなフォルムが生まれたのであろう。

2012/05/30(水)(小吹隆文)